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三〇〇〇兆円を二〇〇〇兆円まで減らすべし
 アメリカとイギリスは、これではいかんと八〇年代にサッチャーとレーガンが立ち上がり、大きな政府で五割だった国民負担率を、四割、三割と下げました。レーガンはうまいことを言いました。「アメリカ人には二種類ある。タックス・ペイヤーとタックス・イーターである」と。税金を払う人と税金を食い物にする人の二種類がいて、アメリカはタックス・イーターばかり増えてタックス・ペイヤーは逃げ出す。これではいけないと進めたのがレーガン改革で、小さな政府にしたのは成功した。たとえば、所得税の最高税率は二八パーセント、これ以上は税金を取らない。サッチャーさんのほうは、イギリスにおける所得税率の最高は四割で、六割は働いた人のものであるとした。
 日本は最高税率が九〇パーセントぐらいまで行きました。だから、大金持ちは九割も所得税を取られてしまう。これは橋本行革のころ六割にして、いまは五割。そこまで減っているわけですが、レーガン、サッチャーのことを思えば、もうちょっと減らさなければいけないという状態です。
 ですから、三〇〇〇兆円を日本国家が使っているが、それを二〇〇〇兆円ぐらいまで減らしてほしいわけですね。そう考えるとわかりやすい。
 それからもう一つは、借金でごまかしている。借金がたまりたまって、いまや一〇〇〇兆円もある。これを返せるあてがありますか? ありませんから不良債権です。でも国民は不良債権と思っていない。国家に貸したのだから、国家は返してくれると信じている。今でも郵便貯金は国債を買うし、銀行も国債を買う。つまり、国家を信用している。
 では「国家はどうやって返すのか」と財務省の人に聞くと、「返します。法律で、郵便貯金は国家が必ず返すと書いてあるから、必ず返します」と言います。しかし、法律に書いてあったって返す原資がなければどうするのか。自民党の幹部に聞いたら、「それは消費税しかない」と言うので、「国民にそう言いなさい」と言うと、「そんなこと言ったら選挙で負ける。絶対に口が裂けても言えない」という返事でしたから、つまりは先送りです。
 今回(二〇〇三年十一月)の衆議院総選挙もそうです。小泉首相は「自分の在任中は消費税を上げない」と言っているのですからね。ただ、財務省は手ぐすね引いて待っている。小泉さんが辞めたら、翌日消費税を一〇パーセントにしよう(笑)。しかし実際の話、そうしなければ何もできないのですから。菅直人さんだって同じです。民主党のマニフェストはいい事がたくさん書いてあるが、しかし財源は書いていない。財源は、誰が考えたって税金を取るしかない。
 国民はだいたい感づいているが、しかし投票に行かない。タックス・イーターは投票に行くが、タックス・ペイヤーは投票に行かない。こんな不思議な国はないですね(笑)。
 
 では、表の「参考2」に移ります(一三ページ参照)。
 日本の道路事業費と農業費が例としてわかりやすいと思います。平成十三年度の道路事業費は一年間に約一〇兆円。国の道路整備事業費が二・五兆円、道路関係四公団財政投融資などで二・八兆円、それから地方の道路整備事業費、これは県庁などですが五・三兆円。それを合計すると一〇兆円ですから、まだまだ道路をつくっているのです。これをずっと一〇年さかのぼれば一〇〇兆円になる、簡単です。二〇年、三〇年とさかのぼれば、二〇〇兆円になってしまいます。それが簡単にはわかりにくいようになっているわけですが。
 ともかく、道路を二〇〇兆円つくったとして、あとは皆さんの判断です。「半分は要らない」とか「全部大事だ」とか。
 農業は年間五・五兆円です。国の農業費が二・八兆円、県庁が計上している地方の農業費が二・七兆円。それで毎年毎年五・五兆円も農業費を使っている。二〇年合計すれば一〇〇兆円になる。
 ところで、農業の生産額は一年約一〇兆円です。こんなばかなことがあるのか、と思いませんか? 一年に一〇兆円しかないもののために、なんで五・五兆円も金を出すのか。これは秘密でも何でもないことで、三〇年も前から言う人は言っていることです。
 さらに細かく見ていくと、まじめに農業だけやっている専業農家は四十数万戸しかいない。あとの兼業農家一八五万戸とかいうのは農水省が無理やり関係者の数を増やしているだけです。ほんとうに農業をしているのかといえば、春と秋の土日だけやっている。月曜日は農協や村役場に出勤して「ああ、腰が痛い、きょうは一日もう働くのをやめよう」(笑)。それが農業従業者ですか?
 何とかして関係者を増やしたいものですから、自分がつくった分だけ自分で食べている「無販売農家」という統計がありました。約一万戸ですが、私が農業審議会の委員をしていたとき、「無販売なのだから農業と違うではないか」と言うと、国民の食糧を生産しているとかいろいろな言い訳をする。「では、私もこれに入れてくれ。庭で畑をやっている」。高級な宅地で四畳半一間ぐらいですが、自分で食べる大根ぐらいはつくっている。無販売農家になると畑は農地ですから、すると固定資産が二〇〇分の一になる。
 ではクイズをしましょう。「うちの庭を農地にしてくれ、税金がうんと安くなる」と発言したら、どうなったと思います?想像がつく人は、この日本国をよく知っている人です。想像がつかない人は、日本国民でありながら日本国について知らない人ですよ(笑)。
 私が無販売農家の統計に入ったと思う人は手を挙げてください。いない、よく知っていますね。
 理屈では入るべきなのです。だけど、入らないところが日本国家のインチキですね、あるいは農水省のインチキです。翌年どうなったか。配られた資料から無販売農家という分類がなくなった(笑)。驚くべきインチキですが、これで問題解決なんです。だから一般国民は知らないわけです。
 それはともかく、農業の売上高一〇兆円で、人間は四十数万戸しか働いていないのなら、それだけの人に生活保護を一年三〇〇万円あげればいい。四十万戸として約一兆二〇〇〇億円で、それに数万人分がプラスァルファですみます。そう考えれば、農水省はほとんど要らないのです。県庁の農政局というのもほとんど要らない。その人件費だけでもずいぶん浮いてくる。
 というようなことを自分の本には書いておりますが、新聞社やテレビ局から、それをひとつやってくださいという注文は絶対来ない。やはり面倒を避けている。また国民は大らかで知ろうとしない。
 しかし、結局そのシワ寄せが我が身に及んでいるんですよ。
 農業改革の予算をゼロにすれば、消費税を上げなくてすみます。
 
