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世のため、人のためになると話題性がある
 では、話題性とは何なのか。学者は、「話題性とは」と無理に話をつくるから、ごてごてしたアイデアが出る。
 最もよく通る話題性の根源は、世のため、人のためになることをしているということです。
 それから、常に先頭を切っているということです。おにぎりを少しでも安く売ってあげよう。そのためには努力するという姿勢です。
 そういう真っ当なことが、話題性としては一番強いのです。
 人の目をごまかすようなアイデアは駄目です。そんなことの効果は一瞬のことです。
 結局言いたいことは、アメリカのセブン−イレブンは、アメリカの大都市問題の中から、その解決手段の一つとして生まれたのです。これは大変なことですよ。民主党の大政治家が寄ってたかって福祉をばらまいているとき、一民間業者が「こういう店をつくれば、少しはコミュニティのためになる」と実行したのですから。
 もう少し言えば、アメリカがどうしてあそこまで荒れ果てたか。まずはベトナム戦争ですね。ベトナム戦争で、さんざん人間の道に反することをした兵隊が戻ってきた。アメリカに帰ってきてから、もとの心に戻るまでが大変なのです。戻れない人は、そのまま社会復帰できなくて、犯罪者になったりする。そういう現象がありました。
 くだらないやつを相手にしていると、自分もくだらなくなるもので、独裁者を相手に戦争をしていると、自分も独裁者になる。ならなければ勝てないということもあるんです。今度のイラク戦争も、もともとはシャロンという狂気とも言うべきユダヤ教の原理主義者がイスラエルにいて、PLOのアラファトを殺すと大きな声で言う。一国の首相の言うことではありませんが、それをどんどん実行する。となれば、アラファト支持者も、抵抗手段は我々には暗殺、テロ、これしかないとなる。
 しかし常軌を逸したことですから、みんなで一生懸命仲裁をする。ブッシュも仲裁に乗り込んでいったが、その案が、あまりにもイスラエル寄りだったので、これでアラブは絶望して、よし、アメリカも敵だとなった。
 ユダヤ原理主義、イスラム原理主義と向き合っているうちに、アメリカも原理主義になった。ブッシュ大統領も、キリスト教原理主義者にどんどんなっていく。それを見て、パウエルさんとかアーミテージさんは、だんだん嫌気が差してくる。たとえブッシュが再選しても、嫌気が差した人はやめるのではないかともっぱらのうわさです。
 長く戦うと、お互いに似てくるんですね。
 その点、偉いのは日本国です。日本ぐらい偉い国はない。原爆を落とされても、自分もかわりに落としてやろうとは絶対に思わない。こんな国はありませんよ。いかに崇高な民族であるか。日本は、中国からデマだらけの宣伝をされても、こっちからやり返そうとはしません。弁解もしません。こういうインチキは今に消えるだろう、あまりにもあからさまな嘘は言ったほうが恥ずかしいのであって、今に中国は大恥をかく。韓国も大恥をかく。それをこちらからいちいちとがめ立てするのは、かえって品がない。いずれ消える話だと、相手にしない。問題は、そんなに上品でよいのですかということです。
 
 こういう点への感覚は世代の差がありまして、この間、私は森永卓郎さんと対談して『日本人を幸せにする経済学』(ビジネス社)という本を出しました。その中に入っていますが、あの人は絶対平和主義の世代ですね。原理主義者です。目の前で家族が殺されても私は戦争はしませんと、クエーカー教徒と同じことを言っていました。
 森永さんは、いわゆる学歴、職歴を書き挙げると、私とよく似ているんです。東大経済学部を出て、日本専売公社に入って、それから日本経済研究センター、経済企画庁へお手伝いに行って、帰ってきて、三井情報開発総合研究所、現在はUFJ総合研究所ですが、実質は独立してやっている。
 ですから、どこが似ているかというと、官庁作文とかエコノミストの作文が立派でも、別に驚かない。感心すべきものはするが、大体はしない。それ以上のことを、何か自分で考えよう。何か言おう。「自分」というのがあるんですね。
 余談を言えば、何でも集めるのが趣味だそうで、そういう方面に関してはとても詳しいんです。何を集めているのと聞いたら、たとえばコカコーラの缶。コカコーラには何百種類もあるらしい。それを片っ端から集めて、あるときカバンにいっぱい詰めて、アメリカの税関で引っかかったそうです(笑)。それはそうでしょう。空き缶ばかりですよ。中身が入っていると、重たくて持てませんからね。コカコーラの空き缶ばかりがカバンいっぱいに入っていると、まるで手榴弾に見えますから、これは何だ? 「Cans」と言ったら怒られた(笑)。目的は何だと聞くので、しようがないからCansが楽しいんだと、いろいろ説明したらなんとか許されたそうです。
 それから、ドリンクのふたを集めている。上海に行って、中国も大衆消費文化時代に入りましたから、いろいろな飲み物の新製品がたくさん出ている。それをたくさん買って、中身は捨てて、ふただけを取る。一緒にいた中国人が、何をしているのかと不思議がるので、「いや、ふたを集めているんだ」と言った。すると「なんだ、簡単だ。そんなものはすぐに集めてやる」と言って、ごみ拾い屋のところへ行った。ふただけなら、ほらとたくさんくれて、私は嬉しくてしようがなかったと話される(笑)。そういう自分の世界があるから、他の人がやっていることを見ると感想が湧いてくるわけです。そこにユニークな立場があるんですね。
 ところで、こういうコレクションの世界は、経済学者が困っている世界なのです。普通の経済学のマーケットの理論が当てはまらない。
 だって、要らないものだから(笑)。不要品に値段がつく。実用品でないのに値段がつく。しかも、芸術でも何でもない。人と変わっているということが嬉しいらしい、と、これは経済学では扱えない。
 しかも、集めていくと、だんだん高い値がつく。これは、普通の効用逓減説に反する。たとえば、お腹いっぱい食べたらもう要らない。最初のリンゴ一つは値打ちがあるけれども、五つ目、六つ目のリンゴになるともう要らない。効用は逓減する、価値は逓減するという理論ですが、コレクションだけは逓増する。あともう一つ欲しい、そうすると完成だ。完成したってしようがないと思うんだけれど、本人は必死なんです(笑)。
 こういうのは経済学では、のけてある。そんなことを議論しているひまはないと。
 
