日本財団 図書館


「盤洲干潟をまもる会」ヒアリング
日時:2004.9.27 14:00〜16:00
場所:木更津市内某ファミリーレストラン
対象者:藤平 量郎(代表)、田村 満(会員)
ヒアリング実施者:鈴木 覚、赤見 朋晃、櫻井 一宏
 
■ 会の沿革
 1987年、盤洲干潟小櫃川河口域の愛好者により「干潟クリーン作戦実行委員会」として発足。基本的に自然干潟をまもることをスローガンとして立ち上げた。1989年、「干潟まつり実行委員会」として再発足。1999年、干潟まつりの主会場であった埋立て地(通称3万坪埋立地)が売却され開催場所を失ったことを契機に2000年、「盤洲干潟をまもる会」として現在に至る。
 
■ 活動経緯
 当初はクリーン作戦(清掃活動)が中心であったが、干潟祭(平成1〜11年)の開催によって活動が大きく展開。最後の開催となった第11回には参加者が2,000人を超えた。現在は干潟クリーン作戦、干潟観察会を継続し、また、各種自然保護イベントに参加している。
 その他、自然保護区の拡大や干潟の博物館建設のための署名運動など、多くの提言、活動を各方面に行ってきた。webサイト(http://www.geocities.jp/banzuhigata/)を運営。
 
■ メンバ
 地元有志が中心。日本野鳥の会はじめ他団体との交流もある。
 
■ 理念
 ただひたすらに自然保護ではなく、盤洲干潟の重要性を地元木更津市の市民、東京湾岸の市民に認識してもらうことが最も重要と考える。そのためにこの場を体験してもらうことが必要というスタンスで各活動を進めてきた。
 
■ 他団体との関係
 地元漁協とは基本的な考え方が異なっているようで親密な関係ではない。日本野鳥の会や婦人団体、木更津高校などとはイベントを中心に協力体制ができている。また、一部地元住民(漁協関係者含む)ともイベント時などには協力して活動。
 また、NPO法人盤洲里海の会とも意見交換をしている。今後も交流してゆきたいし、彼らに期待をしている。
 
■ 問題点
・開発行為は最大限避けるべきであり、これまではコンクリート護岸や施設建築による生態系の破壊が著しい。
・東京湾全体として取り組むという視点がない。
・行政は常に様子見であり、具体的実効的アクションは皆無。
・保護区設定に関する要望を行政へ提出しても、最終的なプロセス「慣例としての地元の合意」というところで実現しない。
・県による3万坪の埋立地とその売却の過程で金銭的な問題があった。
・地元漁協は自己の利が中心で海や干潟に関しての保全や保護という理念がない。漁業専業者が1/4ほどとなっていることも原因かもしれない。
・某施設建設に当たり、漁協は240億円という補償金を某公団から得た。
・海岸、干潟については一般の地元住民は意識があまりなく、漁協関係者など直接利害のある人だけしか認識していない。それだけに、関係者以外は意見することなどは憚られる。
・対岸(川崎方面)からアシハラガニを大量に捕獲しに来る(釣りエサとして市場価値がある)業者がいた。(昨年より車両進入禁止措置によりなくなる)
・環境基準が存在するが、それをクリアしている排水によってさえ影響を受けているように思われる。(干潟周辺の水質はもともと水準が高いため)
・宿泊施設などの人為的影響が大きいと考えられるが、正確な因果関係は不明である。
・公的機関、大学関係者などの研究関係者が生態や生物に関する幅広い調査をしているが、その成果が地元には反映されていない。
・コアマモがなくなってきている。
・猟友会?(鴨撃ちの人たち)による影響がある。特に猟解禁日から1週間程度。
・最近はこのあたりで生産されるノリと比べて、富津のノリの質が向上している。
 
■ 今後の展望、期待
・東京湾で唯一の自然干潟を活かしたエコツーリズムをすべきで、これによって地元振興、まちづくりのよい着眼点になるはず。
・環境教育を充実させるべき。
・エコツーリズム、環境教育等の地域連携の拠点として、ビジターセンターなどを内陸部に建設すべき。
・干潟を中心にした自然保護に関する法律(条例)をつくるべき。
・幸いにも現在残っている周辺の地区は全て公有地なので、とりあえず開発されることはないのではないか。
・保護区にする(しない)とどうなるか、生物や生態系への影響をシミュレーションするなどしっかりとした調査を行うべきである。
・NPO法人盤洲里海の会の活動には非常に期待しているし、交流も進めてゆきたい。
・干潟に人を拒んでいるのではなく、なるべく負荷をかけないで活用し、最終的に保全してゆくという方向性でやっていきたい。
 
