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14:00〜14:30 Noncommunicable Diseases
Dr. G. Galea
Regional Adviser, Noncommunicable Diseases
 Noncommunicable diseases(NCD)としてDr. Galeaが説明してくださったのは慢性疾患だった。現在、世界の死亡者の6割が虚血性心疾患、脳卒中、糖尿病、癌などの非感染性疾患であり、第57回世界保健総会にて、世界の人々の健康を維持するために慢性疾患の予防を重要戦略の一つに掲げた。WHOでは、各国の現状を分析した上で、心臓病、II型糖尿病、癌、肥満関連疾患などの非感染性疾患が全世界で急激な増加傾向にあることを指摘。全世界で年間5,600万人が死亡しており、その60%はNCDが原因という。また、全世界で発生する疾患の47%がNCDであり、特に発展途上国の若い世代でNCDによる死亡率が66%と高い割合を占めている。NCDは、食生活、活動パターンなど生活習慣の急激な変化が原因とみられている。近年、文明国では、心疾患やタバコなどに関連する疾患の減少傾向が見受けられるものの、患者数は依然高く、若年層の肥満化、II型糖尿病罹患など深刻さを増している。例として糖尿病をあげると、WHOはAction Planとして3つの目標を掲げている。すなわち一次予防(発症を予防する、もしくは遅らせる)、二次予防(罹患患者の症状の進行や合併症発症を予防または遅らせる)、システム作り(一次予防、二次予防を維持するための国家的なヘルスシステムの構築)である。
 最後にDr. Galeaがご自身のダイエットの成功例を写真も交えて簡単に説明してくださった。決意し、計画をたて、実行し、維持する、これらのプロセスを意識して戦略的に行うことでgood weightすなわちgood healthは実現可能ということだ。
 
14:30〜15:00 Reproductive Health
Dr. R. Pang
Regional Adviser, Reproductive Health
 Reproductive Health(RPH)とは1994年国際人口開発会議(カイロ会議)で提唱された概念で、従来の人口政策への反省に立脚し、性と生殖に関して健康問題として認識するという背景から生まれた。「完全なる身体的、精神的、社会的に健康である状態のもとに、安全な性生活および家族計画をすることができること」と定義される。RPHの実践には家族計画の教育、妊産婦へのケア、不妊予防と治療、性感染症(特にAIDS)の予防、安全な妊娠中絶(ただしWHOは妊娠中絶をすすめることはない)が挙げられる。西太平洋地域の課題として、妊産婦死亡数の多さ、幼児死亡数の多さ、周産期死亡数の多さ、避妊具普及率の低さ、望まれない妊娠と危険な妊娠中絶、青年期への不十分な教育などが挙げられ、WPROではカンボジア、ラオス、モンゴル、パプアニューギニア、フィリピン、ベトナムを6つの重点地域に定めている。WPROの定める目標は「2015年までに妊産婦死亡率を1990年の値から75%改善する」「新生児死を減少させることで幼児死亡数を減少させる」である。そのためにガイドライン作成のためにワークショップを開催、関係機関の連携のためのネットワーク強化、臨床現場に対する教育と訓練、などが行われている。
Q. 宗教、伝統医療と家族計画はしばしば衝突するが、それについてどう捉えているか?
A. フィリピンでも避妊は禁止されているが、ここ数年で変化してきた。啓発し続ければ人々の意識も変わってくるということだ。
 
15:00〜15:30 Tobacco Free Initiative(TFI)
Mr. B. Fishburn
TFI Focal Person
 喫煙は予防しうる現代最大の疫病である。世界の喫煙人口は12億人であり、そのうち8億人が発展途上国の人である。2002年には490万人が喫煙により死亡しており、成人の10人に1人が喫煙により亡くなっている。これをコントロールするために供給を減らすことと需要を減らすことの両面からアプローチする必要がある。供給減少の対策として、禁止する、若年層の規制、代替作物の栽培、貿易規制などがあげられるが、これらは通常大きな効果をあげておらず、密輸対策こそが供給減少の対策として効果的である。需要減少の対策としては課税による価格調整こそが短期的にしろタバコ消費を減少させる唯一にして最も有効な方策である。10%価格が上昇すると4〜8%の消費減少が見込まれる。特に若年層や貧困層は価格調整が有効であり、税金は売値の2/3〜4/5まで引き上げるべきである。
 タバコの健康への害を政府に訴えるときは公衆衛生、経済効果の両面を強調する。しかし、中国、ベトナム、日本のように国がタバコ会社を運営しているケースもありきわめて難しい問題である。
Q. タバコ農家がタバコのかわりに栽培する作物はあるのか?
A. タバコ栽培は儲かるので代替作物に切り替えるのは難しい。
 
