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2004年夏!そしてこれから
上原 武晃(福島県立医科大学医学部5年)
 
 国際保健に強烈に熱意があったわけではなかった。ただ、大学の講義や実習を通して国際保健の面白さを感じ、好きになった。国際社会で自分がどこまでできるか試してみたいという気持ちもあった。そして、何より自分が将来何をやりたいのかを考える機会が欲しかった。
 このフェローシップを通して特に心に残ったこと、尾身先生とバルア先生に言われたことだった。自分自身をちゃんと見つめること。自分は何が好きで、どうしたいのか。簡単なようで、今まで自分にはなかなかできなかったことだ。自分が本当にやりたいことは何なのか真剣に考えたことがなかった。いろんなものに影響され、なんとなく憧れを持つだけで、それをずっとやり続ける自信がなかった。だからこそ、そのことに気づかせてくれたことは、僕にとって本当に大きなことだった。もうしばらくすると自分の進むべき道を決定しなければならない。もともとは臨床がやりたくて医学部に入った。そして、今でも臨床をやりたいという気持ちは強い。だが、大学で、このフェローで、医療の形は一つではない、社会を対象とした大きな医療という道があると、気づいた。WHOやJICA、その他多くの国際保健分野で働かれている方や厚生労働省などの活動に触れることにより、また一つ、自分が好きになれそうなことに出会うことができた。だが、同時にそこで得られる喜びだけでなく、苦労や葛藤など、その道に進むためにはそれなりの覚悟が必要であることを知った。
 自分は何がしたいのか。そう、何ができるかではなく何がしたいのか。僕にこのフェローへの参加を勧めて下さった教授の好きな言葉に“thinkg gobally, act locally”という言葉がある。とてもいい言葉だと思う。このフェローを通してもこのことの大切さを本当に多く実感した。そして、自分なりに考えた結論は、“think globally, act locally”のために、とにかく臨床に携わりたいということだ。なぜ医学部に入ろうと思ったかを考えたら、自然とこうなった。自分なりに満足が得られるまではとにかくact locallyということを頑張っていこうと思った。と同時に、今回見つけたもう一つの好きな道も大切にしたいという気持ちもあった。だから、act locallyで積んだ経験をもとに、いずれはact globallyなことをしてみたいと思った。“Think globally, act locally”を経て“think locally, act globally”(地域のことも常に重要視しながら世界的な活動をする)に。欲張りかもしれないが、何でもやってみたいと思う自分の性格を考えたら、このような結論になった。
 11日間を共にした13人の仲間がいる。それぞれの考えの深さ、思いの強さには本当に驚きの連続だった。彼らと共に自分の進むべき道を考え、同じ思いを共有できたことは何よりもうれしかったことだ。これから先も大切にしていきたい出会いだと思えた。この11日間を通し、改めて人と人との付き合いのすばらしさを実感した。最も大切だと思えるものだ。どの分野にも限らず、人が人を好きだという気持ちを忘れずにいれば、きっと満足のいくことができると信じて頑張って行きたい。
 最後に、この報告書を読んで何かを感じた方、感じたいと思っている方がいらっしゃれば、是非ともこのフェローシップへの参加をお勧めします。ここにはあなたを変える何かがきっとあると思います。何かを決意するときに大切なのは、それができるかできないかではなく、やるかやらないかです。頑張ってください。
 今回このような貴重かつ自分の人生にとって重要な経験をさせていただく機会をあたえてくださった笹川記念保健協力財団の方々を初め、講義をしてくださった諸先生方、その他関係された多くの方々、推薦していただいた福島医大公衆衛生学講座の方々、指導専門家の西村先生、泉さん、そして13人の大切な仲間に心から感謝いたします。本当にありがとうございました。
 
スラムの家庭訪問にて。
A few minutes later, this little girl kissed my cheek!
 
『Salamat』
坂上 祐樹(長崎大学医学部医学科5年)
 
 このフェローシップは、いろんな意味で本当に勉強になった!初めて東南アジアを訪れ、初めて途上国の保健医療の実態を目の当たりにすることができた。その中でもWPROという一番上の組織から、スラムやバランガイなどの末端の組織まで見れたことがよかったと思う。尾身先生やバルア先生のお話はすごい人生勉強になった。これらの素晴らしい研修を通して自分なりに考えたことがいくつかある。
 一つ目は、国際保健を行う上ではその国の社会的・歴史的背景についても学ぶことが必要だと感じた。国際保健において生じている問題は、現場の問題だけではなく、その国の社会的・歴史的背景を絡めた複雑な問題となっていた。そのことが分かるたびに自分の勉強不足さを感じ、医療のことだけではなく他のことも勉強しなければならないと思った。
 二つ目は、複眼的な目を持ちたいということだ。今回の研修で、国際保健の現場では複眼的な物の見方が必要とされることを感じた。だから学生の内に一つのことにとらわれず様々な経験をたくさんして、いろいろな視点で物事を見れるようにしていきたいと思う。
 三つ目は、英語だ。今回の研修で自分の英語のできなさを本当に痛感した。ちょっとこれはどうにかしなければならないと思った。よし、英語を勉強しよう!
 最後は、尾身先生とバルア先生が言われたことなのだが、自分は何が好きなのか、自分のアイデンティティーは何なのか、もう一度じっくりと考えたいと思った。これは将来進むべき道を決める上で、また、将来どういう分野であれ働いていく上でも、自分の中に絶対持っていなければならないことだと思うからだ。しっかり考えようと思う。
 さらに今回の研修でよかった点は、何といっても、素晴らしい人たちに出会えたことだと思う。まずは一緒に研修をした他のメンバーたち。同じ目標を持つメンバーが集まったことですごく仲良くなれたし、いろいろな話をすることができた。こんなに楽しく充実した研修が送れたのもみんなのおかげだと思う。本当にみんなには感謝したい。この出会いは一生ものだ!それに西村先生と泉さん、お二人には大変お世話になった。この研修の間、優しい目で見守っていただいたと思う。また今回の研修は、笹川記念保健協力財団や厚生労働省、フィリピンのスタッフの方々、そして尾身先生やバルア先生、佐藤先生を含めたWHOの職員の方々の協力無しには成り立たなかったと思う。この研修に携わったすべての方々に心から感謝したいと思う。こんな素晴らしい研修に参加できて、また、こんなに素晴らしい人たちに出会えて自分は本当に幸せ者だなぁと思う。この感謝の気持ちを忘れずに、そして今回の研修で学んだことを心に刻み、これから自分の目標に向かって邁進していきたいと思う。皆さん、本当にありがとうございました。Salamat!
 
