第4章:モデル事業
1. モデル事業の概要
本事業におけるモデル事業の目的は、実際に理学療法士や作業療法士として勤務する既卒者の中で、再度解剖学を学びたいと考えている者を募り人体解剖実習を受けられるよう解剖実習セミナーを企画することである。これは「個々の専門学校独自での人体解剖実習導入ではなく、各地域全体をまとめた受け入れ体制と教育方法を整えることが大切であり、そのためのシミュレーションを行う」(第1章の事業概要(1)第二の目的)とした人体解剖実習のシミュレーションとしての意味合いに含めて、「コメディカルの卒前教育としてだけではなく、現に資格を持った現職コメディカルスタッフとして勤務している者で、学生時代には充分な解剖実習を受けられなかった者や、受けてはいるが臨床現場に居る中でより一層人体解剖実習の重要性を認識し始めた既卒者のためのリカレント教育」(事業目的の第三)として今後の人体解剖実習教育、特に卒後教育のモデルとなるような事業を企画した。
2. 対象地域の選定
シミュレーションとしてのモデル事業を行う対象地域は以下の条件を元に選定された。第一に現在人体解剖教育、特にコメディカル養成校卒後の人体解剖実習セミナーなどが実施されていない地域である事。第二に卒後解剖学セミナーなどが実施されている地域から地理的に遠く卒後人体解剖教育を受ける事が困難である地域である事などである。
第一の条件として挙げた人体解剖実習セミナー(実施施設ごとで名称は異なる)は、北海道、関東、東海、関西、四国、九州などの特定の大学で開催されており、これらの近隣地域は除かれる。第二の条件として挙げた、これらのセミナーへ宿泊なしで参加可能な地域、あるいは宿泊を必要としても高額な交通費(航空運賃など)を使わずに参加可能な地域は除かれる。
これらの条件を考慮して地域を選定すると、鹿児島県、沖縄県などが挙げられるが、移動費用の額から沖縄県が最も卒後解剖学セミナーを受けるには困難な地域であろうと考え選定した。
3. 対象施設
対象となった沖縄県には医学部を有する大学は琉球大学のみであるため、琉球大学医学部解剖学第一教室を対象施設として依頼した。
4. 実習窓口機関
卒後解剖実習の希望者を募り対象施設での実習を行う準備をする窓口となる機関として、実習施設の琉球大学と10年以上解剖学教育でかかわりのある医療法人おもと会沖縄リハビリテーション福祉学院を選び依頼した。
5. 実施計画
本事業のモデル事業としての卒後人体解剖学実習は、新たに解剖実習セミナーを設定するのではなく、琉球大学が通常実施している理学療法士・作業療法士学生への解剖実習に卒後実習志願者を同行させ、卒前学生と同じ会場、時間で実施するものとした。本来ならば札幌や名古屋などで既に実施されている解剖実習セミナーのような実習を企画すべきであるが、本事業が単年度事業であることや、事業開始が遅く、十分な企画検討時間が取れなかったため今回のモデル事業としては、現に実施されている理学療法士・作業療法士養成校の解剖実習に現職理学療法士や作業療法士を同行・参加させる形態で実現することとなった。実習回数も養成校の学生と同じ5回とした。実施期日は不規則となっている。これは受け入れ施設の大学医学部の医学生のための解剖実習に並行する形態であるため医歯学生の解剖実習スケジュールの妨げとならないようにするためである。
●モデル事業名称:理学療法士・作業療法士卒後人体解剖実習
●実習期日:(1)平成16年11月17日、(2)12月1日、(3)12月15日、(4)平成17年1月19日、(5)2月2日
●実施時間:午後6時半〜午後10時
●実施場所:琉球大学医学部解剖法医実習棟
●受講料:沖縄リハビリテーション福祉学院聴講生規定に準ずる
6. モデル事業実習参加者の選定
モデル事業としての人体解剖学実習への参加者は窓口となった沖縄リハビリテーション福祉学院の理学療法学科、作業療法学科を介して本事業の検討委員でもある山元学科長、奥村学科長、それに本事業事務局から与那嶺委員が参加して選定を行なった。
モデル事業:卒後人体解剖実習参加者リスト
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職種 |
氏名 |
所属 |
出身養成校 |
1 |
理学療法士 |
下田靖 |
潮平病院 |
沖縄リハビリテーション福祉学院理学療法学科卒 |
2 |
理学療法士 |
久高将臣 |
オリブ山病院 |
沖縄リハビリテーション福祉学院理学療法学科卒 |
3 |
作業療法士 |
池田真一 |
大浜第二病院 |
阪奈リハビリテーション専門学校作業療法学科卒 |
4 |
作業療法士 |
城間えりか |
豊見城中央病院 |
沖縄リハビリテーション福祉学院理学療法学科卒 |
5 |
理学療法士 |
比嘉裕 |
大浜第一病院 |
沖縄リハビリテーション福祉学院理学療法学科卒 |
