2. 性能向上システムの企画・検討
2.1 スペシャルパイプ基本性能向上システムの企画・検討
スペシャルパイプ基本性能向上システムは、平成15年度に実船搭載したプロトタイプ実機の基本構造を活用し、STEP基準を達成するレベルまで改良するものである。
表II.2.1-1には、STEP基準を示した。STEP基準は、50μm以上の生物に対しては98%除去あるいは殺滅を要求しているが、50μm未満の生物及びバクテリアに関しては性能の報告要求(生物学的効果の立証)となっている。よって、スペシャルパイプ基本性能向上システムの性能達成目標は、スペシャルパイプ1回の通水による50μm以上の生物に対する98%除去あるいは殺滅とした。
表II.2.1-1 STEP基準
対象 |
内容 |
○ 50μm以上の生物 |
98%除去あるいは殺滅 |
○ 50μm未満の生物及びバクテリア |
処理装置の性能に関する報告 |
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写真II.2.1-1にはプロトタイプ実機の全景、図II.2.1-1には本体部であるスリット板と衝突板の構造を示した。
スペシャルパイプの水生生物殺滅原理は、海水がスリット部を通過する時に発生する剪断応力と、スリット部で発生するキャビテーションが衝突板で強制消滅する時のエネルギーによる衝撃破壊である。この効果は、スリット幅を狭めることと、スリット部を通過する時の流速を上げることで向上することがすでに明らかになっている。そこで、スペシャルパイプ基本性能向上システムの性能向上要素としては、スリット幅を狭めること、及び流速・流量の増加とした。
この2つの性能向上要素に関しては、後述の(1)以降の試験で要素の適性について検討した。その結果、プロトタイプ実機のスリット幅0.5mmを0.3mm等に狭めること、及びスリット部流速を30m/secから40m/secに速めることでSTEP基準を達成する可能性があることが確認された。よって、スペシャルパイプ基本性能向上システムの設計は、スリット幅0.3mm、スリット部流速40m/secを中心に行うこととする。
写真II.2.1-1 プロトタイプ実機の全景
図II.2.1-1 本体部のスリット板と衝突板の構造
(パイプ直径:100mm、スリット板間隔=スリット幅:0.5mm、衝突板間隔:1.5mm)
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(1)スペシャルパイプ基本性能向上要素試験
1)試験目的
平成15年度事業で実船に搭載したプロトタイプ実機のスリット幅及びスリット部流速は、0.5mm及び30m/secであった。この試験では、50μm以上の水生生物を98%以上除去あるいは殺滅するというSTEP基準を満たさないケースもあった。
よって、スペシャルパイプ基本性能向上要素試験は、スペシャルパイプに1回通水することで、50μm以上の水生生物を確実に98%以上殺滅するスリット幅及びスリット部流速を見極めることを目的とした。
2)試験項目
試験項目は、次の3項目とした。
(1)流量計測(スリット部流速の算出)
(2)スリットの上流及び下流の圧力計測
(3)50μm以上の水生生物処理効果
3)試験時期
2004年5月31日から6月4日
4)試験場所
佐賀県伊万里市の臨海試験施設
5)試験方法
(1)試験システム
図II.2.1-2はスペシャルパイプ基本性能向上要素試験システムを示した。
試験海水は港湾内の自然海水を一旦タンクに溜め、高圧ポンプとバルブ操作により、コントロール水(未処理水)及び処理水(スリット通過水)を採水した。
図II.2.1-2 スペシャルパイプ基本性能向上要素試験システム
(2)試験ケース
表II.2.1-2には試験ケースを示した。
試験は、スリット幅0.1mm、0.2mm、0.3mm及び0.5mm、スリット部の流速30m/s、35m/s及び40m/sの各組み合わせケースで実施した。
表II.2.1-2 スペシャルパイプ基本性能向上要素試験の試験ケース
スリット幅 |
スリット部流速 |
0.1mm |
約30m/s
約35m/s
約40m/s |
0.2mm |
0.3mm |
0.5mm |
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(3)観測・分析項目及び方法
表II.2.1-3には観測・分析項目及び方法を示し、表II.2.1-4には物理条件の観測に用いた計測器の仕様を示した。また、写真II.2.1-2には生物分析の一連の作業風景を示した。
管内圧力はスリットの上流及び下流に設置した圧力計により計測し、その計測値差によってスリットによる圧力損失を算出した。管内流量はスリット下流側に設置した流量計により計測した。流速は計測した流量をスリット部の面積で除し算出した。
生物分析は未処理のコントロール水及び処理水を各20 採水し、オープニング50μmのメッシュによりろ過し、メッシュ上に残った捕集物(以下、試料)をろ過海水により洗い流し50 ビーカに集めた。ビーカに集めた試料は、室内で20 に定容し、定容した試料のうち、10 をマイクロピペットでチャンバーに入れ、顕微鏡下で正常な動物プランクトン数を計数した。
表II.2.1-3 |
スペシャルパイプ基本性能向上要素試験の観測・分析項目及び方法 |
分類 |
観測・分析項目 |
観測・分析方法 |
物理条件 |
管内流量 |
表II.2.1-4の流量計による計測 |
管内圧力 |
表II.2.1-4の圧力計による計測 |
生物 |
50μm以上の正常な動物プランクトン数 |
顕微鏡下における計数 |
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表II.2.1-4 スペシャルパイプ基本性能向上要素試験の計測器仕様
計測器名称 |
メーカー及び型式 |
測定原理及び仕様 |
備考 |
流量計 |
メーカー:
富士電機(株)
型式:
FLB |
測定原理:超音波式
流速測定範囲:
-16〜+16 m/s
精度:指示値の±1.5%
口径:φ25〜350mm |
スリット部流速算出式:
但し、
ν:流速 [m/sec]
Q:流量 [m3/hour]
A:スリット部面積 [mm2] |
圧力計 |
メーカー:
(株)共和電業
型式:
PG-10KU |
測定原理:
ひずみゲージ式
定格容量:980.7 kPa
精度:定格容量の±0.3% |
圧力単位変換式:
P = 98.1×
但し、
P:圧力 [kPa]
:圧力 [kgf/cm2] |
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写真II.2.1-2 |
スペシャルパイプ基本性能向上要素試験における一連の生物分析風景 |
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