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政府が使ったのは三〇〇〇兆円
 それだけのGNPの中から政府はいくら税金および借金をしたかというと、数字は国と地方の合計ですが、まず下のほうから言えば税金で二〇〇〇兆円取り、借金で一〇〇〇兆円と、三〇〇〇兆円を集めて使った。こう言えば非常にわかりやすいでしょう?ほんとうかと細かいアラ捜しすれば、それはアラがあるでしょうが、しかしそんなことは意味がないのです。
 というのは、この数字を出した目的はこうです。政府が三〇〇〇兆円のお金を使ったとすれば、このうちの二割や三割はムダに決まっている。手続上はみんな立派でしょうが、ありていに考えて三割ぐらいはムダでしょう。とすれば、ムダの総額は一〇〇〇兆円ですから、一〇〇兆円規模のムダが一〇本くらいあってもおかしくありません。そういう計算です。
 一〇〇〇兆円のムダ探しでわかりやすいことを言えば、まず経費にムダが多い。民間で買えば一〇万円のものを、特別仕様だからと一〇〇万円でつくらせて買っていた。これは猪瀬直樹さんが詳しくて、高速道路のところどころに非常電話がついていますね。あれが百数十万円もするのはまことにムダなことである。携帯電話でもぶら下げておけばいい、町を歩けば携帯電話などはタダでくれているじゃないかと指摘したら、たちまち半値に下がった(苦笑)。
 あるいは、事業そのものをなるべく金がかかるように設計し、プランニングしているということがあります。これをやると、穏やかにやっても三〇〇〇兆円の二割ぐらい出てくることでしょう。バッサリやれば五割以上です。
 例えば、四国に橋を三本かけました。ムダの具体例として、よく取り上げられます。私は当時、道路に関する政府の委員をしていましたから覚えていますが、最初は「トンネルにしたほうがよほど安い」という議論をしたのです。そのときの答は、「通過台数による」と。つまり、通過台数が多いと排気ガスの問題が起こるから、煙トンネルをもう一、二本つくらなければいけない。「では、電車にすればいい。電車で台車を引かせてその上に自動車を乗せて運べば、エンジンはかけなくてすむ」と言うと、消防庁の人が来て「そのときはタンクからガソリンを抜いてください」と言った(笑)。まじめな人はいろいろなことを言うなと思った記憶があります。
 こういう議論をいつまでもしていたのは私一人でした。間もなく、みんな言わなくなってしまいました。役人がご説明に伺って、それを聞くとみんな納得したらしい。関係者はなるべくお金をたくさん使いたい人ばかりで、安くあげる話は聞きたくなかったらしい。
 結局、関係者一同が足並みを揃えたのは「利用台数を過大に見込む」ということで、それがトンネル案を潰すための対策でした。
 ようやく、いまは流れが変わって、例えば中部国際空港。知多半島の沖合につくるのですが、社長はトヨタ自動車出身の人。要するに民営化しましたから、「こんなもの三〇〇〇億円も要らないじゃないか、設計から変えろ」と言うと、たちまち一〇〇〇億円減って二〇〇〇億円でできるという時代になった。トヨタの人を社長にすれば三割安くなる、という話を、これからたくさんいたします。実例なら、たくさん知っています。というのは、私くらいたくさん審議会の委員や、研究会の委員をした人は、民間にはあまりいないと思いますから。
 事業を安上がりにしようと思ったら、それは二割、三割くらいはすぐできるのです。その上いまはデフレですから、単価はますます安くなっている。しかも、その後の技術進歩がある。しかし土木建設業者が入札するときは、技術進歩は入れないで、昔どおりの単価でやる。ほんとうにそうですよ。技術進歩なしで価格を決めて、あとから技術進歩をして浮かせる。民間の企業努力としては悪いとは言いませんが、それをチェックしない人は悪い。