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参加者は窓口である沖縄リハビリテーション福祉学院卒業者を中心としたが、沖縄県在住の理学療法士、作業療法士であれば良いものとした。前ページにモデル事業参加者リストを示す。参加者は理学療法士3人、作業療法士2人であった。出身の養成校は人体解剖実習モデル事業窓口施設であった沖縄リハビリテーション福祉学院出身が理学療法士3人、作業療法士1人、沖縄リハビリテーション福祉学院以外の出身者は作業療法士1人のみであった。
7. 参加者の実習志願書と履歴書
モデル事業の参加希望者には、事前に人体解剖実習志願書と履歴書の提出を義務付けた。志願書には志望理由や臨床経験との関係、今回の実習で特に自分の課題とすることなどを書いてもらった。全参加者の実習志願書は、別紙の「実習志願書」に掲載した。
8. 解剖実習オリエンテーション(篤志献体協会作成ビデオ使用)
モデル事業としての解剖学実習は、窓口施設の沖縄リハビリテーション福祉学院理学療法・作業療法学科の学生と同じオリエンテーションを実施した。オリエンテーションでは、献体についての簡単な説明、御遺体に敬意を払う事、解剖実習の流れ、課題などが説明された。
モデル事業参加者は学生とは別に篤志献体協会から出版されているビデオ「コメディカル人体解剖実習」を視聴させ与那嶺委員が解説した。さらに奥村作業療法学科長と与那嶺委員で卒後人体解剖実習の心構え、献体について話した。
9. 参加者の実習報告書
参加者は終了後、報告書を作成し事務局に提出した。全参加者の実習報告書は別紙の「実習報告書」に掲載した。
10. 参加者の実習感想
参加者は終了後、実習感想文を書き事務局に提出した。全参加者の実習感想文は別紙の「実習報告書」に掲載した。
1. 理学療法士協会・作業療法士協会などコメディカル関連職能団体への働きかけ
社団法人日本解剖学会が設置しているコメディカル解剖教育委員会のような委員会を、理学療法士協会や作業療法士協会がそれぞれ設置する。これらの各委員会は理学療法士教育および作業療法士教育における解剖学のあり方、解剖学実習のあり方などを検討し、文部科学省や厚生労働省への具体的な働きかけを検討することができるであろう。本事業の目的である人体解剖実習の理学療法・作業療法教育への本格的導入の準備体制整備の第一歩となる。そして各関係省庁への具体的働きかけの際に本報告を各省庁に現状の資料として持参提出することができるであろう。
2. 各養成校に対する献体運動などについての啓発運動
(1)篤志献体協会作成のコメディカル解剖説明ビデオの配布→ビデオをDVDあるいはCD-ROMとして報告書と同封して送付する。著作権の問題があるため3月末の篤志献体協会の理事会まで待たなければならないが、献体協会関係者の話によれば、おそらく了解をいただけるであろう。6本のビデオをそのまま見せるだけでは十分ではないのでこれらのビデオを作製した会社と連絡を取り、これまでの経緯などを含めたイントロとなるような部分を新たに作成して統合したものを配布すべきであろう。さらにこれらの作成・編集は本事業内で実施するのが望ましいであろう。
(2)各地域の医学部と連携した献体運動への積極的参加(全国の理学療法士養成校、作業療法士養成校の学生に献体パンフレットを配る等)。
(3)献体登録者との交流として、各地の献体登録者団体会長あるいは会員の講演を各都道府県の理学療法士会、作業療法士会の主催あるいは各地の理学療法士・作業療法士養成校の主催で企画・実施していく。また、篤志献体協会が作成した献体啓発ビデオのような「献体登録者の声」を中心に集めて編集したコメディカル解剖献体説明ビデオのようなビデオを作製し各養成校の副教材、各都道府県理学療法士・作業療法士会の卒後教育教材として配布する。
3. 本事業の継続
本事業はコメディカル教育、特に理学療法士および作業療法士教育における人体解剖実習教育の本格的導入を目標として開始されている。今回の単年度事業では準備体制整備の最初の段階のみが達成されたに過ぎない。すなわち、第一の目的、わが国の理学療法士・作業療法士教育における解剖学教育、特に人体解剖学実習教育の現状の把握。第二の目的、実際にリハビリテーション医療の一部としての、理学療法サービス、作業療法サービスを提供する現場の理学療法士、作業療法士のニーズ把握であった。目標は調査のみではなく、この調査を本格的導入に活かさなければならないのであるから、次の段階へと進む必要がある。それはすなわちコメディカル解剖実習教育事業の継続である。
今回の検討委員会メンバーの中から次年度の担当を選定し継続して文科省委託を受け、同一事業として本事業を継続する。文部科学省専修学校先進的教育研究開発事業としての継続が望ましいが、本事業と同様の専修学校先進的教育研究開発事業として実施する場合、専修学校であることや文部科学省管轄であることなどが資格要件となるであろうから、事業に参加しモデル事業担当校となった沖縄リハビリテーション福祉学院や、本事業以前からコメディカル解剖実習に取り組んできた名古屋大学が該当しないことになる。その場合は地域的にも東京は有利であるが今後の担当は少し検討が必要と思われる。
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