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8. 船体・機関計画保全検査の解説(案)
8.1 船体計画保全検査の解説(案)の検討
 前章で示した、船体計画保全検査の方法(案)について、関係事業者への制度の普及・説明のため、その背景となる考え方や留意事項を説明した解説案を参考資料8.1のとおり作成した。
 
 前章で示した、機関計画保全検査の方法(案)について、関係事業者への制度の普及・説明のため、その背景となる考え方や留意事項を説明した解説案を参考資料8.2のとおり作成した。
 
参考資料8.1 第1編 船体計画保全検査制度の解説(案)
はじめに
 旅客船は、船舶安全法上、毎年に入渠/上架して、船底部の検査を受けることが必要とされています。この特例として、平成7年度より、所定の保守管理を行う旅客船については、申請に応じて、入渠/上架に代えて水中カメラ等を利用できる水中検査方式が導入されましたが、水中検査に適した航路やダイヤを有する船舶が少ないため、これまで適用実績は限られていました。このため、旅客船事業者から国土交通省に対して、入渠/上架間隔の延長が可能となるような水中検査以外の制度の導入が要望されていました。
 この要望を受け、(社)日本造船研究協会の委員会で平成15年度〜16年度の2年にわたる検討を経て、国土交通省海事局通達「船舶検査の方法」が一部改正され(平成17年○月○日付海検第○号)、内航旅客船に対する新たな船底検査方式として、船体計画保全検査制度が導入されました。この検査制度は、毎年の入渠/上架を基本とする在来の検査制度に対する特例として設けられたものです。
 
 この解説は、旅客船事業者が自社の船舶に対して船体計画保全検査方式を導入する際の参考として、当該検査方式の背景にある考え方や保全計画策定時の留意事項等をまとめたものです。
 以下、「船舶検査の方法」の規定に沿って解説します。
 
1. 制度の概念
 
 船体計画保全検査とは、内航旅客船の船体に関する検査において、次の基本的要件が満たされる場合に、第1種中間検査(特1中を除く。)時の入渠/上架を省略することができる検査方式をいう。
(1)船体に関し、船舶所有者が優良・適切な保守管理及び運航・船員管理(船体の基準適合性維持に直接影響するものに限る。以下、「船体の保守管理等」という。)に関する体制を有すること。この場合において、船体の基準適合性とは、法令で定める船体に係る技術基準に適合することをいう。
(2)上記の船体の保守管理等体制の下で、予め定めた船体保全計画等に基づく船体の保守管理等を行うことにより、第1種中間検査(特1中を除く。)時の入渠/上架を省略した場合にあっても、船体の基準適合性を維持できることが技術的に推定できること。
(3)定期的検査時に船舶検査官が船体の保全記録等を調査し、当該船舶において船体の保守管理等が適切に実施されていることを確認できること。
 
(解説)
 
1. 旅客船の船底検査に関する基本的考え方
 旅客船は、貨物船等の非旅客船に比べて多数の人員を搭載するため、事故時の被害影響度が大きくなります。このため、海上人命安全条約や各国法令において、一般に、旅客船の安全基準は、非旅客船に比べて、強化されています。言い換えれば、旅客船と非旅客船の事故発生リスク(=事故発生確率×被害影響度)を同程度とするためには、旅客船の事故発生確率を下げる必要があり、このために旅客船の安全基準は非旅客船よりも高く設定されています。
 しかし、船体構造基準については、基本的に航行区域や船舶の大きさに応じて設定されており、旅客船と非旅客船の間に特段の差は設けられていません。これは、旅客船に対して外板を増厚する等のように直接的に構造強度を強化することは、他の設備等の場合と比べ、費用対効果の観点から合理性に欠けるためと考えられます。
 他方、直接的な船体構造基準の強化に代えて、基準からの経年的劣化や人為的な逸脱(保守管理不良)を防止するために、海上人命安全条約では、旅客船に対して非旅客船よりも頻繁かつ入念に毎年の船底検査を実施することによって、より高い安全性を確保することが要求されています。この国際条約が直接適用されるのは外航船ですが、日本を含む各国において、内航旅客船についても、一部の緩和措置はあるものの原則としては条約と同様の考え方で船底検査制度が設けられています。
 今回導入された船体計画保全検査制度においても、旅客船の船体構造の健全性は、非旅客船よりも入念に確認し、基準からの逸脱(不具合)の発生をより少なくするという、上記条約のような基本的な考え方は堅持されています。
 併せて、本制度の導入の際の検討委員会では、次の点が確認されました。
(1)船底を含む船体外部及びとも回り等の健全性は、就航海域や速力に応じた船体塗装仕様の選択を含め船舶所有者の保守管理計画とそれを実行する能力に多くを依存しており、船舶検査時の不具合データ分析結果からは、現状においては、全ての旅客船に対して非旅客船並に一律に船底検査間隔を延長できる状況にはないこと。
(2)他方、長期仕様の船底塗装を施工することを含め、船舶所有者が優良・適切な保守管理を実施すれば、入渠間隔を1年超とすることが可能な技術的基盤が社会的に存在するようになったこと。
 
 こうした検討の結果として、今般、船体に関し、優良・適切な保守管理等の体制を有し、技術的に妥当な長期の保全計画書に基づいて管理される船舶については、定期検査及び特1中検査を除く第1種中間検査において、入渠/上架の省略が認められることになりました。これが船体計画保全検査方式です。
 すなわち、船体計画保全検査においては、船体の健全性を入念に確認する方策として、直接、国の検査官が毎年の入渠/上架時に船底を検査するのではなく、一定の条件を満足すれば、入渠/上架間隔を延長でき、その間は事業者の自主的な保守管理によることができる点が新しいところです。
 他方、本制度は旅客船に必要とされる安全レベルを下げるような単純な規制緩和ではなく、安全レベルを維持しつつ、安全性の確認の実質的なウエイトが国から事業者に移行するという点で、従来の検査方式を採る場合よりも事業者の責任は重くなるという点を十分に認識する必要があります。
 







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