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C 通航制度
 
1. 分離通航帯の設置
 
(1)沿岸国の取組み
 
 1981年5月、マ・シ海峡ではじめての分離通航帯がワン・ファザム・バンク及びシンガポール海峡に導入されました。その後、1998年12月1日、従来の二つの分離通航帯をつなぐような形で、ワン・ファザム・バンクからホースバーグ灯台に至る全長500kmに及ぶ改正分離通航帯が導入されました。
 
 分離通航帯の導入にともない、「マラッカ海峡及びシンガポール海峡の通航に関する規則」も制定されています。なお、分離通航方式の導入については、SOLAS条約第V章「航行の安全」第8規則「船舶の航路指定」に基づき、分離通航方式に係るIMO指針及び基準に従い、また、海洋法条約に適合する方法で行われています。
 
V-4 旧通航分離帯(上)と新通航分離帯(下)
 
 
 IMOの第49回航行安全小委員会(2003年6月30〜7月4日、ロンドン)において、シンガポール海峡主水道(Main Strait)の分離帯内部に、シンガポール港の錨地不足や深喫水船のための避航水域がないという懸念を解消するため、新たな錨地(トランジット・アンカレッジ)を設定すること(マ・シ海峡の沿岸国であるインドネシア、マレーシア及びシンガポールによる共同提案)について承認されました。これは、翌年の第78回海上安全委員会における議論・承認の後、2005年1月1日から実施に移される予定です(COLREG.2/Circ.54 (28 May 2004))を参照して下さい。トランジット・アンカレッジ設置に係る思惑、背景、問題点等については、下記コラム参照。
 
(2)利用国による協力
 
 分離通航帯を設置するに際しての直接的な利用国による援助はありませんが、その前提としての水路測量、航路標識の設置に関しては、前にも述べたとおり、日本が協力を行っています。
 
(3)今後の方向性
 
【海峡利用国6プロジェクト:新分離通航帯の設置】
 「海峡利用国6プロジェクト」の一つに、スマトラ島北端からワン・ファザム・バンクにかけての海域(スマトラ島沿岸部)に、計3カ所の新たな分離通航帯を設置する、というものがありますが、その必要性については疑問が残ります。また、現行の分離通航帯の東側の入り口であるイースタン・バンク(ルメニア・ショールから北東方向)付近に、新たな分離通航帯を設置する必要がある、という指摘もあります。イースタン・バンク付近は、マ・シ海峡に入ろうする船舶が徐々に収束する海域であり、また、イースタン・バンクと呼ばれる比較的水深が浅い場所も存在しており、衝突、乗り上げなどの海難事故も発生しています。
 
計3カ所の新たな分離通航帯を設置
■計3カ所の新たな分離通航帯のうち、1カ所は、スマトラ島北端のアチェ沖に設置されることになっている。果たして、この分離通航帯の設置が、マ・シ海峡の航行安全対策の一つとして捉えることができるかという問題がある。インドネシアは海峡利用国の協力支援を得るため、協力支援プロジェクトの対象を無秩序に拡大しているような疑念が残る。そもそもこの問題は、マ・シ海峡の地理的範囲にも関係する問題であり、後の章で詳しく触れるが、合理的に考える場合、このような場所における協力支援プロジェクトは、海峡利用国と沿岸国との協力支援プロジェクトの対象としては好ましくないと考えられる。
 
必要性については疑問が残ります。
■2000年(平成12年)、日本船主協会と日本船長協会が実施した、船長経験者に対するマ・シ海峡通航アンケート調査によると、必要と答えた者が31%、不要と答えた者が40%、どちらともいえないと答えた者が29%であった。
 
