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D 先端技術の活用
 
1. 船舶交通情報システム(VTIS)の運用
 
(1)沿岸国の取組み
 
 シンガポールは、1990年、VTIS業務を行うPOCC: Port Operation Control Centreをタンジョン・パガーに設置し、シンガポール海峡及びシンガポール港湾内の船舶交通監視及び安全情報提供業務を開始しました。その後、急増する入港船舶数に対応するため、レーダー局の増設等を経て、2000年1月20日には、新たにパシル・パンジャンにPOCC 2を設置し業務強化を図っています。一方、マレーシアでは、1998年12月1日の改正分離通航方式及び強制船位通報制度の導入開始にあわせ、ポート・クランのVTISの運用を開始しました。現在マレーシアには、ポート・クランに加え、タンジュン・ピアイ(ジョホール州)にも新たにVTISを設置しています。なお、マ・シ海峡は全部で9個のセクターに分割されており、それぞれ担当するVTISが決まっています。
 
担当するVTISが決まっています。
■セクター1〜5 ポートクランVTIS(マレーシア)
セクター6 タンジュン・ピアイVTIS(マレーシア)
セクター7〜9 シンガポールVTIS(POCC 1、POCC 2)
 
■下図は、シンガポール海峡におけるセクター区分と船位通報ポイントを現す図である。
 
V-10 
シンガポール海峡におけるセクター区分と船位通報ポイント
(拡大画面:159KB)
 
(2)利用国による協力
 
 VTISの構築は沿岸国が独自に行ったものであり、利用国による協力は行われていません。
 
(3)今後の方向性
 
【通航管制方式の導入】
 現在、VTISがマ・シ海峡通航船舶に行っているサービスは、専ら情報提供や船舶の操船に関するアドバイスであり、強制的権限を伴う通航管制というものではありません。今後、海峡通航船舶や海峡横切り船舶が増加したり、通航船舶の種類がますます多様化するような状況であれば、通航管制方式を導入することについても検討する必要があります。なお、船舶管制については、通過通航権を侵害する可能性もあるので、その観点からの検討を慎重に行う必要があります。なお、海峡横切り船舶のみを管制の対象とすることも一案です。
 
2. DGPS
 
(1)沿岸国の取組み
 
 DGPSによる高精度の位置情報は、電子海図表示装置(ECDIS)や自動船舶識別装置(AIS)には欠かせないものですが、マレーシア及びシンガポールでは、GPS測位制度向上のための補正データ等を発信する放送局をそれぞれ設置しています。マレーシア海事局では、マラッカ海峡(マレー半島西岸)をカバーする局をルムット(Lumut)に、東岸をカバーする局をクアンタン(Kuantan)に設置しています。シンガポール海事港湾庁では、シンガポール海峡全域をカバーする局をラッフルズ灯台に設置しています。
 
DGPS
■DGPS(Differential Global Positioning System)とは、米国が運用しているGPS(衛星を用いた電波航法システム)の位置精度を更に向上させるため、補正データ(Differential Data)等をユーザーに提供することにより、自動的にGPSの位置情報(精度10〜30m)の誤差を補正する(精度2〜5m)ものです。
 
(2)利用国による協力
 
 GPS局の設置・運用は、沿岸国が独自に行ったものであり、利用国による協力は実施されていません。
 
(3)今後の方向性
 
 DGPSは、今後更に普及すると考えられる電子海図及びその表示装置やAISにとって必要不可欠な要素であり、今後とも、沿岸国による安定的かつ継続的なサービスの提供が望まれています。
 
3. AIS
 
(1)沿岸国の取組み
 
 シンガポール海事港湾庁は、これまで、2カ所のAIS基地局と、5カ所のAIS海岸局の整備を完了しています。シンガポールでは、VTISにおいてAIS情報が電子海図及びレーダー映像と統合され利用されており、一つのモニター画面に全ての情報を効率的かつ選択的に表示することができます。
 
AIS
■自動船舶識別装置(AIS: Automatic Identification System)は、船舶に設置したAIS装置が、他のAIS装置搭載船舶や陸上のAIS局(通常、VTISに併設される)との間で、自動的に自船の船名、位置、速力及び針路等の情報を送受信するシステムです。2000年12月に改正されたSOLAS条約に基づき、2003年7月以降、順次船舶への搭載が義務づけられています。この装置は、航行安全、環境保全、そしてVTISにおける船舶交通情報業務の運用改善に寄与するものとされています。なお、現在のところ、沿岸国にAIS陸上局の設置義務はありません。
 
 マレーシア海事局は、つい最近、AIS基地局、海岸局などの関連設備を整備したところです。マレーシアではAIS情報は電子海図上に表示されますが、レーダー映像との統合は行われていません。また、当該電子海図モニターは、VTIS職員が当直する場所とは異なった場所にあるため、当該職員が直接モニターを確認することはできず、大幅な改善の余地があります。
 
 インドネシアにはAIS関連の施設は設置されていません。
 
(2)利用国による協力
 
 AISの陸上関連施設整備は、当初、利用国による任意負担によるプロジェクトの一つとして有望視されていましたが、セキュリティーへの関心の高まりからSOLAS条約改正の議論の中で船舶へのAIS設置に係るスケジュールが前倒しされたことなどにより、予想以上に早く沿岸国独自による整備が行われました。このため、AISの陸上関連施設整備に関する利用国による協力は行われていません。
 