■ 所感
・基本として自然保護、干潟保全が当会(今回のメンバ)の考えのベースであるが、そのためには地元も含めて干潟に来てもらい、広く認知してもらうことで最終的に保全という流れをつくりだしたいというスタンスのようにみえた。
・今回お話をうかがったメンバは、干潟保全について真摯に考え、各種活動を長期間推進してきたが、本質的な施策としてはほとんど実現できず、また、ご自身たちの年齢なども省みると、一種あきらめのような気持ちもあるようであった。
・NPO団体や他の住民などによる新しい動きに期待したいし、それらとうまく連携できればという意識もあるようだが、どちらかというと主体的というより受身的に思えた。
・当事業として何が目的でどう地元に貢献できるのかを明確にした上で地元各団体にあたらなければならないであろう。彼らとしては数多くの同様の調査を経験してきたであろうし、それらを含めて何ら具体化していないところにストレスを感じているようにみえた。
・事業の展望に関して、今年度は地元の現状や意見を掴み、展開できそうなテーマ(実際に地元で動きつつあるもの)を具体的に絞り、その中で沿岸管理に関連する諸問題とそれらへの対策について整理するという作業を進めるとよいのではないか。
・市長を含めた行政の役割が大切で、リーダーシップを発揮して欲しい。
・盤洲干潟はアシハラから続く自然の干潟として唯一東京湾に残された干潟であり、エコツーリズムや環境教育の場として非常に貴重な場である。しかし、その保全に漁協が非協力的で、開発に歯止めがかからず、また市を干潟の活用には踏み出していない。
・干潟を自然保護区域としてなんらかの法的な網をかぶせたいが、地元が賛成しないため実現に至っていない。市としてもっと説得して欲しい。NPOでは説得は困難である。
・里海の会はわれわれに理解を示してくれるが少数派であり、今後に期待している。
・干潟の自然環境を守ることで、結局はアサリなどの資源保護にも生かせることが理解されていない状況である。漁師は、捕ることばかりを考えている。最近では、アサリの粒も富津よりも小さくなっている。そうした問題点を説得できないでいる。
・また、アシハラガニを大量に取りにくる人がいる。車のナンバーから対岸の人と思われる。何万匹も捕ってしまう。これでは干潟の自然が破壊されてしまうので、アミをかぶせて(規制して)欲しい。昨年から、車の入場ができないようにしたら、アシハラガニの捕獲は収まったようだ。
・干潟は君津、木更津、袖ヶ浦の3市の環境教育の場として生かしていくのが会の目標になっている。そのためには、ネイチュアーセンターを設立できるといいと考えており、より多くの市民に親しんでもらえるようにしたい。特に、山側の市民(最近移り住んだサラリーマンなどの世帯)はここに、すばらしい自然の干潟があることをほとんどしらない。また、干潟背後の未利用地に干潟博物館を作るように平成2年から著名活動もやっている。
・数年前までは、干潟祭りをやっていて、最大2000人くらいの人が集まったが、駐車場にしていた埋立地の空き地が、ホテルとなったため、会場がなくなり開くことができなくなってしまった。干潟については以前は、木更津高校のフィールドであったり、たこの会の人たちの協力も得て、凧揚げをやったりして盛況であった。もともと会の名前は平成元年以前には、「干潟まつり実行委員会」であった。
・また、干潟にはコアマモが多く生えていたのだが、最近はほとんどみかけない。これは、ホテルの排水の影響という意見もあるが、ホテルの雑排水はむしろ栄養分であり、小櫃川から流入する残留農薬の影響ではないかと考えている。もっとも、農薬の中には、すぐに分解する性質のものもあるらしくそれを明確にするのは非常に困難であるが。国立環境研究所で調べていると聞いている。
・ここは、野鳥観察や、干潟の生き物、植物調査など多くの大学や研究者が訪れており、また釣り人も多い。野鳥は谷津干潟とくらべても種類数が多く(これまで230種確認されている)野鳥好きの人にはたまらない場所である。
・しかし、アシハラの外側は鳥獣保護区になっていないため、毎年11月15日ごろから猟が始まり、一斉に散弾銃でカモを狙い撃ちする。1〜2週間でとりはすっかりいなくなってしまう。また、薬きょうや散弾があちこちに落ちている。このようなことで、鳥獣保護区の設定を申請するが、地元の反対もあってうまく行っていない。地元の反対は、カモ(スズガモ)がアサリを食べるため、害鳥とみなしていることも要因である。しかし、それがどんな影響があるのかは科学的に解明されていないため、説得力を持って地元に説明できない。
・アサリ資源が減っていることについて、休漁期を設けるように提案するが、それではやらない時期の収入をどうしてくれるか?と反問されるとNPOの力ではそれ以上答えられず、残念である。他の地域(例えば、秋田ではハタハタ)では資源復活に漁協も取り組んでいるのに、ここではいまだに捕るだけの漁業である。
・このような科学的な実証については、行政がぜひ取り組んで欲しい。
・しかし、行政は熱心な人がたまにいても、2年たったら変わってしまい、また最初から干潟の大切などを訴えなくてはならず、非常に苦労しているが、成果は少ない。
・干潟の自然を保全し、多くの人に触れてもらうことで、地域も活性化するのに、賛成するのは与平(民宿)など少数派である。ここでは、アクアラインのとき保証金として240億ももらっており、そうした利権(海がなくなったときにお金がもらえる)が目当てのひともいるので、なかなか地域全体の声にならず問題が多い。
 