指摘もあります。
■上記アンケート調査では、必要と答えた者が47%、不要と答えた者が23%、どちらともいえないと答えた者が29%であった。
 
V-5 新分離通航帯
 
【行き先信号旗の掲揚等他の交通安全対策による分離通航方式の改善】
 分離通航帯を設置することにより、主たる船舶交通の流れを整流することは可能となりますが、付随する問題として、横切り船、航路からの出航船、航路への入航船等、主たる交通流を乱すおそれのある要素に対しても十分な対策が講じられる必要があります。この問題が特に顕著である海域としては、シンガポール沖の分離通航帯です。このため、シンガポール港を出入港する船舶に行き先旗の掲揚を義務付けるべきである、という意見もあります。今後、船舶自動識別装置(AIS)が広く普及してきた場合には、AISにこの情報を含めることも有効な手段であると考えられます。
 
【大規模港湾と分離通航帯との調和】
 第II章「マラッカ・シンガポール海峡の概要」において、シンガポール港を例にとり、海峡沿岸の大規模港湾が海峡通航船舶の安全に影響を与えていることを指摘しました。特にシンガポール海峡では、シンガポール港の港域が分離通航帯に迫っており、同港に入港するため水先人の乗船待ちをする船舶などは、港域の境界線と分離通航帯との境界線との僅かな海域(幅約800mの帯状の海域)の指定された水先人乗下船地点に滞留するため、分離通航帯を航行する船舶に悪影響を与える危険性も指摘されています。また、分離通航帯の夜間航行時は、シンガポール港停泊船舶の停泊灯やシンガポール商業地区の都市照明などにより、分離通航帯の通航船舶の航海灯が認識しずらくなっています。
 
 狭い海域に大規模港湾が存在している、という環境は、分離通航帯を西航する船舶と出港東航船舶又は西航入港船との間に危険な見合い関係を生じるなど、様々な航行安全上の阻害要因となっています。シンガポール港では、今後も海域の埋立工事が進行し、ますます、錨地不足や港内の混雑が予想されており、その影響が分離通航帯を通航する船舶に及ぶことが懸念されています。先ほど、シンガポール海峡の分離通航帯内部に設置されたトランジット・アンカレッジについて述べましたが、この錨地の設置自体も、分離通航帯を航行する船舶に及ぼす影響が大きい、という意見がIMOにおける検討段階において指摘されています。結局のところ、狭い海域に大規模港湾が存在していることによる問題点は、狭い海域という解決不可能な物理的要因から生じるものであり、また、港湾の埋立てによる開発を中止するについても困難であるため、VTISによる監視の強化、GPSやAISの活用、シンガポール港の航行安全環境の改善といった他の航行安全対策により改善していかなければならない問題です。
 
【深喫水航路入口での交通流の改善】
 メダン沖に設置された深喫水航路の入口付近で、中央分離帯の付近を航行し、深喫水航路に進入しようとする大型船と、同航路を直進しようとする船舶との間で危険な見合い関係が存在しています。この深喫水航路は、改正された分離通航帯の導入によって新たに設置されたものですが、船側の操船努力により改善され得るものであると考えられます。
 
V-6 メダン沖深喫水航路の状況
 
【海峡利用国6プロジェクト:シンガポール海峡深喫水航路の改善】
 シンガポール海峡の東航航路のうち、深喫水航路入口からバッファロー・ロックを航過してバツ・ベルハンティ岩に至る海域では、浅瀬、岩礁が点在しています(図V-7参照)。
 
V-7 シンガポール海峡東航航路の浅瀬、岩礁
注:上部の黒線の上部が深喫水航路、下部が通常の東航航路である。なお、浅瀬・岩礁を示す楕円の大きさは、当該浅瀬等の正確な大きさではない。
 
 この海域については、「海峡利用国6プロジェクト」の一つとして、これらの浅瀬、岩礁を撤去し、水深23mを確保することが検討されています。これにより、次の効果が期待できます。
■VLCC等の深喫水航路を必要とする大型船の可航域が拡幅(最狭部が574mから1580m)され、深喫水航路が不要となる。
■航路幅が拡幅されることにより、深喫水航路の速力制限が廃止可能となる。これは、付近海域で発生している海賊による船舶への移乗阻止に有効である。
■東航航路全体が南へ移動することにより、西航航路も拡幅される(最狭部が532mから1290m)
 
V-8 
現行の東航航路(上図)、拡張後の東航航路(現行の東航航路の境界線は点線で示す)(下図)
 


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