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まえがき
 2001年9月に米国において同時多発テロが発生して以降、国際的なテロ情勢は、一層混迷・緊迫化の様相を呈している。我が国はもとより国際的にもこのようなテロ事案への対応が最重要課題として捉えられている情勢を踏まえ、国際機関・国家・国民の全てにおいてテロヘの対応強化が図られているところである。
 特に、四面を海に囲まれ、経済活動の多くを海上輸送に依存している我が国としては、これらの国際的な動向に積極的に対応し、海上テロに対し的確なセキュリティ対策を早急に講じることが不可欠であることから、港湾関係者、船舶運航関係者などがそれぞれの立場において、条約等に基づいた対策が講じられているところである。
 最近の特筆される海運関係の動きとしては、SOLAS(海上人命安全)条約が改正され、我が国においても2004年の第159回国会にて「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」(略称「国際船舶・港湾保安法」)が成立、同年7月1日の条約施行と同日から施行されたことが挙げられる。この法律により、船舶等の保安措置の義務づけが強化されると共に、海上保安庁等による国際航海船舶の入港に係る規制が開始されたところである。
 しかしながら、海上保安庁等の取締官庁を含め、官民が協力し、一体となってこれらの対策を的確・効率的に推進することが、海上テロの抑止や対応のために何よりも重要であると考えられる。
 このため、本委員会において、過去発生した多くの海上テロを細分析し、テロの概念及び我が国船舶への具体的なテロ脅威を明確にするとともに、これらへの対応として条約等に基づく国際的に共通した各種テロ対策を含め、官民が実施している個別テロ対策等を確認し、これらの問題点を抽出するとともに、諸対策が互いに隙間なく、円滑に実施できるための方策を検討していただいたものである。
 なお、テロについては、国際的な観点から多角的な対策が必要であるが、本委員会では、最もベーシックである我が国において推進することが有効である対策に的を絞り提言をまとめていただいたものである。
 今後、この報告書が、海上におけるセキュリティ対策の強化・向上に寄与することができれば幸甚である。
 なお、本調査研究事業は、競艇公益資金による日本財団の助成事業として実施したものである。
 
平成17年3月
財団法人 海上保安協会
会長 永井 浩
 
I 調査研究の概要
1 調査研究の目的
 2001年9月の米国同時多発テロ・事件を契機として、世界を巡るテロ情勢は一層混迷化・緊迫化の様相を呈するとともに、テロ事案の発生件数においても増加の一途を辿っている。その内容は、軍施設や政府公館等のように警備が厳重ないわゆる「ハードターゲット」と呼ばれる標的から、公共施設等のように比較的警備が脆弱ないわゆる「ソフトターゲット」と呼ばれる標的までをも狙った大規模かつ無差別なものへとエスカレートしている状況にある。
 また、テロのターゲットは、陸上施設に限らなくなってきている。すなわち、臨海部における石油コンビナート施設や船舶そのものといった、海上をターゲットとしたテロ事件も現に発生するようになり、陸上に比べて脆弱とされる海上におけるテロ対策が喫緊の課題となっていた。
 このような情勢の中、我が国においては、国際航海船舶や国際港湾施設の保安対策を盛込んだ改正SOLAS条約が平成16年7月1日に発効されたことを受け、「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律(以下、「国際船舶・港湾保安法」という。)を同月同日に施行し、海上におけるテロ対策について、取締及び監督官庁・港湾関係者・船舶関係者等が積極的に実施しているところである。具体的には、船舶においては制限区域の設定や船舶警報通報装置の搭載等の義務づけ、港湾においては制限区域の設定及び障壁等の設置や監視装置の設置等の義務づけなどを行い、また外国の港から日本の港へ入港(瀬戸内海等の特定海域への入域を含む。)する船舶に対しては、入港の24時間前までに船舶保安情報を通報することを義務づけるなどといったことが実施されている。
 しかしながら、我が国を取り巻くテロ情勢は一層厳しい状況にあることに加え、四囲を海上に囲まれた我が国では、離島交通の多くや殆どの国際物流を海上輸送に依存し、また近年は船舶による国際旅客輸送も増加しつつある状況にあり、海上セキュリティの必要性がますます強まっている。このような状況の下、我が国においては、取締及び監督官庁・港湾関係者・船舶関係者等の官・民が個別に対策をとるだけにとどまらず、従来以上に、官・民が一体となったテロ対策をより官民の格差なく効果的に実施していくことによって、強固な海上テロ対策を整備し、我が国国民の経済・社会活動が円滑かつ安全に行われることを確保することが強く求められている。
 これらのことを踏まえ、本事業においては、現下の海上テロに関する最新の動向について調査するとともに、今後想定される船舶へのテロの態様等について研究し、これらテロに対する有効な取組みについて官民相互の立場から検討を行い、もって今後の海上テロ対策の推進に寄与することを目的とするものである。
 
2 調査研究の方法
 海上セキュリティに関する有識者8名からなる「海上セキュリティ委員会」を設置し、平成16年8月から平成17年3月までの間、計5回にわたり調査研究を実施した。
 なお、本調査研究委員会には関係官庁等として、国土交通省、海上保安庁、日本財団からもご参加頂いた。
 
3 委員会の構成等
(1)委員会の名称
 「海上セキュリティ委員会」
 
(2)委員会の構成
委員長 邊見 正和 (社)日本海難防止協会顧問
委員 山崎 正晴 コントロール・リスクス・グループ株式会社
代表取締役社長
夷子 健治 (社)日本パイロット協会顧問
筧  隆夫 (社)日本港湾協会理事
市川 博康 (社)日本船長協会常務理事(第3回委員会から)
岡田 卓三 同上(第2回委員会まで)
村上 暦造 海上保安大学校教授
半田  牧 (社)日本船主協会海務部長
関根  博 日本郵船株式会社安全環境グループ長
関係官庁等 野俣 光孝 国土交通省大臣官房参事官
櫻井 俊樹 国土交通省海事局外航課長
露木 伸宏 国土交通省海事局総務課
海事保安対策・事故保障対策室長
難波 喬司 国土交通省港湾局管理課港湾保安対策室長
東井 芳隆 海上保安庁総務部国際・危機管理官
城野  功 海上保安庁警備救難部管理課長
山下 政晴 海上保安庁警備救難部警備課長
中西 良次 海上保安庁警備救難部警備課
岩並 秀一 同上
伊地知英己 同上
 
内海 宣幸

日本財団海洋安全チームリーダー

事務局 (財)海上保安協会
 
(3)委員会の開催
○第1回
日時 平成16年8月10日 1400〜1650
場所 海事センタービル七階会議室
議題 (1)委員会の趣旨及び事業計画について
(2)海上テロに関する現状と傾向について
(3)「リスクマネジメントについて」(基調講演)
 
○第2回
日時 平成16年10月21日 1400〜1555
場所 海上保安庁会議室
議題 (1)今後想定される船舶へのテロについて
(2)船舶テロの対策について
 
○第3回
日時 平成16年12月9日 1500〜1712
場所 国土交通省11F 共用会議室
議題 船舶テロの対策について
イ シナリオの細分化及び分析
ロ 問題点及び対策の検討
 
○第4回
日時 平成17年1月18日 1400〜1630
場所 国土交通省11F 共用会議室
議題 船舶テロの対策について(第三回の続き)
イ シナリオの細分化及び分析
ロ 問題点及び対策の検討
 
○第5回
日時 平成17年3月9日 1400〜1520
場所 海事センタービル八階会議室
議題 今後の海上セキュリティ対策に係る提言
(報告書案について)


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