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新規範発見塾
Lecture Memo
vol.18
第89回 「一〇〇兆円単位」で考える税金のムダ遣い part1
第90回 「一〇〇兆円単位」で考える税金のムダ遣い part2
第91回 日本型終身雇用が復活する part1
 
東京財団
 
新規範発見塾
(通称 日下スクール)
vol.18
本書を読むにあたって
 
「固定観念を捨て、すべての事象を相対化して見よ」
―日下公人
 これからは「応用力の時代」であり、常識にとらわれることなく柔軟に物事を考える必要がある。それには結論を急がず焦らず、あちこち寄り道しながら、その過程で出てきた副産物を大量に拾い集めておきたい。
 このような主旨に沿ってスクールを文書化したものが本書で、話題や内容は縦横無尽に広がり、結論や教訓といったものに収斂していない。
 これを読んだ人が各自のヒントを掴んで、それぞれの勉強を展開していただけば幸いである。
 (当第18集は、2003年11月から3回分の講義を収録している)
 
KUSAKA SCHOOL
 
PART1
(二〇〇三年十一月二十日)
さまざまな分野で一〇〇兆円単位のムダ遣い
 おはようございます。どうぞ前へお詰めください。そんな後ろに隠れているようなことでは、いくら税金取られて損するかわかりませんよ(笑)。
 それでは「一〇〇兆円のムダについて考える」という、私の一番の新製品を発表します。じつは三十歳ごろからずっと考えていたことなのですが、最近ようやく聞いてくれる人が増えたので、では話そうかなということです。
 前回、藤井道路公団総裁問題の話をしました。そのとき、道路にはもう一〇〇兆円ぐらいムダがあると、ちらっと言いました。しかし、わかった人は少なかったらしい。
 だが、さまざまな分野で日本国家は一〇〇兆円単位のムダ遣いをたくさんしているのです。農業もそうだし、福祉もそう。銀行救済はその一つであって、そういうのがいくつもあるということは、新聞、雑誌、テレビで言われておりませんから、ではここで言ってみようというわけです。
 「一〇〇兆円のムダがある」ということを、普通は積み上げ方式でやるのです。たとえば、東京湾に橋をかけたけれども、車がさっぱり通っていないからムダである。それが一兆円。しかし、これが一兆円、あれも一兆円と、いくらやってもなかなか一〇〇兆円にはならない。だから「そんな大げさな」と、途中で考えるのをやめてしまう。
 では、マクロで考えたらどうか。
 もっと上のほうから考えたら、特に、スパンを長くしたらどうか。
 三〇年ぐらいを全部積み重ねると、一〇〇兆円ぐらいはすぐなります。だから、スパンを長くすればいいわけです。
 それから、定義をきちんとつくって「こんなものはムダだ」と言い切ってしまえば、たちまち一〇〇兆円になってしまう。
 お役所の人は「ムダは一円もない」と言います。または「手続上一円もおかしなことはしていない」と言います。当たり前ですよね。藤井さんが「予算は大蔵省がしっかり調べて、国会議員が決めたのだから、藤井某という人がそのとき道路局長をしていたが、これは藤井某でなくても、誰でも同じことである。手続は完全である。だから、ムダと言うのなら国会議員が判断を間違えたのであり、それを当選させた国民が判断を間違えたのである。私たちは命令どおり道路をつくっただけです」と言うのを、私は認めます。
 これを認めないと言ったら、東京裁判になる。上官の命令でやったのに、突然アメリカが来て「銃殺だ」「絞首刑だ」と言った。上官の命令は天皇陛下の命令であって、背いたら軍法会議にかけられる立場の人を人道への罪だとして絞首刑にした。それと同じことをやるのですか? やらないのですか? あれとあわせて考えてください、ということです。
 これは、自衛隊が今からイラクへ派兵するのも同じです。話がそれますが・・・東京財団に佐々木良昭さんという、イラク、バグダッド方面について日本で一番ぐらい詳しい研究員がいます。その人がレポートを東京財団のホームページに書いていたら、官邸からお呼びがかかり、小泉首相に一時間ぐらい話をしてきました。そこで面白かったのは、佐々木さんは「自衛隊が殺される心配ばかりしているとは、日本人は単細胞である。まかり間違って自衛隊が向こうの人を殺すこともあるだろう。そういうことについて考えていないのはおかしい」と話した。確かにそのような議論はマスコミでは見かけませんね。
 これは、実は自衛隊の中では議論しているのです。日本の自衛隊は、正当防衛なら発砲することになっています。では、それは誰が判断するのか、ということです。正当防衛なのか、過剰防衛で撃ってしまったのか。それを誰が判断するのだと思いますか? これは旭川地方裁判所になるという話がある。
 なぜかというと、今度出かけていく自衛隊の人は旭川の第二師団の人です。だから、管轄は旭川地方裁判所。では、地方裁判所の人が現場検証にバグダッドまで行くのかどうか(笑)。そんな話もありますが、一般に、そういう話は伝わってきません。
 
