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3)総括ミーティングII
 テーマAに引き続き、次のテーマについて各個人が発表した。
【テーマB: 将来、自身が国際保健に携わる上で、今の自分に何ができるのか、また何をしていく必要があるのか】
 
【遠藤 雅幸】
■人間は生きていく上で、医療や保健に限らず、政治や経済、宗教や歴史的・文化的背景など様々な要因に囲まれ生活をしている。それを考えると、医療や保健に限らず、様々な分野の学問を包括的に学ぶ必要性を感じるのであり、それらを学ぶことが今の私に出来ることのうちの一つである。
■一つの事柄を細分化し検討する「虫の目」と、統合し全体像を見抜く「鳥の目」の両方の視点を養う必要性を感じる。と同時に、ある一部の「変化」が全体の「変化」の中のどこに位置づけられるのかを捉える能力を養うことが私には必要不可欠である。
■共に国際協力、国際保健について議論し、意見と情報を交換し合える仲間を作ることが必要である。そのために、積極的に自らが行動を起こし、自らのメッセージと他から発せられるメッセージを送受信し得る高いアンテナを常に張っていようと思う。
■国際社会に自らの意見を発するには、他を説得し得る豊かな英語力と人間性(ユーモアや経験も含む)が必要である。それらは一朝一夕に身につくものではなく、これからの惜しみない私自身の努力と多くの出会いが必要であると考える。
 
【名倉 明日香】
■人種、宗教、文化など違う立場の人の考え方を知ることが必要である。
■国外の人と触れ合う機会をもっとつくることが重要である。
■なぜ今このような状態になっているのかを理解するため、日本人が途上国の状態や国際協力についてどのように考えているのかを知ることが重要である。
■今回、自分が得たことを日本の人たちに伝えることが必要である。
■将来を考えると、自分がこれから国際協力に関わっていき、そこで得たものを若い世代(特に小学生、中学生)に伝えることをしていくべきである。
■臨床に進んだとしたのなら、患者さんそれぞれの考え方や生き方を理解し、その方にとってできるだけQOLの高い医療を提供することが重要である。健康面で大きなサポートができるのは医療者の特権であると考える。
 
【石井 怜】
■大学生活があと半分続き、病院にも厚労省にもどの組織にも属さない身であることを利用して、幅広い視野をもって、どの立場で国際保健に関わっていくのが自分に一番合っているかを探っていきたい。
■日本と世界の歴史・宗教・政治体制などについて勉強することが必要である。
■様々な国々を訪れ、人々の生活を見、貧困層のニーズと必要な援助について考えることが必要である。
■国際保健協力という同じ志をもった学生や実際に国際協力に携わっている方々と知り合い、話し合うことのできる場に参加すること、これらを実践していくことが必要である。
 
【佐野 正彦】
■どんな仕事でもcommitmentすることは尊いと考える。
■フィリピン大学の医師の診察を観察し、日本は無駄な検査が多すぎることを再認識させられた。
■病歴聴取が如何に重要であるかが分かった。
■医療を取り巻く社会環境は様々な要素があり、臓器だけを見ていればよいということはない。公衆衛生学、看護学、社会科学等の総合的に考える力を養成する必要がある。
■今回学んだことを他の学生、若い学生に伝える必要がある。
■国内の医療活動も国際保健も根底では同じ線でlinkしている。国際保健は特殊なものではなく、大学授業でその一部でも導入されることを願う。
 
【野中 香苗】
■NGOなどで草の根的に活動する方々のフィールドを見つめる視点、WHOやJICAなどのグローバルな視点の違いを感じた。ミクロの視点、マクロの視点、共に大切なものであり、もっとお互いが尊重しあっていく方法を考えていきたい。
■皆の意見を聞き、とても勉強になると同時に、自分の意見の甘さも痛感した。援助の背景には純粋に人道的な思いだけではない、援助する側の国益や秩序の維持などがあることを身をもって知ったからである。しかし、それらのことを考えることで、世界が安定して平和になればそれは援助する側・される側にかかわらず多くの人々を救うことになる。援助の背景をもっと勉強していきたい。
■援助で一番大切なものは教育と医療だと思った。特に教育は「安全な水の使い方」のような短期的なものから、人々が自分自身の生き方を考えるような長期的なものが必要ではないだろうか。そのためにもまずは、自分がしっかり自分の生き方を考えていきたいと思う。
 
【田名 麻子】
■自国の歴史・経済・文化等を学ぶことが重要であると感じた。なぜなら、それらを知っていることで、各々の比較・対照ができ、より深い議論が可能になるからである。
■周囲の人間に今回のフェローシップでの経験を伝えることが重要であると感じた。言い換えるならば、良い経験をした者はそれを伝える義務があるということである。
■医者として技術力をつけることが必要である。それは自身の将来の選択肢を増やすことに繋がるものである。
■国際協力等の様々な情報に対し、良い面・悪い面共に捉え、評価するよう心がけることを忘れないでいたい。
 
