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8月8日(日)
本日のスケジュール・内容
1)JICAフィリピン事務所−フィリピン国内保健プロジェクトについての講義
2)KPACIO出資のCPCD幼稚園訪問、家庭訪問
3)KPACIO事務所訪問
4)高級住宅街のショッピングモールへ
 
1)JICAフィリピン事務所−フィリピン国内保健プロジェクトについての講義
 ホテル内のミーティングルームにJICAフィリピン事務所の瀧澤郁雄さんからフィリピンの保健セクターの概要と、JICAの過去に実施した活動(主に母子保健)についての講義を受けた。
 最初に瀧澤さんから、外国に行くにあたってまず何を調べるかという質問をいただき、それに対して皆が多くの意見を出した。大きく分けて背景・社会環境、健康水準、保健資源、保健サービスの枠組みの中から、フィリピンでの例を出して解説が行われた。特に母子保健に関しては性教育から始まりSTDの予防と治療、乳児検診や予防接種など精力的に行われているようだ。出産は、いまだに伝統的な人たちの立会いのもと行われることが少なくなく、医師など医学の訓練を受けた人に相談してほしい、とのことだった。
 瀧澤さんは私たちに自分の医学における専門性を高め、その上でほかの分野の知識も身に付けてほしいともおっしゃっていた。
 
2)KPACIO出資のCPCD幼稚園訪問と家庭訪問
 マニラで活動しているNGOの金光教平和活動センター(Konkokyo Peace Activity Center Information Office; KPACIO)の支援プロジェクトの一つを、フィリピンで活躍されているNGOコディネーターであり、当日のプログラムをアレンジをして下さった穴田久美子さんとKPACのMs. Harriet Escarchaに案内して頂いた。
 訪問したのは、Tondoというマニラの貧困地域のConcerned Parents for Community Development(CPCD)のChild Development Center。小学校就学前の子供たちのための幼児教育を行なう幼稚園のようなところである。このセンターは1986年2月に設立され、活動して17年になる。始めはTondoに住む母親たちが、酷い生活環境の中で幼児教育を受けられるところが必要だと感じて有志によりスタートした。現在では民家を一つ借り受け、その3階建ての建物を幼稚園として活用している。活動を続けていくうちに参加する人々も増え、現在では地域の9バランガイ、5,000家族近くに対応している。
 幼稚園は2歳半から7歳まで、約250人の児童が午前、午後で4クラスに分かれ、3時間ずつ通う。先生はその地域のお母さん方や小学校教員などが担当しており、現在は男性2名、女性8名の10人交替制で運営されている。10人が常勤しているわけではなく、副業を持つ先生方も多い。給料は教員のそれとしては安く、先生方はこの地域に対して奉仕精神のある方である。児童の授業料は月100ペソ(1ペソは約2円)で、他に日に5ペソの給食費が必要になる。この全額払える家庭は殆どなく、幼稚園の掃除、給食作りなどの労働に代えている家庭もある。先生方の給料や給食費については、大半KPACIOなどNGOからの支援によって支えられている。
 フィリピンでは小学校入学前の教育が非常に重要で、幼児教育の時点から、読み書きや英語の勉強を行なう。フィリピンの学校は能力重視のため優秀であれば奨学金を受けてさらに勉強できる。私立の幼稚園などもあるが当然高額である。ここの幼稚園の卒園生は優秀とのことで、評判がいいということだ。
 CPCDはこれら幼児教育に対する活動の他に、母親たちが集まってリプロダクティブヘルスやドメスティックバイオレンスについて学んだり、相談する場でもあり、また幼稚園の先生の教育の場としても活用されている。
 CPCDのオフィスで活動の全般についてお話を伺った後、児童の家庭に、水や避妊など健康調査のアンケートを行なう家庭訪問に同行させて頂いた。私たちは8グループに分かれ、それぞれが職員の方々についていった。Tondo地域はいわゆるスラム地域で、家々が狭い地域に密集して人が多い。バスから降りると物珍しいのか、たくさんの子供たちが大騒ぎをして迎えてくれた。メインルートは車が通れる広さだが家々の間の裏路地はとても狭く入り組んでいる。生活の糧は、海が近いため魚の行商や出稼ぎに頼っている家が多い。一家族は平均5から7人で、4畳一間の家に家族全員が暮らす家庭もあった。ある家庭では、両親以下7人の子供が3畳ほどの一間とトイレという空間に住んでいた。家具はベンチと戸棚とその上にテレビ、ステレオなどで、生計は父親の魚の干物を売る仕事で成り立っていた。そうかと思えば8畳ほどの居間と奥にもう一間ある家で、テレビやコンポ、DVDプレーヤーがあり、壁には写真や絵などの装飾品が飾ってある家もあった。この家では働き手のお兄さんが新潟に出稼ぎに行っているので仕送りが来るとの事。このように同じ地域によっても家々によって様子は異なっていた。子供たちが幼稚園に通っているからか、お母さん方は先生方と顔見知りで丁寧にアンケートに答えていた。皆さん親切に私たち学生の質問にも答えてくれ、全部回る前に時間になってしまったが、それぞれのグループで印象深い訪問となった。家庭訪問の感想を先生方の前で発表した後、名残惜しく思いながらもTondoを後にした。現状や価値観など思いもよらなかったことを学ばせていただいたと思う。
 帰り道、今では外国人は立ち入れなくなっているスモーキーマウンテンをバスの中から垣間見た。ごみの山の上でごみを拾って生計を立てている人たちが働いているのを見て、メンバーはさらに衝撃を受けた。
 
