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「やる気」の話なら、日本的やり方を見直したほうがいい
 こういうことは、結局は共同体の外にいるユダヤ人が主張したのを、うっかり飲んだのが間違いの始まりです。勤務評定というのは、ほんとうは共同体の中でしかできないことなのです。だから、ハーバード大学はだんだん別コースをつくっていくことになります。
 そもそも成果主義とか実力主義とか、勤務評定をやたら細かくやるのはいったい何のためですか? この一〇人の中から一人だけ抜擢する、その一人を選べというのなら、いちいち細かく評定しなくても周囲はわかるし本人もわかる。それくらいの差がなければ、抜擢する意味がない。その反対に、一人だけクビにするからその一人を選べというのもわかる。すぐにみんなが納得するくらいダメでなければ、わざわざクビにしなくてもいいのですから。
 あるいはボーナスの査定をするためというが、ある人のボーナスが一万円少ない理由はこの表だとさんざん議論をして、結局、何の得があるのかと思います。会社は一万円得するかもしれないが、あとはみんな不愉快になってしまう。もともとは、それをバネにして来年しっかり働いてくれという目的のはずが、かえって不愉快な人が増えるばかり。
 だから、来年しっかり働いてくれという目的なら、やり方は他にある。日本的なやり方を見直したほうがいい。お花見に行って抱きついて踊るとか、へべれけに酔っぱらって無礼講で話すとか。目的が「やる気を引き出す」ことならば、そのほうがずっと効果があると思いませんか?
 あるいは「文句は全部聞いてやる。要望をかなえるのは無理だが、しばらく我慢しろ」とか、それでも済むのです。もちろん済む人間と済まない人間とがありますが、そもそもは済む人間を採用しているものなのです。だって、面接では我が社の社風に合うかどうか、気心が通じるかどうかを調べているのですからね(笑)。
 余談ですが、ある航空会社では面接でヨーロッパの某学者の運賃決定理論について聞かれるとのウワサが広まった。慌てて運賃決定の理論は三種類あると勉強して、航空会社を受けに行く学生がいた。するときちんと答えたが、だけど不合格。いっぽう答えられなかったが合格した人もいる。
 それはそうですよ。航空会社が、ほんとうに採りたい人間は、骨身を惜しまず働いて、みんなと仲よくする人です(笑)。しかしいきなりそんなことは聞けないから、学生時代きちんと勉強したかと思って、マスグレイブの理論を知っているかなどと聞く。答えたって、答えられなくたって、じつは答え方の様子を見ているだけです。
 そういうことが瞬間にわからない学生は、社会人としては不完全で、だから落ちてしまいます。
 この前、養老孟司さんと対談して本を出しました(『バカの壁をぶち壊せ!正しい頭の使い方』ビジネス社刊)。そのとき、「頭がよいというのはどういうことを言うんですか。馬鹿とはどういうことを言うんですか」と聞いたら、養老さんが即座に「頭がよいとは自他の関係が見えることです」と答えました。
 自分の位置がわかる。自他の関係がわかって、次にそれをより良くしていく方法が見える。そのために、人間には大脳がついている。やたら暗記するためについているのではない。暗記したって、理解したって、次はそれをどう使うかが大事で、どう使うかというときに相手は何物かが出てくる。相手がわからずに頭がよいという人は、それは自然科学をやりなさい、理科系のほうに行きなさい、学者になりなさい・・・噛み砕いて言えばそういう意味でした。
 ああ、もう時間ですね。次回も「終身雇用」のテーマを続けます。







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