以上
 
「木更津市役所」ヒアリング報告
日時:2004.11.09 13:30〜16:00
対象者:木更津市役所企画調整室ほか
ヒアリング実施者:鈴木 覚、櫻井 一宏
 
■ 木更津市概要
 千葉県南部、内房地域に位置し、人口122,807人(平成16年10月1日現在)、世帯数45,512世帯、市域面積138.66km2(平成13年10月1日時点修正)。JR木更津駅周辺に中心市街地が展開しているが、全国的に地方都市の市街地衰退が顕著であるのと同様、「シャッター通り」が目につく。同駅中心にJR内房線沿いに人口が張り付く。東京湾アクアライン開通に伴って金田地区に住宅開発が予定されているが、現在は停滞中。
 
■ 干潟の周辺環境
 内房線は市域の西側、海から数kmのところを南北に縦断しており、この間は田畑や自然に恵まれている。海岸線は、袖ヶ浦から自衛隊の基地までの範囲が自然海岸として残されており、自衛隊駐屯地の敷地前も良好な干潟になっている。一方、君津から富津までは埋立開発が進み、人工護岸になっているため、市としても、首都圏近傍に残された自然として盤洲干潟は貴重であると考えている。
 木更津港は、かつては川崎、横浜へのフェリーが就航していたが、東京湾アクアライン開通に伴い廃止され、今では君津や富津で採取される砂利を運搬する役割を主に担っている。また、プレジャーボートの不法係留も少なくなく、マリーナの整備も進めている。
 
■ 盤洲干潟
 盤洲干潟では、約2kmまでは遠浅になっており、そこから一気に水深30m付近まで落ち込む。遠浅の部分を前浜といい、潮が引いていれば腰高の深さになる。盤洲干潟は市の境界から自衛隊付近まで全体を指し、小櫃川河口干潟は河口部周辺の干潟を指している。後浜は、塩性湿地になっているところである。後浜にはクリークがあって、潮が高くなると海水が浸入する。植栽も内陸の植生ではなく、ヨシや海浜性の植物が繁茂している。後浜に円形の形をした池があるが、これは昭和30年代ごろに、旧通産省が、海水から工業用水を取り出す目的で行った淡水化実験施設であり、関連する施設の残骸とともに、現在もそのまま残されている。
 
■ 干潟と海岸の現状
 市民が海辺に親しむ活動としては潮干狩りが主なものである。しかし、前浜は漁業権が設定されており、一般の人は入りにくくなっている。盤洲干潟の前面は金田海岸、小櫃川河口周辺が久津間海岸になって、それぞれ漁業権が設定されている。小櫃川河口干潟周辺はアサリの育成場所になっており、アサリが湧く場所で・海の畑であり、一般の人が入り込むことにはかなり抵抗がある。また、鳥もアサリを食べるので、県の自然環境保全地指定には賛成できない。
 
■ 干潟の保全問題
 自然環境保全地域指定の問題は、地元関係団体の利害が調整できないため、うまくいっていない。地元の合意が得られず、三番瀬のような大々的なものではないが長く地道に関連団体、地元関係者等との調整を行ってきたが、漁業等の経済的な問題もあって決着できないでいる。今は調整不可能な状態である。
 ホテル三日月の計画に際しては、その排水の出す影響はないことや、地元(漁協関係者が中心と思われる)がその土地を使ってほしいという要請もあったことから開発が決定した。その後、ハママツナの群落が枯れてしまったことから、三日月からの温泉排水の影響ではないかという意見書が出され、県としても調査を行ったが、原因は不明のままである。
(河川の影響も考えられる。ちなみに小櫃川の流量は10万m3/日である。)
 