 しかしそういう経済学は、貧乏な時代の経済学なんです。生活必需品だけを扱う経済学です。
 しかし、それがおかしい。今の日本人は、生活必需品はみんなあるという人ばかり。そうすると、あとは何が欲しいかといえば、こういう趣味だとかコレクション。見せびらかすためのもの。そういうものが欲しい。
 こういうことに関する経済学は、古い学説を見ても絶対にありません。少なくとも主流にはありません。だって、昔はみんな貧乏で、食うや食わずだったから。そういう時代の経済学をたくさん勉強して、自分は学者ですなどと言う人は、たいへん迷惑です。
 今の日本に、それは当てはまりません。今、日本人は、要らないものばかり買う。自慢になるような話題性があるものを買うのが主で、もう一歩先へ出た人は、話題性がないものを買うのが自慢なんですね。
 やがてそれが話題になる。するとそのとき大満足する。日本は、三歩も先へ行っている。森永さんの「年収三〇〇万円時代」は流行語になりました。三〇〇万円でも楽しく生きていこうという本で、ベストセラーとなりました。小泉首相と竹中大臣の批判をたっぷり書いていることはご存知のことと思います。あの人はアメリカ経済学をそっくり持ってきてやっているが、アメリカ経済学はユダヤの経済学で、貧富の差をつくる。貧乏人をたくさんつくることに何ら心が痛まないという経済学を持ち込んでいるから、いま日本では貧富の差がどんどん開いているではありませんかと、書いています。
 だけど出版社が、それだけでは売れませんよ、三〇〇万円時代になっても生き抜く方法を付け足してくださいと言ったのかもしれません。日本ではノウハウブックが売れますからね。これは、江戸時代からそうです。江戸時代は、出版の中心地は大阪だったのです。大阪に出版社がたくさんあった。そこで出された本で、ベストセラーを出す心得という本があって、その中に「一番売れるのはノウハウものとカレンダーだ」と書いてあるんです。それは今も変わらないらしい。
 ところでその本がたくさん売れたので、森永さんは三〇〇〇万円、四〇〇〇万円のお金持ちになった。なんとかして三〇〇〇万円を使わなくてはいけない。だけど、趣味は瓶のふただから、金は要らない。それが悩みだと話していました(笑)。たいへん進んでいる方です。
 そういう人が様々に現れているのであって、それも日本の底力です。
 
 ――質問ですが、アメリカではベトナム戦争の結果、兵役というのがなくなりましたね。昔はエルビス・プレスリーでも誰でも、兵役といったら、一緒に合宿訓練をやっていました。それも一つ、アメリカが変わったことに何か関係があるんじゃないかなと思うんですが。
【日下】 たしかに徴兵制に戻るべきだという議論が出ています。アメリカがバグダッドを攻略したとき、『NEWSWEEK』がすぐにこう書いた。百何十人が戦死した。その内訳を見ると、貧困層ばかり、黒人ばかり。それで死んだ人のお母さんにインタビューする。我々は移民で貧しくて、あるいは黒人で、子供が一人兵隊に行くと家族全部が健康保険をもらえる、病院へ行けるようになるというので、じゃあ、お母さん、自分が行くよと言ってあの子は出かけていったのに、死んでしまったと話している。軍隊へ行って帰ってくると、大学へ行く奨学金がもらえる。だからといって行く。
 アメリカにおける奨学金には、そういう兵隊をつくるための奨学金がある。それなら奨学金は、アメリカにおいては軍事費ですね。慈善事業と言えるかどうかわかりません。そんなことが、アメリカで問題になっています。
 もう一つ問題なのは、兵隊の数が足りないということです。陸軍の兵隊が六〇万人ぐらい。それで、イラクへ一七万人が行きました。イラク全土は日本ぐらい広いのです。一七万人ぐらい行っただけではとても足りない。しかし、もっと増派する力がない。それは徴兵制でもしなければ、志願だけでは集まらない。
 「このままではアメリカは兵隊が足りない」というわけで、韓国や日本に期待が集まる。だから、日本はもっと真剣に自分のことを考えなければいけません。
 ただ、事件が起こると、日本はがらっと変わるんです。それまで黙っていた人が、一夜にして変わる。選挙でもそうですね。浮動票というのは何を考えているんだと思うけれども、要するに言わないだけなんですね。心の中では、もやもやと考えている。動くときは一夜にして動く。そういうのが日本かなと思っています。
 そこでインテリと称する人は、欧米的に口に出して話すのが自慢ですが、それなら言ったことは簡単に変えてはいけませんね。責任を持って話すから、人が聞くのです。特に学者は、一〇〇年ぐらい変えてはいけない。だから信用がある。ところが、最近は日本人の学者がいて、根本は日本人だから、一夜にして変わる(笑)。
 私は、日本人というのは一夜にして変わるんだから、内外多事多難でもまあいいやと思って暮らしているのです。困ってきたら、何とかするだろう。
 そのときに、何とかする底力は日本にはあります。
 他の国にはありません。そう思っています。
 時間になりました。どうもありがとうございました。
 







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