ドリアン
土居 健太郎(大阪市立大学医学部医学科5年)
 
 医学部5回生。卒業まで残り1年半とした22歳の若僧は、今多くの選択に迫られている。同級生と話をすればいい。きっと夢と希望を抱きつつ、自分の将来を思い悩んでいるに違いない。僕もその例外ではなかった。国際化が大きく叫ばれる中、その「国際」という言葉の派手なイメージは人を引き付ける。フェローシップに参加したのは、国際協力活動についての知識を得るため、国際協力活動を肌で感じるため、国際協力活動に興味を持った友達を作るため。つまり、自分の進路を決める為だった。
 先生方の講義やお話から、国際協力活動について多くの知識を得る事が出来た。鉛筆の無い学校へ鉛筆を、トイレの無い地域へトイレを、橋の無い川へ橋を、といった物を中心とした活動は時と共に大きく変化した様だ。対象が物から教育、制度、政策へと変わった。講義中のスライドで見た、便器から木の生えている写真がこれを良く象徴する。トイレを使う習慣の無い地域にトイレを贈った結果だ。使わなければ無意味に終わってしまう。有効な利用方法の教育は重要で、物と教育、どちらも欠く事はできない。病気の治療に対症療法と根治療法がある様に、援助にも二種類あると思った。それは物による対症療法と、制度や体制の改革や教育による根治療法。どちらも必要不可欠だ。制度や体制を改革する事で、援助が終わった後も効果を「持続」させることができる。以前参加したマングローブを植えるツアーでこんな笑い話がある。苗木が置いてあるはずの倉庫がほとんど空だったのだ。現地の方々が自発的に植えられた様だ。自分で植えたかったので、とても残念だったのを覚えている。しかし、彼等が植樹の意味と重要性を理解して行動していたのであれば、効果の「持続」という観点で大成功だったのかもしれない。
 多くの先生方から学んだのは国際協力の知識ばかりではなかった。その生き様はとてもかっこ良い。自分の幸せを追求し、他人・社会の幸せを願ってやまない。その姿勢は是非目標にしたいと思った。根本的な問題を探し、メリットとデメリットの両方を挙げて解決する癖をつけたい。
 スラム街で何軒かのご家庭を見学することができた。窓が無く、低い天井、その空気を実際に肌で感じたのは最も強烈な体験だった。劣悪な環境はいくら想像しても、実体験ほど鮮明に感じることは無いと思う。風通しの悪い、薄暗い部屋に家族6人が暮らす。何らかの活動が必要だと強く感じた。しかし、彼らは不幸なのか。子供たちと一緒に英語の文字を読んだり、折り紙を折ったり、一緒におやつを食べたり、鬼ごっこをしたり。あの明るい、楽しそうな表情に答えはあった。彼らが問題意識を持つのはとても難しいと思うし、改めて教育が重要だと感じた。その教育にNGOの方々が必死で取り組んでおられた。彼らと対等に問題に取り組むには生半可な知識では何にもならない。何らかの活動のうち自分が貢献できるのはいったい何だろうか。
 もちろんスラムが全てではなかった。国内・国外研修を通じて多くの魅力的な人に出会えた。ハンセン病問題を筆頭に、日本とフィリピンの違いを知ることが出来た。同時に自分の勉強不足を実感した。
 そして、これらの経験を仲間達と共有できた事は何ものにも変え難い。日本から一緒だった13人の学生。仲間と呼ぶには失礼だが、同行してくださったDr. ナマや泉さん。皆のお陰で、一人ではただ通り過ぎてしまうような事に気づくことが出来た。知識や経験に基づいた論理的な議論に感心し、目の前にある事を素直に表現する感受性の高さに驚く。時に悩んだりもする、自信と勇気に満ち溢れた仲間の姿は僕に大きな力を与えてくれた。フィールドワークの趣旨と直接は関係無いのかもしれないが、皆でがんばった歌や人文字、束の間のビーチ・プール、美味しいフィリピン料理とお酒、屋台で買ったマンゴやドリアン、報告書には書けないような会話の数々、そんな思い出がほんとうの宝だと思う。今後もこの関係を大切にしたい。ドリアンはえらい臭いやった・・・。
 結局、自分の将来の進路を決定するには至らなかった。しかし、それは大きな問題ではない。知識、経験、仲間。材料を手に入れた今、ゆっくりと料理するだけだ。ただ、人に伝えることを前提とした情報収集をこれからも心掛ける必要がある。
 参加することができて本当に良かったと思う。最後に国際保健協力フィールドワーク・フェローシップに関わる全ての方々に感謝したい。ありがとうございました。
 


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