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3 平成15年度の研究成果(海上災害防止センター委託事業「杉樹皮製油吸着材の微生物分解処理技術に関する調査研究」)
(1)誤差評価のための実験(溶媒抽出、サンプリングなど)
 まず、本調査研究で用いるC重油の、各種溶媒への可溶分の比較を行った。溶媒により、可溶分それぞれ、四塩化炭素:84%、クロロホルム:81%、n-ヘキサン:71%となった(測定:(株)住化分析センター、JIS工場排水油分試験法による)。抽出能力の点では四塩化炭素やクロロホルムが優れるが、この二つは現在および今後も社会的に使用が歓迎されない状況にあることと、n-ヘキサンは各種公定法に用いられる一般的な溶媒であることから、15年度以降の研究ではn-ヘキサンを溶媒として用いている。
 あわせて、実際の油分測定を行うサンプルである「バーク堆肥」から、n-ヘキサンにてC重油がどれだけ抽出されるかを検証したところ、回収率は平均で75%であった。一方、C重油を添加しないバーク堆肥そのものからも重量比で0.03%ほどのn-ヘキサン可溶物が検出されることが判明した。
 以上の実験により得られた溶媒抽出に関する誤差は、今後の測定データを補正する際に利用することとした。
 次に、サンプリングに伴う誤差について検証した。油分濃度の経時変化の測定は、27地点(9箇所×3面)のサンプリングによる。これらの油分濃度測定値のバラつきを調べたところ、図−II.1.2に示す結果となった。理論上、1%であるはずの油分濃度は平均値で0.48%しか計測されなかった。これは、溶媒の抽出力の限界によるもの(1%→0.75%)に加え、サンプリング作業に起因する要素による減少、すなわち油は塊になりやすく小さなサジですくい上げる際にはピックアップされにくいため、油分の薄い部分をサンプリングする可能性が高いことなどが考えられる。これに、バーク堆肥そのものが含む溶媒可溶分(0.03%)による増加などの要因が総合され、この値の変化(0.75%→0.48%)が現れていると考えられる。
 従って、今後の油分濃度の経時変化を調べる際には、溶媒抽出に関する誤差の補正を行ったものに加え、サンプリング誤差の補正による推定値をあわせて検討することとする。もちろん、分解が進むか、あるいは攪拌の回数が増すことにより、塊状の油分がほぐされるなどして、上記のサンプリングによる誤差要因が変化することも十分考えられるため、このサンプリング補正は絶対的な信頼のおけるものではなく、参考値と考えるのが妥当である。
 
図−II.1.2 油分濃度の度数分布
 
(2)中規模フィールドでの油分分解実験
 バーク堆肥(約1年発酵段階のもの)中に吸油後の油吸着材を埋め込み、円錐形パイル状に被覆した後、定期的に攪拌(切り返し)を行い、油分濃度の変化を調査した。C重油180kgを製品版の「杉の油取り」マット(45cm×45cm)に吸着させたもの180枚を、バーク堆肥約36m3(約18t)に埋め込み、上面φ2m、底面φ5m、高さ3.5m程度のパイルとした(当初の油分濃度約1%)。パワーショベルなどを用い、約2週間に1回攪拌し、この際に油分測定のためのサンプリングも同時に行った。
 油分濃度の変化を図−II.1.3および4に表す。実験開始時(0 DAY;油分濃度理論値1%)には吸着マットは原形を保っており、パイル内の油分濃度は均一にならず測定が不可能なため、開始後2週間時点に1回目のサンプリングを行った。既に吸着マットの原形は留めておらず、これまでの実験同様、マット内に含まれるパーライトの存在により、原位置が判明する状況であった。油の臭気については2ヶ月後程度まで、明確な臭気を伴っていたものの、徐々に有機物的な臭気に変質し、それと知らぬ人間には油の臭気どうか判別がつかない状態に変化した。
 
図−II.1.3 油分濃度の変化
 
図−II.1.4 油分濃度の変化(サンプリング補正済)
 
 なお、興味深いことに、この本実験用パイルに隣接する誤差評価実験用の小型パイルにカブトムシが産卵をした模様で、秋〜冬にかけて幼虫が数十匹ほど生育している様子が観察された(図−II.1.5)。
 
図−II.1.5 バーク堆肥小型パイルで育つカブトムシの幼虫
 
図−II.1.6 バーク堆肥パイル内の温度変化
 
 バーク堆肥パイル内の温度変化を図−II.1.6に示す。実験当初は、バーク堆肥の活性な状態とされる60℃前後を保っていたが、徐々に温度が低下する傾向が見られた。開始後100日経過時点からはほぼ50℃以下を推移し、140日経過時点以降は40℃を下回る状態が現れた。
 
(3)まとめ
 油分濃度は減少傾向にあり、開始後数十日程度で本来の油分濃度の1/5以下にまで低下していた。厳しい見方をしたとしても、当初の1/2〜1/3程度にまで低下していると考えても良いと思われる。
 一方で、数十日経過時点から先は目に見えた変化が現れていない、というのも今回ほぼ明らかになった傾向である。これについては、大きく二つの解釈が可能である。
(A)微生物活動が低下したために油分分解が進展しなくなった
(パイル内温度の低下がそれを裏付けている)
(B)C重油のうち、バーク堆肥に生息する微生物では分解困難な成分が残留した
 これらの点については、平成16年度以降に結論が持ち越された。


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