Tondo地域の街並み。左から2つ目の家が訪問したセンター
 
幼稚園2階。幼児教育から英語がある
 
家庭訪問先の家族と。この人数が一間に暮らす
 
3)KPACIO事務所訪問
 CPCDに支援しているKPACIOの事務所を訪問してお話を伺った。KPACIOは主な活動の一つとして教育プログラムの支援を挙げており、その一環としてCPCDの支援を行なっている。金光教の支持者の寄進によって成り立っている活動であるため、その支援先が子供や母親に向きやすいとの事である。他に女性の職業支援として織物や染物、メッセージカードなどのプロジェクトも扱っており、この事務所を通して実際に販売している。この他、フィリピンの人々の価値観や考え方など私たちの個々の質問に答えていただいた。フィリピン人は宣伝に弱いとのことで、裕福とはほど遠いTondoの家庭でも大抵置いてあったテレビなどもその影響であるということだった。
 
KPACIOではプログラムで作った布や小物の販売も
 
4)高級住宅街のショッピングモールへ
 マニラでも有数の高級店が並ぶショッピングセンターGreenbeltを見に行った。昼間に行った地域とは全く違う高層ビルやホテルが多く、高級感溢れる店舗やレストランが並び、まるで日本の都心のようで、フィリピンの経済格差が今日一日で垣間見られた。 (文責:名倉/大渕)
 
8月8日 今日の一言
 
石井:午前中の瀧澤先生の講義の中で、みんなで行った国際保健に関するbrainstormingが具体的にまとまっていて勉強になった。その後のフィールドでは、子供達の満面の笑顔がかわいかった。
稲田:スラム街の子供の元気さに圧倒された。15年前の自分を重ね合わせてみた。
上原:生まれて初めてスラムを見た。そして、その現実はそれまでの想像の世界とはまったく別のものだった。ここで感じたものがいったい何なのか、しっかり考えたい。
遠藤:私のidentityを考えるにつけ、今現在、私がする自己紹介を30年後、より面白く、そして魅力あるものにしたい。その魅力とは「見栄え」のするもののことではない。多くの方々と出会い、おしみない努力と苦労を重ねた上で形成されるものでありたい。
大渕:スラムの民家の内と外のギャップに驚いて、ずっと見てみたいと思っていたsmoky mountainをみて、どちらも重い。
坂上:スラム街に行った。スラムの中でも貧富の差があるんだなぁ。にしてもこんな体験はこのプログラムじゃないとできないと思う。貴重な体験だ!
坂口:マニラ市内スラム街でのNGO活動の見学は、僕の心に大きく響いた。国って何なのだろう。
佐野:JICAの実務、現状をお聞きした。単なる同情心だけでは決して務まらない。その土地に入り込むにはその土地の民族言語の習得が非常に助けになることが分かった。
田名:いわゆる「貧困地域」を見学後、高級住宅街で食事と買い物をし、この国の貧富の差を縮めることの困難さを肌で感じた。私達外国人が差を広げる一端を担っている事実は否めないだろう。
土居:天井が低く、窓の無い部屋。靴と食器が同じ棚に並ぶ。正直びっくり。CPCD職員の方は非常に熱心で、進言するにはかなりの予備知識や能力が必要と感じた。国際協力は難しい。
名倉:バランガイでは家族愛がちゃんと存在していて、日本の幼児虐待がとても情けなく、悲しく感じました。ただ、訪問先の家の子が明らかに水庖瘡で、かかったことのない私は相当あせりました。
野中:マニラのスラム街が抱える多様な問題を子どもと母親の教育という視点から自分たちの力で変えていこうとするCPCDのプロジェクトで、教育の持つ重要性を実感しました。バルア先生の「援助は1年あればお米を、10年あれば木を、100年あれば教育を」という言葉を思い出しました。
山道:よっしゃ!レセプションの段取りは完璧、スピーチも何とかなるかな。にしても芸達者な人が多くて感心する。明日のヤマを乗り切ればもう少しフィードバックの時間が欲しいなぁ。
横田:スラムでのNGOのフィールドワーク活動は、今までの人生の中でも数本の指に入るくらい衝撃的なものでした。


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