■ 干潟利用について
 小櫃川河口干潟は、自然が残る干潟で貴重であり、有効に利用できないかということで、県でも体験型修学旅行の誘致やブルーツーリズムを計画している。現在、木更津市における観光のほとんどは潮干狩りであるが、単にこれだけでは学校団体も来ないので、体験漁業を進めるべく、現在自然体験リーダー養成講座を地元漁協(漁業者)を対象にはじめているところである。
 潮干狩りに関しては、アサリの稚貝を諫早や韓国から購入して養貝場で育成し、20〜23cmぐらいのものを撒く。それより大きい貝は市場に出荷している。一方、夜になるとアサリの密漁をする人もいるようなこともあり干潟を観光資源として注目しているが、人が入ることに対してはまだ抵抗があり、行政としても保全と観光との両立はなかなか難しいと考えている。
 子どもたちの干潟の利用としては、金田小学校の例がある。金田小学校は中学校まで同じ組みで9年間ほとんどみんな一緒に学ぶ地元の小学校であり、自分の孫のようなものあるので、入ることに特に反対はしないが、よそ者が来たらわからない。
 一方、地元以外の一般市民は、干潟の存在をほとんど知らないこともあり、なかなか(利用していこうという)ベクトルが定まらない。
 
■ 市としての動き
 市として、「木更津は海を生かして活性化していこう」という基本的なコンセプトは持っている。例えば、TMO(タウンマネジメントオーガナイゼーション;商工会中心に設立)などが、内港部分をポートルネッサンスなどの事業を活用して海を生かしたまちづくりを進める取り組みなどを行っている。
 観光面でも干潟、海に関して大いに注目しているが、(干潟を生かした観光を)無制限にやると、自然を壊してしまう恐れがある。
 
■ その他
・アクアラインの開通によってバス便が非常に便利になっている(東京へは、1時間に1本以上あり、帰りにバスで東京に戻ったが、ほぼ満席であった)
・自然をテーマにした研修施設整備の計画もあったが、挫折した。これは、投資に対する回収見込みが立たなかったからではないか。
・潮干狩り観光がメインではあるが、土日に集中し、学校などが平日に来ることは喜ばしいが、単純な潮干狩りだけでは、学校も来ないので、(自然体験活動などと組み合わせて行うことは)うまみのあることだという理解も少しは、漁業でも進みつつある。
・それを合意に結び付けていくために、いくら正論を言っても学者やよそ者が言うのでは受け付けないので、地元の漁師等で、そのような意見に変わってくる金萬のような人が出てくることが望ましい。
・漁師は、一般に人付き合いが嫌いで、一人で黙々とやる人が多く、第三次産業的なことはあまり受け付けない。潮干狩り場では、一人では漁ができなくなった高齢者や婦人が対応している。しかし、保田や金谷ではそうして(第三次産業方向に向かって)いるが、ここではそこまでしなくても漁業で食えているので、むしろ恵まれている。しかし、のりなども昔は食えたが、最近は機械化され、経費がかかるようになったので、結構経営は大変になっている。
・小櫃川河口干潟付近は県有地であり、金田小学校に関連して教職員の(総合的な学習の)研修場所として利用しているようである。その他、国交省などが研究や研修で訪れている。
・その他、干潟のクリンアップ作戦は一般の人も含め、100人を超える規模でやっている。市はゴミ袋など物資の提供や処分などを行い支援している。
・以前に商工会が主催して、小学生などのゴミ拾い活動を行い、その後三日月で風呂に入れるというイベントをやった。しかし、一回だけでその後はやっていない。
・また干潟祭りは以前はやっていたが、今はやっていない。三日月が一定の理解を示せばそこを利用することは可能かもしれない。
・いずれにしても、コントロールされた団体が干潟に入るようなシステムを作る必要がある。
 
■ 所感等
 干潟のエリアについてなど、名称とともに要確認。
 環境面では、特に自然環境保全地域指定に関して、漁協、保全団体など各主体間の調整を市として長期間にわたり行ってきたが、現在までまとまることはなく完全にストップしている。千葉県としてもその優先度は低く、あまり介入していない。保全を推進している団体が主に2つあり、これはホテル建設をきっかけに分派したらしい。NPO化している団体も出てきているので、今後はそれらの活動に期待したい。
 観光面においては、当市でのメインが潮干狩りということで、市として海は重要な位置づけとなっており、干潟に対する認識もある。しかし、環境教育をはじめ何らかの活動を進める意欲はあるようだが、具体的な干潟を活用した展開がかたちになっているわけではない。
 いずれにせよ、市としては干潟に対しての考え方、接し方などすべてについて模索している段階といえる。地元では一部を除き、一般市民の干潟に対する認識はほとんどなく、これを深めてゆくことも重要な点である。
 
以上


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION