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店屋がなくなったことが犯罪を誘引する
 そんなわけでともかく大都市が荒れ果て、そして店屋がなくなってしまった。これがまた犯罪を誘引する。そこに書いてあったことを言えば、昔の店屋には二〇年も三〇年もそこにいるおじいさん、おばあさんがいて、道を通る人を一日中見ていた。すると、あれはよそ者だとか、あるいは子供が一万円札を持って買いに来たのはちょっとおかしいと考えて、そのお父さん、お母さんが通りかかるのを見ると、「あなたの子供が、きのう一万円札を持って買い物に来た。大丈夫?」と声をかける。
 店屋というのは、実はそういう働きをしていた。品物を売っているだけではない。町を守る役をしていたのが、どんどん閉鎖してしまった。そのあと出てきたものは市場原理万能主義ですね。経済行為万能主義。金を持ってきたら、子供であろうと無差別、平等に売ります。私は商売人。金の出所は関知しない。私がやっていることは経済だけですという人たち。「おかげでこんなに世の中が荒れ果ててしまうのではないか」とその論文は書いていました。
 というわけで、誰か偉い人がそのときアメリカでコンビニをつくった。セブン−イレブンというのをアメリカでつくった人がいる。サザーランドという会社です。その人が、店屋は、朝から晩まで電気をつけていなければいけない。そこにいる人は、外を見ていなければいけないんだと思って、「コミュニティ・ショップ」というコンセプトをつくり出したわけですね。
 それまでは、スーパー万能時代だった。スーパーの始まりにも物語がある。買い物というのは安ければいい。皆さん自動車をお持ちなんだから、郊外へ買いに行きなさい。郊外の道路沿いに空き地を借りて、テントを張って、そこに工場から持ってきたばかりの電気製品をばーっと並べておく。店員はレジだけ。段ボールの包装の隅を破いておくから、そこから覗いて確かめて、自分で買って、自分の自動車に載せて帰りなさいというのがスーパーの始まりです。SSDDSと言うのですが、買い物とは、安ければいい。手っ取り早ければいいという方式です。
 そういう店屋がたくさん増え、みんながそっちへ買い物に行きました。すると、これまでの中心住宅街では、ちょっとしたものでも買えなくなる。ちょっとしたものを買うのにも、自動車に乗って遠くまで行かなければいけない。昔は近くに何でもあったのに、というのでセブン−イレブンをつくった。したがって、そのときのセブン−イレブンのコンセプトは、「店があってよかった。間に合った」です。
 
 コンビニ店にあるのは、五〇〇円玉を一つ持って買いたいもので、それから一週間に一回か、あるいはその程度の頻度のもの。これは日本には、昔から買い回り品と最寄り品という区別があるわけです。最寄り品というのは、最寄りの店屋へ行って今夜のおかずをちょっと買う。あるいは歯ブラシ、歯磨き粉を買うぐらいの店屋。
 ちょっと下駄を引っかけて買いに行くような店屋がいっぱいあったのが、すっかりなくなって、自動車に乗らなければ買いに行けないというとき、そういう店を町の中につくって、一晩中電気をつけておこう。一一時まで明々と電気をつけておこう。そうすると、また買いに行きやすくなる。お客は自動車では来ない、歩いてくるんだから犯罪が心配です。アメリカの町は、ずいぶん荒れ果てかけていましたからね。だから明々と電気をつけておきましょう、という考えでやっていたのを鈴木さんが見て、このとおりやろうと思った。
 日本も今にアメリカみたいになるとまでは思っていなかったでしょうが、鈴木さんの説明は、夜中に電気をつけておくと昼間の客も増える。これは、ちゃんと実験をしたそうです。「なぜ昼間の客が増えるのか」と聞いたら、想像だけれども女の人が駅から家まで歩いて帰るとき、怖いからセブン−イレブンのある道を通って帰る。安心ですからね。するとそれが自分の歩く道になって、昼間でもセブン−イレブンの前を歩くようになる。そうするとやはり何かを買ってくれる、という説明でした。
 ここで言いたいのは、「コミュニティ・ショップ」というコンセプトを持っていたことの意味ですね。
 地域の平和と安全に寄与する、住み心地に寄与する。それによって、自分の店も成り立つ。そういうコンセプトがあったところが画期的です。アメリカではそうせざるを得なかった時代背景があるわけですが、鈴木さんは持ち帰って、まだそうなっていない日本でそのとおりにやった。だからそもそもは、電気をつけたら何人客が来るか調査・研究をしたなどということではないわけですね。やるべきだし、やっているうちにプラスがあるんじゃないかと思ったら、やはりプラスがあったという話です。
 そのコンセプトがコミュニティのショップ、地域のセンターということですから、「じゃあ、ごみ箱も置こうか」になるんですね。他の人は、何も考えずにマネをするだけなのですが、地域センターになろうというコンセプトがあれば、次から次へと「ここにファクスも置いてあげよう」とか、「コピーの機械も置いてあげよう」とか、アイデアが出てくる。すると住民が味方になってくる。
 
 そういうふうに、第二幕、第三幕の発展があり、若い人は「セブン−イレブンには、話題性がある。話題性があるから時々寄らずにはいられない。ただ買うだけなら他でもよいが、セブン−イレブンに行くと常に何か新しいものがあって、これは友だちに自慢できる。それを見ていないと友だちに恥ずかしい」ということになるんですね。
 いつの間にか、おにぎりが大事な商品になってきた。それで初めは乾物屋とか雑貨屋だったのが、いつの間にか弁当屋になった。それから本屋になり、そのうちに地域オフィスセンターになり、銀行にもなってしまった。
 もう一つ言うと、気象台になったというのもあるんですよ。各店全部ではありませんが、気圧計とか、風力計がつけてある。
 あそこはPOSシステムで、今お客が買い物をしたという情報が、瞬間に全部本部へ行く。男性、女性と、だいたいの年齢も一緒にデータとして送る。
 赤ん坊の紙おむつを誰が買うか知っていますか。それは男が買うんです。奥さんは忙しいから、あんた買ってきなさいと言われるらしい(笑)。土日の朝、だんながタバコを買いに行ったときに、一緒に紙おむつを買って帰る。
 紙おむつというのは、当然のこと若い女性が買うであろう、だから女性用品の売り場に置いておけばよいだろう。だったらデザインはピンク色にしておけばいいだろう、と思うが、それは違うとわかった。
 私はその統計を見た瞬間、紙おむつのパッケージのデザインは黒や焦げ茶色にしなさい、置き場所も男物の隣にしなさい。男性用品のような顔をして並べておけばいいですよと言いました。それはそうなのです。いくら奥さんの命令とはいえ、男が買いにいって、女性コーナーに置かれたピンク色のものを買えますか(笑)。というふうに、売り方も変わっていくのです。
 
 そういうコンピューターシステムをつくろうと考えたとき、誰が協力をしたか。著名な有力大企業は協力しなかった。まだセブン−イレブンを馬鹿にしていたわけですね。そこで、誰が、どういう事情で、どう協力して、利益を一手に収めたかという話がまた後にあるのですが、ともかくそういう情報ネットワークシステムを持っていますから、天気予報もできることがあとでわかった。台風が来る。例えば鹿児島に上陸して、次は福岡へ来るのか、広島へ行くのか。それは広島の弁当屋には死活問題です。弁当屋を始めてみてわかったことは、天気予報が命だということなんですね。
 これは、牛丼の吉野家の松田瑞穂さんも言っていましたが、この商売をやってわかったことは、天気予報が命である。どうやって天気予報をするか。それによって仕入れを変える。味つけも変える。
 それでどうしたかというと、航空自衛隊の人を二人雇ったそうです。航空隊は天気が大事だから、天気予報システムのためにお金をかけている。そこをやめた人を二人雇った。だから天気予報システムには自信があると言っていましたが、しばらくしたら、セブン−イレブンの社長も同じことを言ったんです。天気予報が命であるとわかった。そこでその先がおもしろい。セブン−イレブンは、そのとき日本中に店が四〇〇〇あった。気象台の観測所というのは百何十しかない。だから大ざっぱなことしかわからない。
 ところが、セブン−イレブンの九州の各店に、そういう風力計とか風向計とか、気圧計とかをつけておくと、それは即刻本部に集まるわけです。台風が右へ曲がったぞというのは瞬間にわかります。気象台より一時間も二時間も先に、コンビニはわかる。それで、福岡には、「明日の弁当は売れないからやめておけ」とか、「広島のほうは晴れるから大丈夫。運動会はきっとあるから、弁当をつくっておけ」と指示をだす。私は「それなら、今度は天気予報を販売すればいいでしょう、天気予報そのものが商品になって売れますよ」と言ったら、「それはそうだが、同業者には売りたくない」と。なるほど、商売敵に売ることはない(笑)。
 
 ともかく、商売を一生懸命やっていると、だんだん第二幕、第三幕があるわけで、そういうふうに新しいことをやっていくと何はともあれ話題性がある。
 おにぎりをつくる。そこで、社内で企画会議をしまして、おにぎりはいつ売れるか。年末に売れる。年末は、みんなバタバタ忙しいから、おにぎりを買ってこようとなる。昔なら年越しそばですね。
 そうすると、どうします? 年末には、みんな買いにくる。売れる。じゃあ、値上げしよう。ただ値上げをすると怒られるから、何かをつけて・・・と、これが普通の考えです。そうしなかった。逆に、値下げをしよう。おにぎりを買いに来るお客を、全部セブン−イレブンで取ってしまえ。ここで買うくせをつけてもらおう。そのときおにぎりは一一〇円か一二〇円だったのを、一〇〇円おにぎりといって売り出そうではないかと決めた。これは商売の戦術、戦略でもありますね。
 一〇〇円おにぎりを開発するには、お弁当屋と連絡をとってやる。おかげで弁当屋が、また急成長しましたね。あっという間に大企業になってしまいまして、野球チームを持って、野村監督を雇ったりしていますね。都市対抗野球にまで出ている。シダックスというのは、もとは弁当屋なんです。いずれ弁当屋が大企業になって、野球チームを持つぐらいになると私は言っていたのですが、周りの人はまったく理解してくれない。
 まだ成功する前につき合うと、向こうは非常に喜んで、何でも話してくれるものです。おかげでたいへん勉強になりました。
 さて、弁当屋さんに「一〇〇円おにぎりの、うまいのをつくろうじゃないか」と、共同で準備をした。これは鈴木さんから聞いたことですけれども、他のコンビニ店を出し抜いてやろうと思って、二五日か二六日、クリスマスが終わったときに一斉発売をしようと思っていたら、どうも我が社にはスパイがいるらしい。他のコンビニも、いつの間にかマネをして、一〇〇円おにぎりというのを大体一日遅れで出した。
 これは、他のコンビニ店はセブン−イレブンに密着しろ。追い越さなくとも密着していれば大丈夫というコンセプトなんでしょう。
 そのためたった「一日(いちじつ)の長」に終わったと言えばそうですが、今はそれが大事です。
 学生にはわかっています。大切なのは話題性です。学生が集まって雑談しているのを聞いていますと、一〇〇円おにぎり、食べてみたか。まだ食べていないのか。セブン−イレブンに行かないからわからないんだろう。おまえの情報は、いつも一日遅れている(笑)、ということになるんですね。だから話題性というのが大事な時代です。







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