 話を戻しますが、ともかく積み上げではなく、もっと上のほうから大きく考えてみたらどうか。時間を長くとると、金額はどんどん膨らみます。東京オリンピック以降として、一九六五(昭和四十)年度から二〇〇二(平成十四)年度の、三八年間の国家の財政支出を全部合計すると次ページの表のようになる。道路にいくら使った、農業にいくら使った。それから「財政投融資」がある。これは国民から借金して貸付金として使います。貸付金ということにすると国会を通さなくて済む。貸しただけで、返ってくるかもしれないと言い訳がききますから、インチキがばれたときの罰則が非常に軽い。それで郵便貯金を無茶苦茶に使って道路をつくったり、住宅を建てたりしました。その貸付金が三〇年分ぐらいあります。
 いろいろな困難を乗り越えて出した数字が、この表です。「困難を乗り越えて」と表現したのは、役所はなるべくわからないように発表しているからです。故意にそうしていることもありますが、一歩譲って言えば、無理からぬ理由は単年度予算主義だからです。予算は発表するが、決算のほうはあまり一般には発表していない。
 そのような状況ですから、私は「だいたいでよい」と指示しました。計算してくれたのは当財団の國田廣光さんです。
 そういう背景のある数字ですが、下の数字の一番上を見ると、一京一〇〇〇兆円ものGNP(名目国内総生産額)を日本人はこれまで創出したとあります。すごい数字ですね(笑)。「京」という単位ですからね。
 
■(参考1)東京オリンピック以降の日本経済(注1)
 
名目国内総生産額累計:11,409兆円
11,000兆円
 
国及び地方の歳出額累計(注2):3,859兆円
(純額)3,000兆円
国の歳出額累計:1,793兆円
地方の歳出額累計:2,066兆円
 
国及び地方の税収額累計:2,060兆円 2,000兆円
国の税収累計:1,285兆円
地方の税収累計:775兆円
 
国及び地方の債務残高合計(1):717兆円
国の長期債務残高(2002年度末):518兆円
地方の長期債務残高(2002年度末):199兆円
 
財務融資資金残高(2)(2002年度末)(注3):413兆円
(1)+(2) 1,000兆円
 

(注1)累計は1965(昭和40)年度〜2002(平成14)年度の38年間の累計数値
(注2)補助金や地方交付税(累計額328兆円)など国から地方への支出額累計を約800兆円と見込んで純額約3,000兆円を算出
(注3)平成14年度「財政融資資金特別会計貸惜対照表」合計残高
 
■(参考2)日本の道路事業費と農業費
 
平成13年度 道路事業費 年間10.6兆円
=国の道路整備事業費 2.5兆円+道路関係4公団財政投融資
2.8兆円十地方の道路整備事業費 5.3兆円(注1)
 
平成13年度 農業費 年間5.5兆円
=国の農業費 2.8兆円+地方の農業費2.7兆円(注2)
 

(注1)「地方の道路整備事業費」は、地方の道路橋梁費6.4兆円から15%を国の補助とみなして控除した数値
(注2)「地方の農業費」は、地方の農業費1.3兆円+畜産業費0.2兆円+農地費2.3兆円=3.8兆円から30%を国の補助とみなして控除した数値
 
資料)
「平成15年度財政関係資料集」参議院予算委員会調査室編 平成15年3月
「平成15年度版 地方財政白書」総務省編 平成15年4月 他







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