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第1章:目的及び事業概要
1. 目的
 日本の医療水準の向上を目指し日本解剖学会、日本篤志献体協会等は理学療法士・作業療法士などのコメディカルへの人体解剖実習の門戸開放を進めようとしている。これを受け、受益者側の専門学校が全国規模で協力し人体解剖実習の準備体制を整備し、その効果を普及するため複数校でシミュレーションし、その教育方法を研究開発する。
2. 概要
(1)事業の目的
 超高齢社会の到来を受け、社団法人日本解剖学会、財団法人日本篤志献体協会、篤志解剖全国連合会などを中心として、理学療法士・作業療法士などコメディカル教育への人体解剖実習の導入について数年にわたり検討が進められている。しかしながら、その直接的な受益者である養成校側の準備はできているであろうか。コメディカル側も人体解剖実習を切望する以上、必要な受け入れ準備を整える必要がある。
 第一に、これまでに行われた調査結果を踏まえて、より正確な現状把握調査を行う。これは、単なる現状把握のための調査ではなく、人体解剖実習に向けて必要な準備状態とは何かを各養成校がどの程度認識しているかを確認するものである。
 第二に、さらに進んでこれまでのように個々の専門学校独自での人体解剖実習導入ではなく、各地域全体をまとめた受け入れ体制と教育方法を整えることが大切であり、そのためのシミュレーションを行う。
 第三に、コメディカルの卒前教育としてだけではなく、現に資格を持った現職コメディカルスタッフとして勤務している者で、学生時代には充分な解剖実習を受けられなかった者や、受けてはいるが臨床現場に居る中でより一層人体解剖実習の重要性を認識し始めた既卒者のためのリカレント教育として、卒後解剖講習のニーズや実施の可能性などを探っていく。
 
(2)研究開発の内容について
1)卒前教育における人体解剖実習
(1)現状把握:先行研究を基に、準備体制整備を目標とした詳細な調査を行う。全国に地域担当校を決め、事業目的を説明し、学会・協会・全連などの協力を得て協同で調査する。今回調査の特徴として、倫理的問題、準備体制としての補助教員の教育の問題、経済的問題への認識などが調査項目に入る。
(2)準備体制の検討・提案:調査結果を受け、各地域委員とコメディカルの人体解剖実施検討会議を持ち、望ましい準備体制を提案する。
2)卒後教育における人体解剖実習
(1)ニーズの把握:ランダムサンプリングで、全国のコメディカルスタッフに対し、卒後人体解剖実習のニーズ調査を行う。この際には、セミナーとして受ける際の希望地域、希望期間、内容なども項目として組み込む。
(2)準備体制の検討・提案:調査結果を受け、各地域委員と会議を持ち、望ましい準備体制を提案する。
3)人体解剖実習がコメディカルスタッフ養成に裨益するための教育方法の研究開発
 コメディカルスタッフ養成の専門学校において
(1)人体解剖実習を何年度にどの程度の時間数組み入れるのが最も効果的か。
(2)人体解剖実習をカリキュラム編成する場合の問題点、専任教員の解剖実習時の資格、関係機関との協力体制をどう組むべきか。
(3)各専門学校における困難は何か等を調査し、その調査を通して専門学校における人体解剖実習の教育方法を研究開発する。
 
(3)ニーズ調査、実態調査、実地調査等各種調査について
1)卒前教育における調査(1)は、全国の理学療法士や作業療法士などのコメディカルスタッフ養成校を対象とする。調査内容は上述の通り。
2)卒後教育としてのニーズ調査として(1)の調査を行う。この調査では対象となったコメディカルスタッフ自身の卒前教育における解剖実習の内容や時期、倫理的問題への関心なども含まれる。
3)教育方法の研究開発に関してはコメディカルスタッフ養成校を対象として調査し、人体解剖実習のカリキュラム編成のあり方をシミュレートする。
 