 さらには、そもそもその事業をいったい何のためにやったのか。設計のよしあし以前に、そもそもムダなことをした、というのがたくさんあります。例えば、青森から北海道へトンネルを掘ったのは、何のために掘ったのか。最初はその理由があるのですが、ゆっくりゆっくり掘っていると時代が変わるから、やがてその理由が言えなくなる。すると別の理由を言うわけで、いつの間にか目的が変わっている。それでも、やがてその目的も通らなくなる。
 すると関係者はどうしたか。私はそれの委員もしていましたが、わかりやすく言えば「このトンネルは開通させない、なるべくゆっくり掘って、いつまでたっても開通させない。少なくとも自分の在任中は開通させない」というようなことだった。もちろん、こんなにはっきり口に出しては言いません。しかし、やっている中身はそういうことです。
 
 それで着々と遅れて、着々とお金を使って、いろいろな理由が出て・・・しかしやがては仕方なく開通した。案の定、車は全然走っていない。結局、その一兆何千億円のトンネル費用の負担はどこへどうなったのか。
 その行方を誰か知っていますか? よく知っている人は関係者だから、今ここで手を挙げるはずがない(笑)。
 これは国鉄民営化のところへ混ぜたのです。国鉄民営化なのに、なんで鉄道建設公団のものまで混ぜてしまうのか。そもそもは別の法律で別の手続ですよ。けしからん話です。鉄道建設公団の関係者は切腹もので、天下に謝罪しなければいけません。
 国鉄民営化の中にありとあらゆる汚い借金を全部ぶち込んで、全部まとめて一七兆円と言ったら、国会がパーンと通してしまった。国会議員で誰も質問する人がいない。当たり前ですね、自分が悪いことをしたのだから。一七兆円一括処理の中に入れば、一兆何千億円ぐらい小さいものだというわけです。
 北海道へトンネルを掘って一兆何千億円を使う。その理由は最初は「北海道の人はたいへんな不便と不安に陥っている」ということでした。飛行機はときどき欠航するし、船は台風が来ると沈没する。それから、ソ連軍が北海道へ攻め込んできたとき、自衛隊は助けに来てくれるのか。トンネルがあれば戦車をトンネルで送り込んで・・・というようなことを言っていました。
 しかし理由がそれなら、ムダのない、もっといい解決方法は次のようになります。私が当時言って本にも書いたことですが、「戦車はいま全部、北海道にいる。送り込む必要はない。逃げて帰ってくるトンネルだというのならわかる」「飛行機は欠航すると言うのなら、それはそうかもしれない。連絡船が台風で沈没したことも確かにあった。しかし、そんなものは一日二日待てばいいことである。補償しなくても国民に文句は出ていない(そもそも連絡船が沈没したのは、某国会議員が出港を強制したからだという話もある。船長は危険を主張していた)」「むしろ一兆何千億円の金でアメリカの国債を買いなさい。利息がついて毎年一〇〇〇億円入ってくる(当時は七、八パーセントの利回りだった)。これは正味使っていいお金だから、これで東京と札幌間の飛行機は全部タダにできる。タダが過激なら半値でもいい。連絡船は戦艦大和のようなフェリーボートをつくって、堂々と海を通って北海道へ行く。これも運賃は半値にする。なんならタダでもいい。それとトンネルとどちらがいいか北海道の人に投票してもらえばいいではないか。本州にいる我々にとっても良い話である。まず、元金が大丈夫である。二〇年ものの国債を買ったのなら二〇年たてば元金は返ってくる。その間タダで北海道へ観光旅行に行ける」。
 しかし、関係者はお金を使いたい人ばかりですから、元金が戻るかどうかは興味がないらしい(笑)。
 トンネルにすると、厚さ九〇センチのコンクリートの壁を通して海水が漏れてポタポタと落ちてくる。そのたまった水をポンプでかい出して捨てるのですが、このポンプの電気代だけで一年一六億円かかるという説明だった。「一六億円も利用料金収入が入りませんよ」と言いました。貨物列車が時々通るだけですからね。
