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II-2 油および杉樹皮製油吸着材の微生物分解処理実験
 本調査研究の最終目標は、生分解性を持つ杉樹皮製油吸着材の微生物分解処理技術およびシステムの確立である。その場合の実用モデルとして考えられる例は、油濁発生現場から運搬されてきた使用後の油吸着材を、「閉鎖された空間」において必要量の微生物、栄養源、および活動に適した環境を与えて、速やかに分解処理を行い、安全基準範囲内に達した残留物を環境(例えば土壌)に戻す、というものである。
 この「閉鎖された空間」に、バーク堆肥製造工場における微生物活動ヤードをそのまま適用することをモデルとし、このモデルの可能性を検証するべく、II-1に概要を述べたように13年度実施の小規模フィールド実験(堆肥全量で約10m3、攪拌無し、知覚試験のみ)および、14年度の中規模フィールド実験(同36m3、攪拌有り、油分濃度測定有り)を行い、油分の推移につき調査を行ってきた。これを基に、今年度は前回からパイル容積の規模を拡大し、いわば「実用フィールド実験(同100m3、攪拌有り、油分濃度測定有り)」を行った。
 
1 実験の方法
(1)概要
 バーク堆肥原料に、昨年度の油分分解実験に供した分解残留物を混合し、その中に吸油後の油吸着材を埋め込み、円錐形パイル状に被覆した後、定期的に攪拌(切り返し)を行い、油分濃度の変化を調査した。実験のフィールドは、昨年と同様に、ぶんご有機肥料(株)(大分県竹田市)内に設けた。
 用いた油はC重油300kgで、製品版の「杉の油取り」マット型(45cm×45cm)に、1枚あたり1.0kgを吸着させたものを合計300枚用いた。バーク堆肥はホイールローダのバケットで容積を計量した約100m3ほどを用いた。嵩比重が約0.5であることから約50tであると推定される。パイルの形状はやや膨らんだ円錐台状で、上面φ2m、底面φ7m、高さ3.5m程度となった。
 バーク堆肥原料は発酵開始から数ヶ月経過した微生物活動の活発なものを使用した(油分濃度0.03%)。昨年度の油分分解実験に供した分解残留物は、分解開始後約1年が経過したもので、油分濃度は0.09%である。これらを9:1で混合したものを実験に使用した(油分濃度0.03%)。
 以上により、パイル全体の実験開始時の油分濃度の平均値は約0.6%と推定される。
 なお、前回使用した分解残留物を少量混入するのは、油分分解に馴化した微生物相による通常のバーク堆肥原料よりも高い油分分解機能を期待してのことである。
 攪拌はパワーショベルなどの重機を用い、バーク堆肥パイルの上側からすくい取ったものを隣接するサイトに順次移動させる方法で行った。頻度は約2週間に1回であり、この際に油分測定のためのサンプリングも同時に行った。
 
(2)吸着マット投入の方法
 以下の手順に従って、吸着マットをバーク堆肥パイルに埋め込んだ。
(1)大型容器(ドラム缶)を計量する
(2)大型容器に吸着マットを入れる
(3)大型容器に計量したC重油を注ぎ、吸着マットに吸着させる
(写真−II.2.1)
(4)吸油後の吸着マットを大型容器から取り出し各パイル断面に規定枚数並べる
(写真−II.2.2)
(5)大型容器の減量分を計量する
(6)パイル断面に吸着マットを並べ終わるとバーク堆肥で規定の間隔(高さ)だけ被覆し、順次上のパイル断面に移り、同様の作業を行う(図−II.2.1)
(7)結果的に規定枚数で規定油量がほぼ全て吸着されるように途中で微調整する
 
写真−II.2.1 C重油を吸着マットに吸わせる様子
 
図−II.2.1 バーク堆肥パイル断面への吸着マット設置の概念図
 それぞれの断面に、外輪縁を50cmあけ、中央部に重ならないようにマットを置く。枚数は、上の断面から順に、29、33、38、42、47、53、58枚(合計300枚)とする。
(パイル外寸:上面φ4m、底面φ8m、高さ3.5m程度、容積約100m3
 
写真−II.2.2 パイル断面に並べた吸着マットを被覆する様子
 
(3)攪拌およびサンプリング
 バーク堆肥は製造工程において、好気発酵に要する酸素供給のために定期的に攪拌(切り返し)を行っている。活発な微生物活動に資するため、本実験においても約2週間に1回の頻度で攪拌を行った。パワーショベルなどの重機を用い、バーク堆肥パイルの上側からすくい取ったものを隣接するサイトに順次移動させる方法で行った(写真−II.2.3)。攪拌の際に油分測定のためのサンプリングも同時に行った(図−II.2.2および写真−II.2.4)。
 
写真−II.2.3 パイルの攪拌の様子
 
図−II.2.2 バーク堆肥パイルからのサンプリング概念図
 (1)〜(3)の各断面につき、(1)〜(9)の各点でサンプリングを行う。
 上から重機でバーク堆肥を取り除き、(1)、(2)、(3)の順でサンプリングを行う。サンプリングは一箇所5g程度とする。
 (1)〜(9)は採取後によく混合し、各50gずつ取りだし、(1)〜(3)の3検体とする。 
 
写真−II.2.4 バーク堆肥パイルからのサンプリングの様子
 
(4)測定項目
 測定項目は以下のとおりとした。
(1)油分濃度(n-ヘキサン抽出重量法)
(ア)2週間に1回程度(攪拌時毎)
(イ)曲線がほぼフラットになる時期(4〜6ヶ月程度)まで計測
(2)油種の調査(ガスクロマトグラフィー(GC)定性分析)
(ア)8週間に1回程度
(イ)曲線がほぼフラットになる時期(4〜6ヶ月程度)まで計測
(3)微生物相の調査(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE))
(ア)6週間に1回程度
(イ)曲線がほぼフラットになる時期(4〜6ヶ月程度)まで計測
(4)目視観察など(油の臭気、手指への油分付着など)
(5)パイル内の温度(週1回程度)
 
 なお、油分の測定はII-1で述べた理由からn-ヘキサン抽出重量法によった。(1)および(2)の分析作業は(株)住化分析センターに、(3)については広島大学生物圏科学研究科に委託した。(5)はぶんご有機肥料(株)が行った。(1)については測定値からバーク堆肥そのものが含む溶媒可溶分(0.03)を減じ、バーク堆肥からのC重油回収率(0.75)で除することにより、サンプルに含まれる油分濃度を推定した。
 また、本方式のサンプリング作業に起因すると思われる測定値が低く出る現象を補正するため、バーク堆肥からのC重油回収率(0.75)のかわりにII.1で述べたサンプリング補正の係数(0.48)で除したものを併せて算出することとした。
 温度の測定は、4箇所の測定点におけるパイル表面から70cmの深さ地点にて行った。


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