(3)今後の方向性
 
【海峡利用国6プロジェクト:AIS陸上局の整備】
 「海峡利用国6プロジェクト」の一つとして、マラッカ海峡に2カ所のAIS基地局と、7カ所の海岸局を、シンガポール海峡に2カ所のAIS基地局と4カ所の海岸局を設置する計画がありますが、既に述べたとおり、沿岸国(インドネシアを除く)では整備を完了しています。
 
【AISの航路標識への設置】
 航路標識を遠隔監視するため、AISを活用する動きがあります。これは、当該標識の作動状況(灯火点灯の有無、灯浮標バッテリー電圧、灯浮標の位置等)に関する情報をAISのVHF電波により発信し、最寄りの陸上事務所がこれを受信することにより把握するものです。航路標識の維持・管理作業へのAISの活用により当該作業の効率化が期待されています。実際に、沿岸3カ国では、数は少数ですが、AISによる航路標識の遠隔監視が行われています。
 
【簡易AISの活用】
 現在、シンガポールでは、専ら、港内小型船舶(約1200隻が登録済み)のセキュリティー対策の一環として、当該小型船舶への簡易AISの設置・運用試験を開始しています。将来的には、この簡易AISの設置を義務付けることにより、港湾セキュリティーの向上を図ることにしています。
 
【AIS国際ネットワーク】
 先に述べましたが、シンガポールでは既にAIS関連施設の整備が完了しています。また、マレーシアも、今後の改善の余地は大幅に残っているものの、基盤施設の整備が完了しつつあります。これらのAIS関連施設から得られる情報は、システム自体が他国のものと連結されていないため、現在は、国外の機関との交換はできませんが、将来的にAIS国際ネットワークを構築することにより、例えば、船位舶通報制度の運用や、セキュリティー対策にも効用が認められるところです。
 
4. 電子海図
 
(1)沿岸国の取組み
 
 電子海図(ENC: Electronic Navigational Charts)の有用性、特に、DGPSやAISといった他の航海援助機器と組み合わせて使用した場合の有用性については、高く評価できるところです。しかし、現在、ENCを表示する電子海図表示装置(ECDIS)の船舶への設置が義務付けられていないこと、主要海域をカバーするENCが発行されていないことなどから、まだ、広く普及する段階には至っていません。マ・シ海峡のENCについては、これまで、沿岸3カ国と日本との間で共同刊行に向けた取組みが地道に進められています。
 
(2)利用国による協力
 
 マ・シ海峡は同海峡沿岸3カ国の領海内に位置することから、同海峡のENCは沿岸3カ国による共同刊行という形式をとる必要があります。しかし、共同刊行するには、当該国の電子海図製作技術がほぼ同一である必要がありますが、シンガポールを除き、他の2カ国については必要な知識・技術レベルに達していないのが現状でした。このため、1998年(平成10年)からの3年間、沿岸3カ国の水路機関の長及び技術者を招聘し、インドネシア及びマレーシア両国のENC製作技術のレベルアップを図るとともに、沿岸3カ国の海事関係者にENCの有用性を周知する目的で、日本財団の援助によりENCワークショップが毎年開催されました。
 
ENCワークショップ
■第1回 1998年10月 シンガポール
第2回 1999年11月 マレーシア
第3回 2000年6月 インドネシア
 
 共同刊行することについては、刊行に係る諸問題(著作権、販売価格、利益の分配、販売・流通経路、ENCの維持及び更新手続き、販売委託業務、CDラベル・デザイン等)に関し、沿岸3カ国が合意する必要があり、一国単独で刊行する場合に加え、多大なる追加的労力を必要とします。このため、上記「ENCワークショップ」開催にあわせ、これらの諸問題を解決するための取組みが行われるとともに、その後も、定期的な会合が沿岸3カ国及び日本との間で行われてきました。最近においては、2003年2月19日及び20日の両日、シンガポールにおいて、当事務所主催によりマラッカ・シンガポール海峡ENC共同刊行に係る非公式会合を開催し、これまで未解決の問題について最終的な討議が行われました。
 
 ENCが刊行された後についても、引き続き、沿岸3ヶ国が共同して同ENCの維持・更新作業等を行っていかなければなりません。このため、沿岸3ヶ国の水路機関の長又はその代理で構成されるMSS・ENC運営委員会(Steering Committee)を設置し、必要な協議・調整を行うことになっています。なお、この委員会には、日本の海上保安庁水路部も技術的事項に係る助言を行うこととなっています。
 
(3)今後の方向性
 
【マ・シ海峡電子海図の発刊】
 これまでのマ・シ海峡電子海図発刊にむけた努力にもかかわらず、現在、ある海峡沿岸国内の手続上の問題により、発刊が大幅に遅延しています。
 
 マ・シ海峡ENCは、特に、シンガポール海峡を横断する高速フェリー・ボートの航行安全を確保する上で非常に有効と考えられます。当該フェリーの操船は、速度が高速であるなどの理由から、専ら、自動車の運転のように、操船者がレーダーや目視により直接他船や物標、障害物を確認しながら行われており、通常の船舶で行われているように、紙海図上に自船の位置をプロットしながら航行しているわけではありません。従って、同海峡のENCが刊行されれば、GPSナビが装備された自動車のように、ENC上で適宜船位を確認しながら、安全に運航することが可能となります。
 
【海上電子ハイウェー・プロジェクト等への応用】
 先にも述べましたが、ENCは、単独での使用のみならず、DGPSやAISといった機器との組み合わせにより、その有用性は格段に向上します。現在、マ・シ海峡では、MEHプロジェクトが進行中ですが、IMOにおいてセキュリティー分野への応用を模索する動きがあります。このように、ENCは、今後、様々なシステムや用途の基盤となる潜在的可能性を秘めており、早急に普及することが望まれています。


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