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II 調査研究事項
1 海上テロに関する現状と傾向
(1)海上テロの発生状況について
 海上テロは、1961年から2004年までの問、42件が発生している。
 特に米国において同時多発テロが発生した2001年9月以降は9件となっている。これは、40年間のうち直近の4年で全体の2割強が発生している計算となり、海上テロ発生のおそれが近年高まっていることが裏付けられているとも言える。
 テロの対象となった標的別に見ると、全42件のうち船舶は36件、海上施設は1件、海上浸透による陸上施設が3件、その他2件となっている(資料1)。
 
(2)海上テロの実例について
 ここでは、実際に発生した海上テロ事例を解説する。
(1)イラク・バスラ沖海上石油施設テロ事件(資料2)
 最近の事例の中でも特にわが国の安全保障に重大な影響を与えるものと考えられる海上テロは、2004年4月、発生したイラク南部のバスラ沖に所在するアマヤ石油ターミナルに対する連続自爆テロ攻撃であった。
【事件の概要】
 最初の自爆テロ攻撃は、米海軍艦艇に対するものであった。事件発生直前、バスラ沖において、所属不明の船舶が徘徊していたのを哨戒中の米海軍艦艇が発見した。この海軍艦艇が、臨検のために当該船舶に接近したところ、当該船舶が突然爆発し、米海軍兵士2人、米沿岸警備隊員1人が死亡した他、海軍艦艇の乗組員4人が負傷した。
 この自爆テロから20分後、当該事件発生海域から約11km離れたアマヤ石油ターミナル近傍に所属不明の小型船舶2隻が接近し、相次いで爆発した。当時、当該石油ターミナルにはわが国の海運会社が運航するタンカーが荷役待ちのために停泊中であったが、小型船舶の爆発に伴う破片が当該タンカーまで飛翔した。幸いにして人命が失われることはなかったが、荷役施設はしばらく閉鎖された。この結果、イラク暫定政府の試算によれば、2800万米ドル(約30億5,000万円)の損害が発生した。
 
<イラク・バスラ沖石油ターミナル>
 
(2)コール号事件(資料3)
 船舶に対するテロ攻撃として有名なものは、米駆逐艦コール号に対する自爆テロである。米国艦船に対する初のテロ攻撃であったこともあり、この事件を教訓として、米海軍艦艇においてはセキュリティの強化−いわゆるハードターゲット化−が図られた。
【事件の概要】
 2000年10月、イエメンのアデン港に燃料補給のために停泊中の米イージス駆逐艦コール号に対し、所属不明の小型ゴムボートが接近し、爆発した。
 この爆発によって、乗員のうち17人が死亡し、39人が負傷した。また、同艦左舷中央部に横12m、縦6mの破口が生じ、航行不能となった。小型ゴムボートは停泊作業中のコール号に対する支援船を装っていたものであり、事件の翌日に反米イスラム過激派が犯行声明を公表した。
 
<自爆テロ攻撃により生じた船体破口>
 
<自爆テロ攻撃を受けた米艦船コール>
 
(3)「ランブール号」爆破事件(資料4)
 テロ組織は攻撃対象を、攻撃困難なハードターゲットからソフトターゲットヘ移行すると同時に、テロ攻撃により世界経済の混乱をも念頭に置き、ソフトターゲットとしての一般商船を攻撃対象とするようになった。
 一般商船に対するテロ攻撃事件として有名なものは、2002年10月に発生した「ランブール号」爆破事件である。
【事件の概要】
 本件は(2)に掲げたコール号に対するテロ攻撃から2年後、ほぼ同じ海域であるイエメンのアデン湾において発生した。
 「ランブール号」はフランス籍のタンカーであるが、同船の船長によれば、小型艇が同船に接近し、これに引き続いて爆発が発生したというものであった。
 イエメン当局の捜査により、同船の船体から同船のものではないガラス繊維性の船体破片が発見され、外部からのテロ攻撃であることが明らかになった。
 
<自爆攻撃を受け炎上中の仏籍タンカー「ランブール」>
 


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