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3. ヒアリング
3.1 ヒアリング概要
 沿岸域管理を考えるにあたり、盤洲干潟周辺地域の現状や問題点を把握、整理することを主な目的として、千葉県など行政機関、海岸および港湾管理者をはじめ地元の漁業協同組合、地権者や自治会などの住民の方々にヒアリング調査を行うこととした。
 地元漁協などいくつかの機関ではヒアリングを実施できなかったが、結果として地元漁師でNPO法人「盤洲里海の会」の金萬氏、「盤洲干潟を守る会」の藤平氏、田村氏、木更津市企画調整室の地曳氏、商工観光課大森氏、環境衛生課高橋氏、富津市教育委員会の今井常夫氏(元木更津市立金田小学校教諭)、および「盤洲干潟の防人」桐谷氏の各氏に対してヒアリング調査を行った。
 以下に日程、対象者等の概要を示す。
 
(1)第1回ヒアリング
日時 :2004年9月22日 14:00〜16:30
対象者:NPO法人盤洲里海の会
 理事長 金萬 智男(きんまん のりお)
場所 :盤洲干潟付近、金田漁港付近、与兵衛
(2)第2回ヒアリング
日時 :2004年9月27日 14:00〜16:00
対象者:盤洲干潟をまもる会
 藤平 量郎(代表)
 田村 満(会員)
場所 :木更津市内某ファミリーレストラン
(3)第3回ヒアリング
日時 :2004年11月9日 13:30〜16:00
対象者:木更津市
 総務部企画調整室
 経済振興部商工観光課
 環境部環境衛生課管理係
場所 :木更津市役所企画調整室
(4)第4回ヒアリング
日時 :2005年1月28日 13:00〜15:00
対象者:富津市教育委員会 教育部学校教育課 今井 常夫
場所 :海洋船舶ビル10階
(5)第5回ヒアリング
日時 :2005年2月3日 10:00〜12:00
対象者:盤洲干潟の防人・金田の海を守る会代表 桐谷 新三
場所 :桐谷氏自宅、盤洲干潟付近
 
3.2 ヒアリング結果
 ここでは、沿岸域管理に関連して“沿岸域に関する基本的な考え方”、“現状盤洲干潟、小櫃川河口干潟に対する問題の認識”、“盤洲干潟における取り組みとして考えていること”、“合意形成・連携についての考え方”に仕分けして整理し、表3.1〜表3.4に示す。
 詳細な結果については巻末に資料として示す。
 
表3.1 沿岸域に関する基本的な考え方
対象者 沿岸域に関する基本的な考え方
盤洲里
海の会
・干潟やアマモといった漁業としては直接金にならない自然の環境もアサリや有用魚などの生育に貴重であると考えている。
・地域の人々が暮らしていけるように、海を良くしていきたい。
・鹿を保護したら禿山になってしまう。だから、自然に対しては、人間が関与していくことも必要なことである。
盤洲干潟を守る会
・干潟は東京湾に唯一残された完全に近い自然の干潟で貴重であり、エコツーリズムや環境教育の場として重要な場所である。
・干潟の重要性から、環境を損なうような開発や利用(生物の採取や狩猟など)は避けるべきであるが、保護一辺倒ではなく、自然をうまく生かした利用を進めるべきである。
市役所
・海を生かして市の活性化を図るという基本的なスタンスを持っている。
・ブルーツーリズムなど観光レクリエーション面でも、干潟・海について大いに注目している。
・沿岸域の保護か利用か開発かについては、地元や関係者の合意形成に基づいて判断すべきものであり、調整を図るというスタンス。
桐谷氏
・長い歴史が、様々な生き物がいて生活の糧になり、また楽しみの場でもあった地先の環境をなんとかして取り戻したい。
 