3. 各委員会の役割
 実施委員会は全国を(1)から(5)までの5つのブロック(北海道、東北・関東、中部・関西、九州、沖縄)に分けた各地域の地域委員(与那嶺委員は事務局と兼任)と事務局で構成され、実態調査・ニーズ調査などを実施・集計・分析などを行った。各地域には2名ずつの委員を置いた。地域委員の中には理学療法士協会会員の委員と、作業療法士協会会員の委員が入っており、各地域及び全国の理学療法士・作業療法士協会組織と連携を取った。
 検討委員会は調査用紙の作成から調査実施の管理・分析を担当し、調査の結果にあわせながら準備体制の整備の具体的方法を検討した。社団法人日本解剖学会、財団法人日本篤志献体協会、篤志解剖全国連合会につながりのある内野検討委員長は、解剖学会側との橋渡しおよび情報提供を行い、社団法人理学療法士協会会長である中屋委員は理学療法士・作業療法士協会との橋渡しと情報提供を行った。
 報告書作成委員会は各委員会からの報告を受け報告書をまとめた。事業統括は事業全体の運営統括と経理を担当する。事業実施協力者は、本事業の推進に協力をいただいた解剖学領域、コメディカル領域の方々である。
 
1)検討委員会名簿
(1)内野滋雄 敬心学園臨床福祉専門学校校長
検討委員長 事業統括
(2)与那嶺司 敬心学園臨床福祉専門学校教員
(3)河上敬介 名古屋大学医学部助教授
(4)中屋久長 高知リハビリテーション学院学院長
 
2)実施委員会名簿
(1)高田治実 敬心学園臨床福祉専門学校教務部長
実施委員長 事業統括
(2)与那嶺司 敬心学園臨床福祉専門学校教員
(3)奥村好誠 第一リハビリテーション専門学校
(4)田中利昭 第一リハビリテーション専門学校
(5)富永 淳 札幌リハビリテーション専門学校
(6)黒澤辰也 札幌リハビリテーション専門学校
(7)高橋輝雄 東都リハビリテーション学院
(8)山元総勝 沖縄リハビリテーション福祉学院
(9)奥村チカ子 沖縄リハビリテーション福祉学院
 
3)報告書作成委員会名簿
(1)高橋輝雄 東都リハビリテーション学院
(2)与那嶺司 敬心学園臨床福祉専門学校教員
(3)河上敬介 名古屋大学医学部助教授
(4)山元総勝 沖縄リハビリテーション福祉学院
 
4)事業実施協力者名簿
(1)石田 肇 モデル事業協力
琉球大学医学部医学科形態機能医科学解剖学第一分野教授
(2)坂井建雄 調査紙作成、事業推進協力
順天堂大学医学部解剖学第一講座教授
(3)佐藤 巌 調査紙作成、事業推進協力
日本歯科大学歯学部解剖学第一講座教授
(4)加藤宗規 調査実施、事業推進協力
東都リハビリテーション学院
(5)坂上 昇 調査実施、事業推進協力
高知リハビリテーション学院
(6)溝田康司 調査紙作成、調査集計協力
 
第2章:コメディカル教育における解剖学教育の実態調査(卒前調査)
1. 調査の目的
 小林ら注1)による報告などこれまでに行われたコメディカル側への調査を参考に、大谷ら注2)によって行われた解剖学教室側への調査に対応する形での質問紙によって調査を行った。特に理学療法士と作業療法士に限定したコメディカル教育の実態調査を行った。
注1)小林邦彦 コ・メディカルのための人体解剖のあり方と健康科学的情報の利用に関する調査研究
平成14年度 科学研究費補助金研究成果報告書 2003年3月
注2)大谷修 コメディカル解剖学教育の現状と展望 コメディカルの解剖学実習教育―大学としてどう取り組むか― 公開シンポジウム抄録集 2004年11月
 
2. 調査対象
 平成16年7月時点で開設されている理学療法士養成校172校、作業療法士養成校151校。
 
3. 調査方法
 郵送により調査紙配布、郵送により回収。
 
4. 質問紙の作成
(1)参考資料
 質問紙の設問の参考資料として平成15年3月に報告された財団法人日本篤志献体協会発行の「コメディカル教育における人体解剖実習についての調査」報告書を用い、調査委員である日本歯科大学解剖学教室佐藤巌教授の指導より、終了した調査の質問紙と医学部対象の調査用紙などを参考に設問項目の選定を行った。
(2)調査事項
1)養成校教育形態と解剖学実習内容
2)剖出実習実施の有無と内容
3)剖出実習希望の有無と内容
4)卒後教育としての解剖実習
5)献体運動と法律の理解
 