【坂上 祐樹】
■国際医療では現場の問題だけではなく、社会的・歴史的背景についても学ぶことが大切だと感じた。
■学生のうちは一つのことにとらわれず、様々な経験を通して、色々な視点で物事を見られるようにしていきたい。
■自分は何が好きなのか、自分のアイデンティティーは何なのかもう一度じっくり考えたい。
 
【土居 健太郎】
■以前は、援助は現地文化を破壊するので不要だと思っていた。しかし、今回現地に足を運ぶことで、すでに互いに干渉しあわない状況はありえないことが分かった。現に家電等がかなり普及していた。
■このフィールドワークでの最大の収穫は、何らかの行動が必要だと実感できたことだ。将来は学者として、もしくは行政に携わる形で国際協力に関与していきたい。
 
【稲田 晴彦】
■まずは尾身先生がおっしゃったように、自分は何が本当に好きなのかもう一度じっくり考え、その上で頑張って勉強して幅を広げたい。現時点では、将来はWHOやUNICEFなどで行政の立場から国際保健を経験したあと、もしも自分が向いていそうだったらそのまま行政を、そうでなければ研究をして行きたいと考えている。
 
【上原 武晃】
■自分のこれからについて考えると、卒業後は臨床を通して“think globally act locally”に活動したい。
■いずれは厚労省やWHOなども視野にいれ“think locally act globally”な活動を目指して行きたい。
■人と人とのつながりや関係を大切にし、人が人を好きだという気持ちを忘れずにいたいと思う。
 
【坂口 大俊】
■このプログラムを通し、人間の営みの複雑さを改めて認識した。援助といっても、単に、善意だけで事は進んでいない。国家間の援助なら尚更で、互いの思惑が巡り、外交上の駆け引きがある。その駆け引きの妥協点として、援助の形が決まる。援助を享受すべき民衆の声は誰が反映させているのか。
■私が将来、国際保健に携わるならば、駆け引きの妥協点をより民衆の側に持ってくる調整役になりたいと考えた。
■国家について、人間について、もっともっと貪欲に学んでいきたい。
 
【横田 悦子】
■今までの自分は、医学生として医学だけに目を向けていた部分が多かったと思う。今の自分に必要なことは、今の国際保健・日本の国際協力活動の現状を客観的視点から知るだけでなく、この現状にいたっている今までの歴史、国家間の政治的な関係を総合的に知っていくことだと強く思う。
■将来的にどのような形になるにしろ、何らかの組織の中の1人となった時に、広い視野を持って、組織にうもれず自分の意見をはっきりと主張できる人間になることが大切だと思った。そのためにも、学生のうちから自分の意見を持ち、自分の口で表現できる訓練の必要性を感じた。
 
【大渕 雪栄】
■今回のフェローで、国際保健に関わるWHOや、JICAなどのGOがどのようにしているのか実感することができた。また、国際保健という仕事の幅広さ、関連組織の多様さについても直にお話を聞き、垣間見たことで益々興味が湧いてきた。第一線で働いている先生方のお話は重みがあり、国際保健の難しさとともにその面白さについても心惹かれた。
■今後は今回学んだことから、将来の自分がやりたいことができるように勉強して自分の知識を深め、常識をきちんと身につけ、critical thinkingと広い視野から物事を見るように努めたいと思う。ディスカッションがいかに役立つかがわかったことも収穫の一つだと思う。
 
【山道 拓】
■プログラムでは会議で発言するということの重要性を学んだ。日本が外国へプレゼンスを示すには金銭的援助ばかりではなく、こういう発言を積極的に行って日本的価値を示すことが重要だと感じる。
■今すぐ自分ができること、それは学生としてのinformation managementだと思う。日本に帰ってまずこのフェローのプログラムについて感じたことを発表していきたい。学生レベルでは興味を持つ人を増やすこと、そして、できれば外国人とのfriendshipを築くことが一番の国際協力につながると考える。
■ほかには、このメンバーで新プロジェクトとして翻訳などをしてみたいがバルアさんや泉さんに相談してみるといろいろ難しい面もあるようだ。
■自分個人の将来の進路を考えてみると、JICAには、単純だが大きな問題が存在するように感じ、内部からではなく外圧によってかえることが近道に思える。一方で、WHOのinformation managementには個人の裁量も大きく、魅力を感じる。ここで日本人としてintelligence面でのinitiativeをとれたらと思う。
■最後に、WHOのロゴは西洋中心の地図で西洋の神話をもとに作成されたものだ。これに変わるロゴを考えたい、すなわち今後の世界の保健医療が目指すべき道、理念を考えつづけていきたい。
 