表3.2 干潟の現状に関する問題の認識
対象者 干潟の現状、問題の認識
盤洲里
海の会
・海の漁師は高齢化し、後継者も少なく人数が減っている。漁業だけではなかなか暮らせない。また、漁師がいないと海は荒れてしまう。
・かつてはハマグリが中心であり、スナメリなどもすぐ近くに来ていた、アオギスも普通に見られたが、現在はそういう環境になっていない。
・昔はアマモは船に付着して邪魔なほどあったが、今はなく、同時にカレイや車えびなどもいなくなった。
・干潟をうまく活用するためのアイデアに対して反対する人々がいて、うまく調整できない。
・街づくりなども、単なる市の発注業務に終わってしまう場合がある。昨年は単年度の仕事で、現場にも行かず話し合いだけになってしまった。
盤洲干潟を守る会
・干潟の開発に歯止めがかからない。
・アシハラガニを釣り餌として商売のため多量に取ってしまう人がいる。
・散弾銃での鴨猟が行われ、薬きょうなどが大量に干潟に落ちている。
・干潟の環境を守ることが結局はアサリ資源を守ることにつながるといったことが、漁協等に説得できない。
・コアマモの消滅など干潟の植生、生き物の変化の要因について、十分なデータが取られていないため、その原因が説明できない。
・海岸・干潟の問題は一般住民の関心が低く、(利害)関係者以外は発言をしづらい状況にある。
・行政は2年で担当者が変わってしまい、継続性がない。
・大学・研究者等の成果を、干潟保全や地域振興に生かされていない。
市役所
・干潟に人を入れ、ブルーツーリズムや環境学習の場として利用したが、地元の了解が得られないため、本格的に取り組むことができない。観光と保全の両立が非常に困難である。
・地元の漁師は、よそ者の言うことはどんな大先生の意見でも聞こうとしないので、説得は非常に難しい。
・地元住民以外の、一般市民の干潟に対する認識は非常に低いこともあり、利用していこうというベクトルはなかなか定まらない。
桐谷氏
・一晩中アサリ取りをやっても2,000円にしかならない。
・干潟から地形が変わる場所(バカジ)に昔いたバカガイがいまいなくなり、代わりに、干潟の方に移動した(ここは前にはアサリ中心)、浅瀬の(セブタジ)も貧酸素で生き物がいなくなってしまった。
・アクアラインで潮流が変わってしまった。小櫃川の河口の砂州が広がるようになっている。
・人工島の北側は貧酸素水塊が湧昇して魚がいない。
・漁師は小さいアサリまで採りつくしてしまうのも、資源管理によくない。
 
表3.3 干潟における取り組みについて
対象者 干潟における取り組み(やりたいこと)
盤洲里
海の会
・干潟を人々が訪れる拠点として活用したい。そのための整備として、アクセス確保や干潟における木製の歩道(杭の上)などが必要である。
・干潟背後の運動公園(私有地)を環境教育拠点として活用したい。
・自然体験活動などをもっと取り入れるべき(体験型漁師、週末漁師などを提案し、海苔スキ体験などの活動を進めている)。体験型漁業では、昔の漁法が役に立つので、高齢者に手伝ってもらう。そこで高齢者に日当を支払えば、それが励みになるし、街づくりにつながっていく。
盤洲干潟を守る会
・アシハラの外側を含めた鳥獣保護区化や自然環境保全地域指定など、干潟の自然を保全していく取り組み。干潟保護を軸とした条例を作成。
・干潟背後の未利用地に干潟博物館、ネイチュアーセンターのようなものを作ること。干潟を生かしたエコツーリズム、環境教育等の場として利用する。
市役所
・体験漁業の推進
・自然環境保全地域指定に向けた関係者の合意形成・調整
・干潟のクリーンアップなど市民活動支援
桐谷氏
・環境が変化しているの、その原因を調べて欲しい
・アマモなども大切で、復元すべきである。
 
表3.4 合意形成・連携についての考え方(方法論)
対象者 合意形成・連携についての考え方(方法論)
盤洲里
海の会
・漁師であるという特性を生かして、直接しっかりと話し合えば通じることが多い。
・NPOになり色々な人とつながりができ、新しいことを学ぶことができた。例えば、CONE(自然活動リーダー)の重要性など。
・保護派の人々で、真実でないことを大げさに言うことがある。
盤洲干潟を守る会
・市長を含めた行政のリーダーシップが重要である。
・干潟環境・生態系に関する科学的な、調査研究に基づく説得力のある提案を(費用をかけて)やって欲しい(特に地元漁協に対して)。
・野鳥の会や婦人団体、木更津高校などとの協力体制がある。
・里海の会には、漁師の中で新しい考え方のできる人であり、大変期待している。
市役所
・NPO等市民活動の支援を行っている。干潟のクリーンアップやNPOへの助成(盤洲干潟を守る会)など、助成は基金から行っているが、「今なぜ、財政が厳しい中干潟保全なのか」という声もあり、縮小気味である。
・漁業者との調整はほとんどお手上げ状態である。
・コントロールされた団体が、干潟に入り、様々な活動を行えるようなシステムをつくる必要がある。
桐谷氏 (特に具体的なヒアリング事項なし)


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