15:30〜16:00 Stop TB
Dr. P. Van Maaren
Medical Officer, Stop TB and Leprosy Elimination
 現在結核患者数は有史以来最大を数える。また、結核は年間190万人の死亡者数のうち98%が開発途上国からという貧困病である。西太平洋地域でも一日に1,000人が結核のため死亡している。感染が広がるには排菌者・感染経路・暴露者の存在がある。結核菌に暴露される、感染する、発症する、なくなる、その全ての過程にリスクが存在している。これらに対して疫学から得た科学的根拠を元に費用効果も考えて対策を絞っていく。
 結核対策で最も効果であるとされているDOTSは、今やブランドの名前として確立されている。2005年までにDOTS100%が目標である。基本として結核になったら、もしくは結核かもしれないと思ったら、それぞれの地域のヘルスセンターに行くように勧めている。また、疫学データからヘルスセンターがあまり活用されていない地域を探り、サービスを必要な場所に配置できるようにしている。結核とHIV/AIDSの合併は特に問題で、西太平洋地域最大のHIV流行国であるカンボジアでは、AIDSプログラムと共同でプロジェクトを行っている。
 2000年の沖縄サミットで提案され、翌年のG8サミットで採択されたGFATMでは、10ヶ国が重点地域に定められ5年間で1億4800万USDが投じられている。
Q. 日本は結核に対して何をしているのか?
A. 2年前に大阪で国際会議を開催した。WHOとして技術的支援をしているが、逆に日本による技術支援も行われている。日本でも感染が拡大しているが、知識も技術もあるのでWHOとしては政府が責任を持って対策に取り組むように促している。
 
Q. 耐性株についてはどう対策するか?
A. 結核はeradicateできないがeliminateは可能である。耐性株のことを考えても、DOTSは有効。完全に治しきってしまうことで耐性株が出にくくなる。
(文責:山道)
 
2)学生主催懇親会
 WPROでの9時間以上の講義のあと、宿泊していたPavilion Hotelで、尾身先生以下WPRO職員の方々、フィリピン保健省職員の方々、フィリピン大学医学部の学生などをお招きしてフェロー参加者主催のパーティーが開かれた。参加者は沖縄民謡の合唱(田名さんによる三線伴奏付き)、二人羽織、「WHO」の人文字などを披露し、フィリピンの学生はフィリピンの歌で返した。会場は大いに盛り上がり、当初30分の予定だった尾身先生が2時間近くいらっしゃるなど、大成功であった。 (文責:稲田)
 
WHO
 
8月9日 今日の一言
 
石井:尾身先生が、WPROの事務局長というお忙しい立場にありながら、「一期一会」といって4時間にもわたって深く語って下さったことが嬉しかった。パーティーも成功。
稲田:尾身先生のお言葉「一番大事なことは、あなたたちがいったい何が好きなのか、何をやりたいのかってことだ」、もう一度じっくり考えてみたい。
上原:尾身先生の言葉から、今、自分が何をすべきかがわかった気がする。今日思った気持ちを忘れずにいたい。
遠藤:好きこそが才能を開花させ、天才を生む。好きこそは天才の母である。自分が一生懸命になれる道を見つけなければならない。そのためには、正面から自己と向き合い、自己を認め、自己を研磨する事を忘れてはならないであろう。
大渕:WHOでのことは、一言では言い表せない。とても貴重な一日だった。
坂上:尾身先生はすごい人だ!こんな話は、なかなか聞けないと思う。Relevance
坂口:尾身先生の4時間にわたる講義を拝聴できたことは、今回のプログラムの中の大きな価値の一つになった。パーティーではフィリピン大学の学生ともたくさん話せて良かった。みんなで準備した企画も大成功して、本当にこのメンバーで来れたことを幸せに思うよ。
佐野:WHO訪問。尾身先生のおっしゃることは自分の考え方を確認する良い指針であった。尾身先生とバルア先生は根っこでは同じものが流れている。ここでは詳しく語れないが、それは普遍的に適用できるものである。
田名:懇親会皆様お疲れ様でした。余興も喜んでもらえて嬉しかった。そして何よりも尾身先生と出会えたこと、4時間にもわたるそのお話はきっと今後私の人生で何度も何度も思い返されることになると思う。
土居:今、改めて自分が「悩んでいる」という事に気付いた。根本的な問題は何?
名倉:今日のパーティ、みんなお疲れ様!うまくいって嬉しいです。WHOの‘H’の文字だった人、特にお疲れ様でした。尾身先生のお話を聞いてとても元気になりました。少し悪かった体調も回復したし、今日は良いことばかりでした。
野中:‘志’を探すためにも、この日を忘れずにいようと思いました。
山道:人生で一番集中した一日やった...こんなに長時間の講義で一睡もせず質問しまくったのなんて初めてだ。もう僕はいっぱいいっぱいです。講義も尾身先生の話も勉強にたったけど、レセプションを主催する経験、充実感こそ忘れないぞ!
横田:尾身先生の話は胸にしみる話ばかりで、今までの自分を振り返るいい機会になりました。懇親会では、出し物も上手くいったし、フィリピン大の学生とも仲良くなれて楽しいときを過ごせました。


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