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4. 地域主導の沿岸域管理に関するあり方
4.1 盤洲干潟の機能とその価値
(1)干潟の機能と価値の分類
 一般に干潟には、次のような機能があるとされている(海の自然再生ハンドブック第2巻干潟編)。
■生物生息機能
 干潟には地形や潮汐等の環境の多様性に伴い、様々な生物が生息している。干潟の特徴的な生物として
■干潟域に生息・来遊する底生生物・魚類、動植物プランクトン
■干潟に生息・飛来する鳥類・昆虫類
■湿地帯等に繁茂する水生植物や海浜植物、塩性植物
■水質浄化機能
 干潟では潮の干満に伴い、底泥は水中条件と大気に直接触れる条件を繰り返す。水中にある時は、海水中の懸濁物質は沈殿堆積するほか二枚貝類等の生物によりろ過・補足される。また沈殿した有機物はバクテリアなどの有機物により分解、無機化される。無機化された栄養塩類は、新たな栄養として、植物プランクトンや藻類の生産に費やされる。それらの一部は再び、魚類等に捕食され、干潟周辺から系外に持ち去られ、一部は人によって漁獲される。
 また、干潮時には大気中の酸素が供給され、有機物の分解は促進される。また、大気が触れない低泥の下部についても、ゴカイ類や甲殻類等の生物の巣穴を掘る行為により耕運され、酸素が供給される。これらの生物は、低泥中の有機物を捕食することで、海域の有機物を除去する。さらにその生物を鳥類等が捕食し、人がアサリをとるなどの行為を行うことで、海域にあった有機物は結果として系外に持ち去られる(図4.2)。
 このように、干潟生態系の食物網の作用で、干潟は海水等の浄化を促進する機能を有している。
 
図4.1 干潟の生物の働き
 
二枚貝類による海水の浄化実験
 
ゴカイの巣穴の壁面(土中は黒いが巣穴の壁面は酸素が入るので白っぽい)
 
コメツキガニによって耕運された砂浜
 
図4.2 干潟を取り巻く物質循環と浄化機能
 
■生物生産機能
 生物生産機能とは、一次生産によって支えられた生物生産の場としての機能を示す。一次生産は、海藻や植物プランクトンなどの生物が光合成により有機物を生産することであり、干潟の位置する汽水域は熱帯雨林などとともに、一次生産の最も高い場所である
 
■親水機能
 干潟は都市に近接していることも多く、都市住民が自然と身近に接することのできる貴重な場所である。干潟では、釣りや散策、潮干狩り、バードウォッチングなどが楽しめるほか、近年は環境学習の場ともなっている。
 
図4.3 干潟の親水機能
 
潮干狩り
 
潮干観察会
 
釣りをしている様子
 
■その他
 その他の機能として以下のもの等がある。
■景観構成として審美的な機能を持っている。
■海からの波のエネルギーを減少させる緩衝作用の場としての機能
■学術的貴重種痘の生息の機能
 
 なお、これらの様々な機能ついては、それを利用する人の立場によって利害が対立する場合(トレードオフ)があることを銘記しておく必要がある。
 こうした干潟の機能をふまえた干潟の価値と機能分類を表4.1に示す。これによれば、干潟の価値の多くは干潟の生物・生態系が提供するサービスによって生み出されていることがわかる。
 なお、表4.1においてオプション価値とは、現在は利用していないが、将来利用する可能性があるために、残しておくべき価値のことを意味する。
 
表4.1 海洋の価値と機能及び干潟で評価すべき機能について
(拡大画面:137KB)
 
(2)盤洲干潟における干潟の価値認識について
 表4.2は、表4.1において、盤洲干潟での価値が認識されている機能を抽出したものである。
 
表4.2 盤洲干潟で価値として認識されている機能
資源 価値分類 価値特性 機能 財またはサービス 盤洲干潟で認識されている機能
生物資源 利用価値 直接利用価値 漁業生産機能 魚介類
レクリエーション 釣り、ダイビング、環境教育等
観光機能 シンボル生物など
間接利用価値 浄化機能 有機物分解等の生態系サービス
水産生物育成機能 も場、浅場等の生態系サービス
非利用価値 オプション価値 食料・遺伝子等資源(未利用生物)
生態系サービス
存在価値 希少生物など
空間 利用価値 直接利用 観光資源 景観
非利用価値 オプション価値 埋立用地
存在価値 海辺空間の存在
 
 一方、盤洲干潟においては、表4.2に示したような多様な機能とその価値が存在しており、それぞれの機能間にはトレードオフとなる事項あるいは逆に相乗効果を生む場合も存在する。しかしながら、こうした考え方が地域の中で必ずしも共有されているわけではなく、干潟に関する価値の認識や、考え方はそれぞれの立場でかなり異なっている。
 それぞれの立場を、自然保護型、持続的活用型及び地元利益中心型に分類し、干潟への価値認識及び干潟の管理に対する姿勢をそれぞれ、表4.3、表4.4に示す。
 表4.3によれば、干潟に対する価値観はそれぞれの立場で異なっているものの、価値認識がすぐにでも共有できる干潟の機能やサービスも少なくない。
 
表4.3 干潟に対する価値観の比較
自然保護型 持続活用型 地元利益中心型
生物資源価値 直接利用価値 漁業生産
釣り、ダイビング、環境教育等
観光機能(シンボル生物の存在等)
間接利用価値 有機物分解等の生態系サービス
も場、浅場等の生態系サービス
オプション価値 食料・遺伝子等資源(未利用生物)
生態系サービス
存在価値 希少生物など
空間資源価値 利用価値 景観
オプション価値 埋立用地 ×
存在価値 海辺空間の存在
 
表4.4 干潟に対する3タイプの姿勢
自然保護型 持続的活用型 地元利益中心型
人の手を加えてはならない自然の場 自然を守りながら持続的に活用できる場 生活の場であり、利益を生む唯一の源泉
生態系 生態系を乱す行為、開発は一切認めない 必要に応じて、環境の復元や保全のための人の手入れが必要 水産資源に有効な整備は必要。当面の効率を重視
問題 地域の開発圧力 環境保全に貢献しない開発圧力
漁業の衰退
漁業の衰退(後継者不足、高齢化、収益の低迷)
規制 生態系保護のための規制 持続的利用が可能となるための規制 生産活動に貢献しない規制には反対
連携 自然を保護するための連携・全国的 互い話し合いながら、幅広く連携 外部からの口出しに反対。


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