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マラッカ・シンガポール海峡の情勢 2004

 事業名 海上安全に関する国際情報収集活動
 団体名 日本海難防止協会 注目度注目度5


コラム:マレーシア海事執行庁法
 
【注:以下は、本法案の逐条訳ではありません。従って、重要と思われない規定については省略してあります。】
 
 本法案は、マレーシア海域(Malaysian Maritime Zone)での海洋権益その他の国益を保護するため、当該海域の安全と保安の確保に係る執行機能を掌るマレーシア海事執行庁を設立するものである。
 
第1条 呼称名と適用開始(Short title and commencement)
 本法は「2003年のマレーシア海事執行庁法(the Malaysian Maritime Enforcement Agency Act 2003)」と呼称される。
 
 本法の施行日は別途大臣が指定する日とする。大臣はマレーシアの異なった地域や異なった規定毎に、異なった施行日を指定することができる。
 
注:地域毎の新組織の発足準備体制、業務執行能力の格差等により、マレーシア国土全体に一斉に本法の規定を適用できない状況があると考えられます。
 
第2条 解釈(Interpretation)
 「マレーシア海域」とは、内水、領海、大陸棚、排他的経済水域及びマレーシア漁業水域をいい、当該海域の上空を含む。
 
注:第2条においては、この他、「領海」「大陸棚」「マレーシア漁業水域」「排他的経済水域」等の用語の定義規定が置かれています(「排他的経済水域」とは別に「漁業水域」を設定している理由については別途調査が必要)。
 
第3条 マレーシア海事執行庁の設立(Establishment of the Malaysian Maritime Enforcement Agency)
第1項
 この法律の目的のため、海事執行庁が設立される。
 
第2項
 海事執行庁は、マレーシア海域において、法及び秩序の維持、平和、安全及び保安の維持、犯罪の予防及び発見、犯人の逮捕及び起訴、保安情報(security intelligence)の収集に従事する。
 
注:日本の海上保安庁法第1条では、「海上において」という文言を用いられていますが、本法案においては、「マレーシア海域において」という限定された海域が活動海域として明示されています。ただし、第6条第3項に規定するとおり、公海上においても、海賊事件、海難等の特定の事象については、対応可能としています。
 本項では、法令執行業務に必然的に付随すると考えられる情報収集業務を海事執行庁の目的規定でもある本項において特記していることが注目されます。具体的内部組織の構造は明らかではありませんが、情報調査局のような専門の組織が設置される可能性が示唆されます。
 
第4条 長官の指名(Appointment of the Director General of the Agency)
第1項
 長官は、首相の助言により、国家元首により指名される。
 
第5項
 長官は、海事執行庁に関する全ての事項について、指示し、指揮し、管理し、及び監督する責務を有する。
 
第5条 海事執行庁の他の職員の指名(Appointment of other officers of the Agency)
第2項
 第1項の規定により指名された職員は、本法により付与された権限を保有し、長官又は上級の職員の指示、指揮、管理及び監督に従い、当該権限を行使し、能力を発揮し、任務を遂行する。
 
第6条 海事執行庁の所掌事務(Functions of the Agency)
第1項
 海事執行庁の所掌事務は、次の各号に掲げるものとする。
 
(a)連邦法の下における法及び秩序の維持
(b)海上における捜索救助の実施
(c)犯罪行為の防止及び鎮圧
(d)捜査共助法(Mutual Assistance in Criminal Matters Act 2002)に従い外国からの要請に基づく刑事事案における援助の提供
(e)監視飛行及び沿岸水域の巡視警戒の実施
(f)関係行政庁に対する支援業務の提供
(g)海事執行庁職員の訓練のための海事教育機関の設立・管理
(h)海上の安全及び保安のための他の責務及びこれに付随する事項の実施
 
注:(a)、(c)〜(e)は法令執行機関としてのごく当然の事務です。
(b)は海上における実働勢力を有する機関としての当然の事務です。
(f)の関係行政庁とは税関、漁業取締局などが考えられます。
(g)については、直接的な所掌事務とはいえませんが、あえてこの項に含めたことは、海事執行庁が適切に所掌事務を行うに際し、教育、人材育成を重要視する姿勢が見受けられます。
 
