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(4)アキレ・ラウル号乗っ取り事件(資料5)
 船舶に対するテロは、爆破を伴うものばかりでなく、テロリストが船舶内に侵入してこれを乗っ取り、船舶の乗組員や乗客を人質として不当な要求を行うものもある。
 乗っ取り事件として特に有名なものが、このアキレ・ラウル号乗っ取り事件である。
【事件の概要】
 1985年10月、エジプト沖を航行中のイタリアのクルーズ船「アキレ・ラウル号」が、武装パレスチナゲリラに乗っ取られた。犯人グループは乗組員と乗客(米国、英国等外国人多数)を人質とした上で、イスラエルに対して拘束されているパレスチナ人50人の釈放を要求したが、受け入れられなかった。
 犯人グループはその後エジプト当局に投降したが、米国人乗客1名を殺害していたことが判明した。
 
<アキレ・ラウル号(写真上)、
 官憲に拘束されるテロリスト(写真下)>
 
 
(5)フイリピン「スーパーフェリー14」爆発火災テロ事件(資料6)
 爆発物を使用したテロは、他のタイプのテロに比して容易に犯行が可能であることに加え、現場に身を置かずして犯行に及ぶことが可能であり、テロリスト自身にとってもリスクが少ないことから、世界的にも陸上においては過去、最も多く発生しているテロ形態である。
 最近の事例としては、フィリピン客船「スーパーフェリー14」爆破テロが事例として挙げられる。
【事件の概要】
 2004年2月、マニラからネグロス島に向けて航行中のスーパーフェリー14号において、船内に持ち込まれた中古テレビが突如爆発、フェリーは炎上し、乗員乗客のうち63名が死亡、53名が行方不明、数百人が負傷するという大惨事が発生した。
 調査の結果、中古テレビの中にTNT火薬約3.6kgが仕掛けられていたことが判明。犯行はイスラム系過激派のアブ・サヤフのメンバーによるものだった。
 
<炎上、転覆するスーパーフェリー14>
 
(3)最近の海上テロの傾向等について
 これまで発生している海上テロのタイプは、乗員等を人質にとった上、船舶の運航を支配する一般的に「シージャック」と呼ばれるタイプと、火器・爆発物等を使用して船舶そのものや特定の乗船者を攻撃するタイプがほとんどである。
 テロリストが用いる武器も、けん銃や自動小銃からロケット砲等の軍備品等まで多岐に及び、この点においては、陸上において過去発生しているテロ事例の傾向と目立った差違は認められない。
 一方で、ごく近年になって、船舶自体の警戒体制の強化や船体強度の向上が進んできた趨勢を受け、一部のテロ組織において、船舶への攻撃そのものを目的として特別に仕立てた「ステルス自爆艇」の製造や「偽装爆発物(機雷)」等の使用事例が確認されている。これは、「船舶」そのものをテロの標的とした新たな攻撃戦術が考えられている可能性を示唆している。
 ステルス型の自爆艇は、高速運動が可能であり且つレーダ等により検出されにくい特性を有しており、一部のテロ組織が運用していることも確認されている。また、半没型潜水艇の活用も念頭においているようである(資料7)。北朝鮮が小型工作船を中東方面に売却しているとの情報もある。これらの事実は、今後、海上を航行する船舶にとって、新たな脅威となってくる可能性が高い(資料8)。
 また、ペルシャ湾において、海上交通路を遮断する目的のため、機雷敷設船が航行しているのが発見され、だ捕されている。機雷はドラム缶に偽装されていた。このタイプの船舶を使用して機雷を敷設する場合には、後部甲板から海上に投下する必要があり、上空からの監視により発見されることがある。しかしながら、たとえ上空から監視されていたとしても、機雷投下時に発生する波紋を航跡に紛らせ発見を困難にするために、機雷投下用の開口部を船尾甲板下に設置したものが建造されていると考えられる。
 一方、東南アジアにおける海賊・武装強盗事件において、注目すべき事件も発生した。海賊が襲撃した船舶の高級船員を拉致したり、逃走するまでの数時間、該船を使用して操船訓練を行っていたというものである。
 特に、原油タンカー、LNG・LPGタンカーは積荷の性格上、洋上を航行する爆弾とも成り得るため、マラッカ・シンガポール海峡を始めとする主要航路や大規模港湾内における大規模テロのために使用される可能牲も否定できない。
 また、イスラム過激派により、船社等10社が標的として名指しされた。この情報はイスラム過激派若しくはその支援者が運営するウェブサイトに記述されていたことから、単なる愉快犯とは考えられず、今後も引き続き、これらの動向に対する厳重な監視が必要であると考えられる。
 
(4)海上テロ組織について
 テロ組織は全世界において数多く存在するが、海上テロ攻撃意思・能力を有する組織も少なからず存在する(資料9)。
・アルカイダは数多くの無差別爆弾テロを行っているテロ組織であり、前述したコール号及びランブール号のテロ攻撃を実行した実績がある(資料10)。
・東南アジアに本拠地を置くジェマ・イスラミーア(JI)は、東南アジア諸国で発生した数多くのテロ事件に関与している。テロの標的もソフトターゲットヘ移行していることから、今後海上に本格的に進出してきた場合には大きな脅威となる(資料11)。
・アブ・サヤフ(ASG)は、フィリピン南部のミンダナオ島に本拠地を置くテロ組織であり、アルカイダとも密接な関係にある。活動資金獲得のために薬物・銃器の密輸にも力を入れてきており、海上における活動能力も有しているといえる(資料12)。
・タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)は、スリランカに本拠地を置くテロ組織であり、独自の海上武装勢力を保有している。主なターゲットはスリランカ海軍艦艇であったが、インド貨物船をシージャックしたり、漁船を襲撃した実績もあり、海上における攻撃能力は高いといえる(資料13)。
・モロ・イスラム解放戦線(MILF)はフィリピン南部ミンダナオ島に本拠を置くテロ組織であり、航行中のカーフェリー内において自動車爆弾を爆発させた実績もあり、注意を要する組織である(資料14)。
・自由アチェ運動(GAM)は、スマトラ島北西部アチェ州に本拠地を置くテロ組織であり、MLIFとは友好関係にある。アチェ州に所在する天然ガス施設に対するテロ攻撃を行った実績がある。また最近では、2004年6月には、マラッカ海峡を通過中の石油タンカーをシージャックしている。本件はインドネシア海軍特殊部隊により鎮圧されたが、海上テロ攻撃の能力を有しているといえる(資料15)。


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