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8. 一等食堂(ダイニングサロン)
 プロムナード・デッキの一等喫煙室を出てきた船客は、中央エントランス・ホールを経て、広さと絢爛さ(けんらんさ)を誇る一等食堂の入口に導かれてきます。
 
一等食堂(ダイニングサロン)のカラースキーム 三菱重工業
 
一等食堂(ダイニングサロン) 日本郵船
 
特別食堂 三菱重工業
 
 豪華な料理を用意万端(ばんたん)整えて扉を開け放ち、ボーイ達は容姿を正して船客の入来を待ちかまえているという寸法です。
 入室一番眼に飛び込んで来るのは特長ある内装壁面の荘重さ(そうちょうさ)でしょう。壁や柱の要所要所に天然の銘木たる※(3)「とねりこ」材をはりつけ木肌の美しさを充分に誇った後、その余白に大理石や色付きガラスを交えたアルマイト板をはめ込んで部屋にゆとりと奥行感をあたえる室内装飾の手法が用いられています。
 照明は、間接と直接の併用(へいよう)で、前者は先のとねりこ壁の張り出した上辺すべてに光源が取り付けてあるように思われ、当時まだ蛍光灯が一般的でなかったのでネオン灯では?との推察もできます。直接照明の電灯器具は、成型された乳白色ガラスと真鍮による製品ですが、通風口やその他の装飾金具と共に天井面に白と銀の歯ぎれのよいリズムを展開しています。
 床はゴム質の床張り材で濁った(にごった)緑の濃淡による模様張りが床面を走ります。
 このような室内構成に対して最後にすべてを締めくくるのは、渋い灰と緑の床に映える色鮮やかなローズの椅子張りです。純白のテーブルクロスとのすがすがしい対比に感動を覚えぬ者はいないでしょう。
 正面サイドボード上には尾形光琳(おがたこうりん)の「紅白梅屏風」を模した漆の蒔絵が、アルマイトのエッチング処理と漆を併用して描かれています。これも松田権六の作品で、この豪華な蒔絵の扉を左右に開くと、スクリーンが現れます。背後は、映写機が置かれた映写室になっています。
 なお、一等食堂の右舷前方には同じく村野の手で設計された、8人掛けの個室になった特別食堂が設けられています。


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