12. 二等ラウンジ(社交室)
二等ラウンジ(社交室)はAデッキ後部の右舷にあり、室内は青と緑とアイボリーの華やかな三色調和となっています。椅子内面を飾る花模様が可憐(かれん)で美しく、床の大胆な風合いと対照的です。正面に置かれたアップライト・ピアノや、明るい壁面が華やかで陽気な印象を与えます。
二等ラウンジ(社交室)のカラースキーム 三菱重工業
二等ラウンジ(社交室) 三菱重工業
13. 二等喫煙室
この部屋もAデッキ後部にあり、室内は青と緑とアイボリーの配色ですが、彩度が低く際立って渋い調子の奥ゆかしい印象の部屋となっています。後部マストの基部がこの部屋に出てきました。ここは遊具入れになっていて、それがピンクに塗装され、思い切った配色となっています。
二等喫煙室のカラースキーム 三菱重工業
二等喫煙室 三菱重工業
14. 二等食堂
厨房に接して左舷に二等食堂と配膳室があります。薄紫の壁、赤紫のテーブルクロス、それに青紫の椅子と同系色の競演となっています。2本一組の柱はカラースキームでは手前の一組を省略されてしまいましたが、実際には船体強度上必要で2組とも立っているのです。またそのほうが、高雅(こうが)で落ち着きがあります。紺(こん)と黄の線がくっきりと床の周囲に鮮やかです。
なお二等になると、壁面の窓は丸窓となっています。
15. あとがき
このように関係者が苦労して、当時の最新の材料・技術、そして伝統の美術・工芸を生かしてまとめ上げられた“新田丸”の「現代日本様式」の船内装飾でしたが、わずか1年足らず6回の航海で外航客船としての使命は終わってしまいました。
そして、海軍の航空母艦に改造されるにあたっては、その象徴ともいえるプロムナード・デッキより上部が取り払われ、航空機の離発着を想定した飛行甲板と格納庫が設けられてしまいました。
あの、一等ラウンジ(社交室)も、一等食堂も、豪華な蒔絵も跡形もなく剥ぎ(はぎ)取られ、破棄されてしまいました。
今日ではわずかに残されたカラースキームと写真からしか往時の姿を偲ぶ(しのぶ)ことはできなくなってしまいました。これは、誠に残念なことで、その無念さは言葉では言い表せない今の心境です。
ー種の設計図面だが、主として部屋を立体的に表示して家具の形とか色合を決定するために用いる計画図面。
厚板ガラスを間仕切等に活用するため表面に絵や図案等を彫刻して芸術性をもたせたもの、制作はマスキングした後に砂によるジェット吹きつけ。
洋名アッシュ。落葉高木、辺材は白、心材は黄褐色材質緻密なので家具、装飾材に利用される。
金属、木材・陶器の表面に模様を刻み、そこに同質または異質の詰め物を詰め込んで表面を平滑に仕上げること、またはその作品。
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(文・兵頭喜明(ひょうどうよしあき))
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