5. 調査実施期間
 平成16年8月10日〜10月10日。送付した質問紙表紙に、「平成16年10月8日までに投函してください。」と表記し、締め切りを平成16年10月10日とした。ただし、事業開始時の実施委員会で締め切り後に督促をする事を決定していたため、平成16年10月10日までに到着していない養成校に地域担当委員で電話をして返送を促した。最終的な締め切りは平成16年11月16日とし、集計した。
 
6. 調査結果
1)回収率
 理学療法士養成校:172校送付中128校より回答あり、有効回収数127校。有効回収率73.8%であった。作業療法士養成校:151校送付中103校より回答あり、有効回収数101校。有効回収率66.9%であった。
 理学療法士・作業療法士養成校合計:323校送付中231校より回答あり、有効回収数228校。有効回収率70.6%であった。
2)結果(内容)
 設問順に結果を述べる。本文中および図表中のPTは理学療法士養成校、OTは作業療法士養成校を示す略称として用い、全体とは理学療法士養成校、作業療法士養成校をあわせたデータを意味する。
 
第3章:現職コメディカルスタッフにおける解剖学実習のニーズ調査(卒後調査)
1. 調査目的
 理学療法士・作業療法士養成校を卒業し、現に理学療法士・作業療法士として勤務している者が、臨床現場で患者や利用者の対応をする中で、人体解剖実習へのニーズが変化しているかどうかを調査する。合わせて養成校での人体解剖実習を始めとする解剖学教育についての調査も行う。
 
2. 調査対象
 調査対象は平成16年7月時点で社団法人理学療法士協会に入会している会員と、社団法人日本作業療法士協会に入会している会員とした。理学療法士の調査対象者は、理学療法士協会の34,600人の会員を母集団とし、その中の2,999人を標本として抽出した。作業療法士の調査対象者は日本作業療法士協会の23,101人の会員を母集団とし、その中の2,261人を標本として抽出した。
 
3. 標本抽出方法
 単純無作為抽出法。
 理学療法士協会と作業療法士協会に依頼文を送って趣旨を説明し了解を得た。理学療法士協会では会員番号は不連続な番号を使用しているとのことで、一旦全会員34,600人分の番号のみを送付してもらい、サンプリングソフトMCardDB Professional Edition(シェアウェア)注1)を用いてランダムに並べ替え抽出した3,000人分のサンプル番号を再度理学療法士協会に返送し、該当する会員のデータのみを再送付していただいた。そのうち1名分の住所が使用不能となったため、実際に郵送した標本数は2,999件となった。
 作業療法士協会は23,101人の会員がおり、会員番号が通し番号となっているため、予めMCardDB Professional Edition(シェアウェア)で発生させた2,500人分の乱数データを事業事務局から作業療法士協会に送付し、該当会員のデータをタックシールとして返送していただいた。実際には送付した2,500人分の番号は会費未納退会や死亡などの脱会により減少し、最終的に作業療法士協会から返送されたデータは2,261人分であった。
注1)中村哲也
 
4. 調査方法
 郵送法(宅配便業者によるメール便)により配布、郵送法(同封の返信用料金後納郵便)により回収。
 
5.質問紙の作成
(1)参考資料
 先に作成した卒前教育調査用質問紙を参考にして理学療法士・作業療法士個々の条項を考慮に入れて作成した。
(2)調査事項
(ア)プロフィール
(イ)授業で経験した解剖実習教育
(ウ)卒後教育としての解剖実習
(工)献体および法律の理解
 
6. 調査実施期間
 平成16年10月7日〜11月20日。送付した質問紙表紙に、「平成16年10月31日までに投函してください。」と表記し、締め切りを11月20日とした。
 
7. 調査結果
1)標本数および有効回収数
標本総数5,260件
回収総数2,170件、有効回収総数2,130件
(回収率40.5%)
理学療法士標本数2,999件
理学療法士回収数1,303件、有効回収数1,275件
(回収率42.5%)
作業療法士標本数2,261件
作業療法士回収数867件、有効回収数855件
(回収率37.8%)
 
2)結果(内容)
 調査設問順に結果を述べる。本文中および図表中のPTは理学療法士、OTは作業療法士を示す略称として用い、全体とは理学療法士、作業療法士をあわせたデータを意味する。


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