第2項
 当該所掌事務は、本法の規定に従い、マレーシア海域内において実施される。
 
第3項
 上記の規定にかかわらず、次に掲げる事項について、海事執行庁は責務を有する。
 
公海上における
(a)海上における捜索救助の実施
(b)海洋汚染の管理及び防止
(c)海賊行為の防止及び鎮圧
(d)麻薬の違法取引の防止及び鎮圧
 
第7条 海事執行庁の強制権限(Powers of the Agency)
第2項
 海事執行庁は、次に掲げる強制権限を有する。
 
(a)犯罪行為に関する報告を受理し考慮すること
(b)場所、構造物、船舶、航空機を停止させ、立入り、乗船し、検査し、捜索すること並びに船舶及び航空機を拿捕すること
(c)免許証、許可書、記録、証明書その他の書類の提示を要請すること、当該書類を検査すること、当該書類の複製を作成すること、及び当該書類から一部を抽出すること
(d)現在行われている、まさに行われようとしている、又は既に行われた、と信じるに足る理由がある犯罪を捜査すること
(e)継続追跡権を行使すること
(f)漁獲物、物品、装置、商品、船舶、航空機その他の既に行われた犯罪に関係するものを検査し押収すること
(g)漁獲物、物品、装置、商品、船舶、航空機その他の既に行われた犯罪に関係するものを廃棄すること
(h)犯罪を犯したと信じるに足る理由がある者を逮捕すること
(i)マレーシア海域の利益に有害であり、又は同海域の秩序及び安全を危険にさらす、と信じるに足る理由がある船舶を退去させること
 
注:(a)、(b)の一部、(d)〜(h)に関しては、犯罪捜査を行うにあたり必要となる強制権限であり、日本においては、主として刑事訴訟法に規定されるものです。(b)の一部、(c)については、行政的な権限であり、海上保安庁法においても、同様の規定があります。(i)については、海洋法条約第25条に基づく措置と考えられます。
 
第3項
 海事執行庁の職員は、本法の目的を達成するため、マレーシア海域において適用のある連邦法に基づき関係行政庁が行使を許される全ての権限を有する。
 
注:海上保安庁法第15条の当該官吏規定の主旨に類似しています。
 
第4項
 第2項の規定にかかわらず、領海内における船舶の通航が無害通航である場合、いかなる船舶も、領海内においては、停止され、進入され、乗船され、捜索され、又は検査されることはない。
 
注:海洋法条約第24条に規定する沿岸国の義務(沿岸国は領海における外国船舶の無害通航妨害してはならない)を国内法で明確化したものです。無害か有害かの判断は第5項及び第6項に基づき行われます。
 
第5項
 船舶の通航は、マレーシアの平和、秩序又は安全を害しない限り、無害通航とされる。
 
注:海洋法条約第19条第1項の無害通航の意味を国内法で明確化したものです。
 
第6項
 次に各号に掲げる活動はマレーシアの平和、秩序又は安全を害するものであるとされる。
(a)武力による威嚇又は武力の行使であって、マレーシアの主権、領土保全若しくは政治的独立に対するもの又は国際法の諸原則に違反するいかなる行為
 
注:本項前段部分は、海洋法条約第19条第2項(a)の規定と全く同じ規定ぶりですが、後段部分については、若干の差異が認められます。しかし、実質的な意味の違いはないと考えられます。
 
(b)兵器(種類のいかんを問わない。)を用いる訓練又は演習
(c)マレーシアの防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為
 
注:(b)項及び(c)項は、海洋法条約第19条第2項(b)(c)に同じです。
 
(d)マレーシアの平和、防衛又は安全に影響を与えることを目的とする宣伝行為
 
注:本項は、海洋法条約第19条第2項(d)に「平和、」という文言が付け加えられたものと同じですが、実質的な意味の違いはないと考えられます。
 
(e)航空機の発着又は積込み
(f)軍事機器の発着又は積込み
 
注:(e)項及び(f)項は、海洋法条約第19条第2項(e)(f)に同じです。
 
(g)沿岸国の通関上、財政上、出入国管理上又は健康上の法令に違反する物品、通貨又は人の積込み又は積卸し
 
注:衛生(sanitary)という文言に代え、健康(health)が使用されていますが、実質的な意味の違いはないと考えられます。
 
(h)汚染行為
 
注:海洋法条約第19条第2項(h)においては、「この条約に違反する故意のかつ重大な汚染行為」ということで、限定された規定ぶりになっていますが、本項では、全ての汚染行為が対象となっています。
 