 さて、このように一〇〇兆円単位で物を考えると、見えてくるものがずいぶん違うと思いませんか? 今まで聞いたことがないし、自分でも考えたことがないものが発見できます。
 心理学にあるのですが、巨大なものは見えない。だから超長期はわからない。思考停止になってしまう。動物は目の前にあるエサのことしかわからないが、人間の頭脳もそういうふうにできているらしい。あまり巨大なものは、目に見えていても、予備知識がないので認識できない。それから、超長期も説明されれば「そうか」と思うけれど、「自分には関係ないから」と深くは考えない。
 これは動物としては健全なことです。あまり巨大なものを心配しても、自分にはどうしようもないのだから、どうしようもないことを心配するのはノイローゼになる(笑)。超長期を考えて「東京に大地震が起こるかもしれない」とか、「地球もやがて寿命がくる」などと心配したって、どうしようもないわけですからね。どうしようもないことは考えない、というのは動物が毎日を幸せに暮らすための本能であり知恵です。
 だから悪いとは言いませんが、それを悪用したのが政と官である。全員ではありません、一部の人ですよ。「国民は無関心だから」と見抜いて、悪いことをするなら大きくやればいい、インチキをするなら超長期でやればわからない、というのを意識的にやった人がいる。無意識でやった人が多いでしょうが、しかし意識的にやった人がいて、その個人名も知っています。
 例えば通産省の人が天下りをします。そこは小さな団体ですが、しかし彼はぜいたくをやめない。今までどおり築地や新橋の料亭へ行きたい。銀座へ行ってマダムにいい顔をしたい。友達を引き連れてゴルフ大会をしたい。奥さんを連れて年に一度は外国へ行きたい。というわけで、それを実行に移すとその小さい株式会社や財団法人は大赤字になる。株式会社であれば潰れてしまうので、国民に及ぼす害はそこでとまります。しかし特殊法人は潰れないから、元の古巣の通産省へ行って何だかんだでお金を取ってきてしまう。理由は立派なことを言いますが、結局それは自分の遊興娯楽費なのです。その遊興娯楽費のお裾分けを部下も取る。
 となっているわけで、そういうのはこの虎ノ門界隈にいっぱいある。このあたりのビルディングの中はほとんど全部そうだと思います。
 そういうとき赤字を消す方法は、もっと大きなことをして赤字を消す。
 これはノウハウなんです。いま思い出すことを言えば、スマトラの山奥に高い山があります。雨がじゃんじゃん降るので、これを使おう、ダムをつくろうじゃないか。水力発電をすれば電気代が安い。これでアルミニウムをつくればよい。ちょうどそのころ、日本では電力会社がどんどん電気を値上げしました。これは通産省の命令で値上げしているわけです。すると、日本国内のアルミ会社が潰れていきます。アルミニウムというのは電気の塊ですからね。電気代が高いとアルミ会社はやっていられない。どんどん工場を閉鎖する。恨みの声が通産省に来るという状況です。
 そこで、「日本のアルミ会社はスマトラ島へ行きなさい。あそこへ行けば安い電気があって、それでアルミがつくれますよ」と全部セットにする。話はうまくできています。インドネシア政府も大喜びしますね。ダムをつくる金がないし、アルミ会社だってない。最初に巨大な金が要りますから。しかし、これは援助でやればよい。援助は外務省と通産省の所管です。通産省が「よし、ダム計画に何百億円か都合してやれ」と、省内全部その気になれば都合がつく。それを先輩の元次官や局長がいる特殊法人の仕事にしてしまう。一〇〇〇億円ぐらいの大きなプロジェクトをやれば、昔使った交際費の赤字などはどこかへ消えてしまう。
 大きな赤字をつくれば、遊び賃が出るというノウハウです。
 「そんなことは、もうやめよう」というのが、いまの構造改革の風です。
 ともかく、そのように「国民は巨大なものが見えない。超長期はわからない」と、さらに大きな赤字をつくるようなことをたくさんして、その中から政治家はリベートを取り、公務員は自分の給料を取る。財団法人の理事長は自分の交際費として使う。一部の業界は感謝する。
 もう少しさかのぼって、日本の電気代がなぜ国際価格の二倍も三倍もするかについての話もあります。電力料金は通産省の許認可事項ですが、その権限を使って天下りを電力会社に押し込むのです。不況対策として高価な設備を何でもいいから購入せよというのもあります。百鬼夜行です。







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