【指導専門家;西村 秋生】
 アスクレピオスの杖にまつわるトリビア−総括ミーティングまとめに替えて
 
 ギリシャ神話にある半人半馬、ケンタウルス族のケイロンは、賢者としてその名を知られていた。あるときケイロンは、太陽神アポロンから、生まれたばかりの息子を代わりに育てて欲しい、と託される。親代わりとなった賢者ケイロンからの知恵をその一身に授かり、男の子は次第に人の命を救う術を身につけてゆき、ついには医業の神として人々から奉られることとなる。医神アスクレピオス、そのシンボルは杖に絡みつく一匹の蛇として表現されている。
 アスクレピオスには3人の娘がいた。末の娘の名はハイジア、hygiene(衛生)の語源と言われている。娘達はその後トルコに近いコス島に居を構え、その子孫は代々アスクレピアイダイと呼ばれる、優れた医師の一族となった。そして、アスクレピオスから数えて17代目に、一族の中で最も有名な人物、医聖ヒポクラテスが現れることとなる。WHOをはじめ多くの医療保健組織のシンボルマークにアスクレピオスの杖が使われているのは、こんな経緯によるものである。
 臨床の勉強は、ほとんどが最先端の知識や情報の習得に集中する。それはそれでとても重要なことである。しかし、皆がこれから国際協力のプロジェクトを進める立場に立つとすれば、それだけでは不十分である。先端技術と同じくらい、その歴史、文化、情勢について知らねば、適切な方法を選択することはできない。今回のフィールドワークを通じて、皆が既にそのことに気づき、実践しようとしていることが解った。素晴らしいことである。「これからも一緒に勉強していきましょう。」
 
4)フィリピン出国、日本帰国
 11日間の研修全日程を終え、フィリピンを後にする空港内。
 私達の研修を根底から支えてくださった指導専門家の西村秋生先生とフェローシップ事務局の泉洋子さんに感謝の意を込め、小さな贈り物と私たちの感謝の気持ちを綴った色紙をプレゼントさせていただいた。西村先生、泉さんに対する私たちの感謝の気持ちを伝えるには、あまりにも小さすぎる色紙ではあったが、色紙いっぱいに書き埋められたメンバー全員の「感謝の言葉」は西村先生と泉さんの魅力的な人柄を十分に表していたように思う。西村先生のユーモアと温かさに溢れ、かつ学生の自主性を重んじた強力な引率、そして、泉さんの類まれな優しさに溢れる微笑みと、お気遣いを抜きには私達の研修の成功を語ることは出来ない。改めて御礼申し上げたい。
 そして、我らの山道拓リーダーにもメンバー全員のメッセージを書き記した手作りのTシャツをプレゼントした。そのTシャツには私達がこの研修中に感じた素直な気持ちや思い出が記され、研修参加メンバー全員の再会と飛躍が祈願されている。
 飛行機の離陸が数時間遅れた為、日本への到着が少々遅れてしまったが、研修期間中、全員何事もなく、いや、日本出国前よりも大きく変化し、成長し、日本に帰国を果した。
 研修を終えたその夜、新たな「始まり」を強く意識しながら研修メンバーは成田空港を後にした。 (文責:遠藤)
 
解散直前の集合写真、成田空港内にて
 
8月13日 今日の一言
 
石井:朝から少し頭が痛かったが、無事成田到着。なんだかすごく長い11日間だった。東京に残るフェロー10人でまた明日会うことにした。みなさん、今後もよろしくお願い致します!
稲田:11日間、楽しかったが今は日本に帰れる喜びで一杯。睡眠時間の借金を早く返済したい。
上原:このフェローシップで自分は何がしたいのかをしっかり考える機会がもてたことがとてもうれしい。これからもこの出会いを大切にしていこう!(飛行機の中の話すっげー面白かったです。)
遠藤:全ての日程が終了し沢山のことを学び、そして沢山のことを学ばなければならないことに気付かされた。メンバー全員が素晴らしい人間性を持ち合わせており、限りない可能性を感じる。研修が終了した今、これからが本当の意味での始まりである。STARTlNG OVER!!
大渕:昨夜も話せなかったし、総括ミーティングだけではとても話しきれない。家に帰ってもなんだか旅が終ってないようだった。自分の中で整理するのはこれから。その意味では確かにまだ終っていない。
坂上:終わった〜。すごい寂しい。日本に帰ってきたら一気に現実に引き戻された気分。勉強になったし、ほんと楽しかった〜!みんなに感謝。
坂口:今回、この16人とは、たった11日間を共にしただけなのに、1か月くらい一緒にいたような気がする。この16人で来れたことに、本当に感謝します。この仲間を得たことが、今回の一番の収穫です。場所や立場は変わっても、今の気持ちを大切にしていきたい。
佐野:ぎゅっと凝縮された日々であった。でも、それほど疲れは感じない。この経験が自分の血や肉になるよう日々考え精進していきたい。
田名:皆に出会えてよかった!フェローは今日で最後だけど、帰国してから、これからが私達の本当のスタートだよね。今後も末永くよろしくお願いします。
土居:みんなありがとう!これからもがんばろう。
名倉:日本に帰るんだぁ...と思ってもなんだか実感が湧きません。とても貴重な体験ができた11日間でした。みんな、本当にありがとう!!
野中:研修は帰ってからが始まりだと思います。新しい第1歩を踏み出したいです。
山道:う〜みんなサプライズありがとう!このTシャツは一生の宝物だ〜。Dr. Namaの機内フィードバックがホント嬉しかった。自分にとっては「リーダーシップとは」を常に意識する旅でした。日本で再会する約束もバッチリ、みんなまたね〜!
横田:出発するときは、最後の日にみんなと別れるのがこんなに寂しいとは思ってもみなかったのに。一生ものの経験と仲間ができました。


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