(i)漁獲活動
 
注:(i)項は、海洋法条約第19条第2項(i)に同じ
 
(j)未許可の調査活動又は測量活動の実施
 
注:海洋法条約第19条第2項(j)は「未許可の(unauthorized)」という文言が入っていません。これは、マレーシア領海内であっても許可を得ることにより、当該行為は有害とはみなされず、外国船が領海内で調査活動等を実施できる可能性があることを示唆しています。
 領海における海洋の科学的調査については、沿岸国が自国の領海における科学的調査を規制し、許可し及び実施する排他的権利を有しています。従って、沿岸国の明示の同意が得られ、かつ、沿岸国の定める条件に基づく場合には、実施することが可能となっています(海洋法条約245条)。
 
(k)マレーシアの通信系又は他の施設への妨害を目的とする行為
(l)通航に直接の関係を有しないその他の活動
 
注:(k)項及び(l)項は、海洋法条約第19条第2項(e)(f)に同じ
 
第8条 起訴手続(Prosecution)
 他の成文法にかかわらず、検察官の書面による同意がない場合は、この法律に基づき逮捕された者に対する起訴手続は開始されない。
 
第9条 捜査状況に関する報告(Report on status of investigation)
第1項
 他の連邦法に基づき情報を海事執行庁に提供した者は、当該情報の中で言及された違反に係る捜査状況に関する報告を海事執行庁に要求することができる。
 
第2項
 海事執行庁は、第1項の規定に基づき要求された日から2週間以内に、当該違反に係る捜査状況に関する報告を情報提供者に行わなければならない。
 
第7項
 本条に定める検察官の指示に従わない海事執行庁職員は、有罪判決に基づき、1ヶ月の範囲を超えない期間の懲役又は(及び)1,000RMを超えない罰金に処す。
 
第10条 海事執行庁職員の保護(Protection of officers of the Agency)
 この法律に基づく海事執行庁職員による誠実な任務の実施、権限の行使及び義務の履行における作為及び不作為に関しては、当該職員に対しいかなる措置も取られない。
 
第11条 身分証明(Identification)
 海事執行庁の職員は、この法律に基づき活動を行っているときは、要請により、当該職員が活動を行っている者に対し、また、当該職員が情報を求めている者に対し、身分を明かし、かつ、この法律に基づき職員に発行された権限証を提示しなければならない。
 
第12条 武器の携帯(Carrying of arms)
 海事執行庁の職員は職務の遂行にあたり武器を携帯することができる。
 
第13条 義務放棄(Desertion) (略)
 
第14条 反逆(Mutiny) (略)
 
第15条 不忠実を誘引の罰(Penalty for causing disaffection) (略)
 
第16条 調整(Co-ordination)
 海事執行庁及び関係行政庁は、緊密かつ相互に調整、協議、連絡し、この法律の規定の実施のため相互に援助を与えなければならない。
 
第17条 緊急事態、異例の危機又は戦争の際の権限(Power during emergency, special crisis or war)
第1項
 この法律又は他の連邦法のいかなる規定にかかわらず、海事執行庁又は大臣により決定される同庁の特定の部局は、緊急事態、異例の危機又は戦争の期間中、マレーシア国軍の指揮管理下に置かれる。
 
第2項
 緊急事態、異例の危機又は戦争が発生したか否かについて疑念が生じた場合には、国家元首が署名し、大臣が適当と考える場所に掲示される布告書が当該事案の最終的な事実証明となる。
 
第18条 内務規定(Standing orders)
 長官は、一般管理、訓練、海事執行庁職員の義務及び責任に関し、また、同庁の良好な運営に必要または適切である事項に関し、更に、権限乱用又は義務怠慢の防止のために、また、同庁の効率的かつ効果的な機能確保のために、同庁この法律の規定に反しない限りにおいて、内務規定と呼称される管理命令を発することができる。
 
第19条 規則(Regulations)
 大臣はこの法律の規定を施行し又は実施するために必要かつ適当な規則を定めることができる。
 
注:この法律の施行日は別途大臣が指定する日とされていますが(本法第1条)、まだ、この日は公には指定されていません。現在、第18条の内務規定や本条の規則を作成する作業が行われています。


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