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III 微生物相の特定
 第II章に記述したように、杉樹皮製油吸着材は使用後に焼却処分ではなく、吸着材本体が生分解性である特徴を活かし、微生物分解の手法によって油分および吸着材本体を分解し、低い環境負荷かつ安全な形で土壌などに還元しようとする試みをこれまで行ってきた。
 一方、これまでバーク堆肥パイルという活性な微生物活動が行われているフィールドにおいて、油分濃度が減少していくということは確認されていたが、その中にどのような微生物が生息し、油分解に貢献しているかについては確認されていなかった。
 そこで、今回は油分分解処理・堆肥化工程の微生物相を、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)の手法を用いて特定を試みた。このことは、今後の本技術の実用化に向け、技術自体の信頼性を向上すると共に、分解工程の安定化および再現性確保に資するものと考えられる。なお、DGGEについては広島大学生物圏科学研究科・長沼毅助教授に依頼した。
 
1 実験の方法
 II-2記述のバーク堆肥パイルにおいて6週間ごとにサンプルを採取し、サンプル中の微生物相について、DGGEによる解析を行った。サンプルからのDNA抽出は、バーク堆肥というサンプルの性質からある程度テクニックを要した。一般に、サンプルからのDNA抽出は、基本的に水と油を加え、水に溶けるもの、油に溶けるものに分けることを繰り返し、欲しいもの(DNA)だけを取り出す、というものである。今回のサンプルについては以下の手順で行った。
(1)バーク堆肥サンプルをビードビーターで振動し、微生物の細胞壁を破壊し、DNAを取りだす。
(2)次に、チューブにサンプルとPCIを加えてよく混ぜる。上層に水、下層にフェノール、という状態になり、DNAや糖質は水に溶けるので上層に、タンパク質は両方に溶ける(両親媒性)なので中間層に、脂質その他は下層に溜まる。DNAのある上層のみを取り出すが、このときに不純物の入らないよう、中間層を取らないように上だけを取るが、中間層を嫌いすぎると欲しいものまで取れないので、多少テクニックを要する。
(3)その後、別のチューブに入れた上澄みにアルコールを加えると不要物である糖質は溶けるがDNAは溶けずに沈殿する。その沈殿物を取り、乾燥してDNAを抽出する。今回はバーク堆肥のサンプルであり、この沈殿物はいろいろな有機物が含まれているため、褐色である。
(4)取りだしたDNAにつきDGGEを行い、油分解前後の2サンプルの相違を比較した(図−III.1.1)。分解前に特異的なもの、分解後に特異的なもの、分解前後で共通のものにつき、16SrDNAのシーケンス解析を行って微生物種を推定した(図−III.1.2)。相同性は99%で同種、97%以下だと異なると考えてよく、90%台だと属レベルで同じ、それ以下だとほとんど関連はない、或いはあてにならないレベルであると言える。
 
図−III.1.1 油分解前後のDGGEパターン比較
 
図−III.1.2 油分解前後の微生物種の推定
(拡大画面:51KB)
 
2 実験の結果
 図−III.1.2において、「Before」は分解前に特異的なもの、「After」は分解後に特異的なもの、「Common」は両者に共通するものを示す。Common(共通なもの)のUreibacillus thermosphaericus(ウレイバチルス属)は好熱菌であり、通常の土壌には存在しないウレイバチルス属細菌を高温となる堆肥内に確認し、本実験の有意性が示唆されたと言える。
 After(油分解後に特異的)に、CFB(サイトファーガ・フラボバクテリウム・バクテロイデスグループ)が確認された。CFBは油流出事故のバイオレメディエーションにおいて増え、石油分解菌として働く微生物であるという報告がなされており、この微生物が我々の行うバーク堆肥パイルでの実験において、油分分解に関与している可能性が示された。


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