 鉄建公団はつくるだけの公団で、完成後は国鉄が引き取ることになっていたが、大赤字で高価だから国鉄は引き取りたくないと言った。あれこれ言いあっているうちに、国鉄は破産でJRは国民の税金投入を受けて引き取ることになった。
 技術者は大満足です。トンネル掘りなら日本は世界一になったと威張っています。が、それは当初の目的には入っていないことです。それからこの技術を活かして韓国までトンネルを掘ろうと言い出しました。その費用はODAか何か知りませんが、困ったことだと思っていたら不景気が来て、私は心から喜んでいます。
 
 そんなエピソードはたくさんありますが、そこまで考えれば、国家が使った三〇〇〇兆円のお金の半分以上はムダです。
 なぜそう断言できるかというと、私は三十歳のころから国家の社会資本充実などに関係して、その場その場で「これはムダだ、こんなことを拡大してはいけないな」と思っていましたので、今その思い出をかき立てて、あれもムダだった、これもムダだったという第三者審判をすれば、半分以上ムダであるという判定になります。
 そのムダをしていなければ、一五〇〇兆円貯金ができている。そのかわり道路は一部つくられていないし、学校はピカピカではない。病院の数は少ないでしょう。そのかわり、一五〇〇兆円とは言わないにしても、一〇〇〇兆円ぐらいは日本国民と国家にいま貯金があるはずです。
 いま一〇〇〇兆円の貯金があったら、これでアメリカの国債を買えば、毎年七〇兆円ぐらいずつ利息がもらえます。すると、これは今の国家財政規模に匹敵するのです。そういう国にしようと思えばできたわけです。これを選べば、土木建設業の規模は半分になり、公務員も半分になり、民間産業と国民生活は世界最高になります。
 今からでもその気になってムダをやめて、「二〇年後に、日本は無税国家になる」と言えば、世界中の金持ちがみんな日本へ来ます。ユダヤ資本もたくさん日本へ来ます。すると、この近辺の土地もビルディングも、みんなユダヤ人が買ってくださる。それを嫌だという人は嫌でいいし、嬉しいという人は嬉しいでいいのですが、ともかく言いたいことは、このぐらい大きなスケールで考えてくださいよ、ということです。それが表の「参考1」の意味するところです。
 ここでちょっと別の感想を言いますと、一京一〇〇〇兆円の日本国家の総支出のうち、政府の支出は三〇〇〇兆円ということは、三割に満たないということです。これは意外に小さな政府です。なるほどそうかと思うわけですが、しかし実は今は違うのです。今は四割なのです。
 皆さんの月給袋、手取りは六割で、四割は税金と社会保険料負担で引かれています。つまり四割は政府が持っていって使ってしまう。「社会保険料は預かっているのであって、いずれお返しする。それは年金、介護保険、健康保険、失業保険などである」と言っているが、そう言いながら管理費がやたらかかっています。それからお役所の人が月給にして取ってしまう。そう高い月給を取っているわけではありませんが、要らないことをしているのだから、こちらから言えばムダな高給です。そうして目減りしています。
 この比率がいま四割になっていて、間もなく五割になると言っている。月給袋を開けて見ると天引きが五割とは大きいですね。「いずれ返します」と言っているが、とても信用できない。だから、若い人はもう払わない。国民健康保険も払わない。何も払わないで、フリーターになって暮らす。そもそも月給取りにならないのがよいと選んでいる。
 こういうシステムそのものが、いま若い人から見捨てられている。その昔はもっと小さな日本政府だった。天引きは二割。そのときに高度成長したのです。オイルショックを受けても立ち直ってきた。誰も言いませんが、そのとき日本は「小さな政府」だった。
 今は大きな政府ですから、何でも政府に頼って民間活力がありません。だから、この不景気はアメリカのせいもあるが、日本自身の大きな政府のせいもあるのです。







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