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参考資料8.2 第2編 機関計画保全検査制度の解説(案)
はじめに
 船舶に搭載される機関については、船舶安全法施行規則及び同告示により定期的検査の受検時の準備事項が定められており、これに基づき解放検査等が行われることとされています。また、従来より、この特例として、検査の利便性を考慮して、国土交通省海事局通達「船舶検査の方法」に機関の継続検査制度が設けられていますが、この制度では、機器の構成部品等毎に受検時期を弾力的に設定できるものの、解放間隔は5年以内、検査官による直接検査であるとの基本原則は維持されています。
 他方、平成9年度より、舶用機器の信頼性向上等を背景とし、機関の計画保全検査制度が導入されました。これは、優良・適切な保守管理体制を有する船舶所有者については、機器の運転時間をベースにあらかじめ定めた整備要領等に基づいて適切な管理を行う場合に、機関の解放に関する自主整備を認める検査方式です。しかし、同検査制度における保守管理体制に関する承認基準に必ずしも明確でない点があったことや、特に旅客船にあっては、別途、船底検査として毎年の入渠が必要であるため利用上の経済的メリットが少なかったことなどから、適用実績は限られていました。
 今般、第1編で説明したとおり、内航旅客船に対して、「船体計画保全検査」が導入されたことにともない、機関計画保全検査についても承認基準等の整理・明確化を図るために、「船舶検査の方法」が一部改正されました(平成17年○月○日付国海査第号第○号)。
 
 この解説は、事業者が自社の船舶に対して機関計画保全検査方式を導入する際の参考として、当該検査方式の背景にある考え方や保全計画策定時の留意事項等をまとめたものです。
 以下、「船舶検査の方法」の規定に沿って解説します。
 なお、本編のみでも独立して読めるようにしたため、第1編の解説と重複する点も多く含まれていますが、ご了承下さい。
 
1. 制度の概念
 
 機関計画保全検査とは、機関に関する検査において、次の基本的要件が満たされる場合に、定期的検査時に解放検査を省略することができる検査方式をいう。
(1)機関に関し、船舶所有者が優良・適切な保守管理及び運航・船員管理(機関の基準適合性維持に直接影響するものに限る。以下「機関の保守管理等」という。)に関する体制を有すること。この場合において、機関の基準適合性とは、法令で定める機関に係る技術基準に適合することをいう。
(2)上記の機関の保守管理等体制の下で、予め定めた機関保全計画等に基づく機関の保守管理等を行うことにより、定期的検査時に解放検査を省略した場合にあっても、機関の基準適合性を維持できることが技術的に推定できること。
(3)定期的検査時に船舶検査官が機関の保全記録等を調査し、当該船舶において機関の保守管理等が適切に実施されていることを確認できること。
 
(解説)
 
1. 機関計画保全検査制度の特徴
 内航旅客船に普及している機関の継続検査と比べて、機関計画保全検査が異なるのは、主に次の点です。
・機関の健全性を確認する方策として、継続検査では、直接、国の検査官が定期的検査時等の予め定められた時期に解放された状態の機器を検査するが、機関計画保全検査では、保守管理体制等に関する一定の条件を満足すれば、事業者の自主的な保守整備によることができる。
・継続検査では、機関の解放間隔は原則として5年を超えることができないが、機関計画保全検査では、技術的な妥当性があれば、機関の運転時間に応じて、5年を超える解放間隔を設定することができる。
 
 こうしたメリットがありながら、従来、内航旅客船での機関計画保全検査の適用実績が少なかった理由としては、何れにせよ毎年、船底検査のための入渠が必要となるため、その機会に併せて機関整備をするとの保守管理方式が一般的であったためと考えられます。他方で、毎年の入渠を省略する方策として水中検査制度がありましたが、航路や運航ダイヤとの関連で停泊中に水中検査を実施できるケースが限られていました。今般、水中検査よりも汎用性の高い船体計画保全検査が導入されたことにともない、今後は、同検査と機関計画保全検査の双方を実施することにより、保守管理コストの低減を目指すケースが増えてくることが想定されます。
 一方、本制度は、機関に必要とされる安全レベルを低く設定しているものではなく、安全レベルを維持しつつ、安全性の確認の実質的なウエイトが国から事業者に移行するという点で、従来の継続検査等の方式を採る場合よりも事業者の責任は重くなるという点を十分に認識する必要があります。
 なお、機関計画保全検査の対象として自主的な保守管理が認められるのは、機器の解放整備であり、機器の効力試験等については、通常どおり、定期的検査時に検査官の立会検査が行われます。
 
2. 機関計画保全検査制度の概念
 今回、機関計画保全検査に関する検査の方法が改正されましたが、改正の主な趣旨は、導入された船体計画保全検査に関する規定との整合を図るとともに、承認基準の一層の明確化を図ることでした。通達の改正箇所は広範に亘りますが、一部を除き、実質的な変更箇所は多く無く、主に内容を分かりやすいものにするための改正とご理解下さい。
 上記検査の方法の「制度の概念」の項では、機関計画保全検査を導入する際に必要となる基本的要件として、3つのポイントが(1)〜(3)の項目に示されています。具体的な承認のための基準等は検査の方法の中で後述されていますが、ここでは、制度の概要を提示するために、その根幹となる基本的な要素のみが挙げられています。
 
 「制度の概念」のポイントの(1)については、国の直接的な検査を省略するために、優良・適切な保守管理等体制を求めており、具体的には、後述するように国際安全管理規則(ISMコード)相当の保守管理等体制を有することを想定しています。そのため、機関計画保全検査制度の導入に際しては、単に工務面の対応を充実させるだけでなく、事前に任意ISM制度の承認を取得することなど、経営者を筆頭に全社的な取り組みが必要となります。
 したがって、機関計画保全検査制度を導入すると運航コストの低減や社内の安全管理意識の向上等のメリットが期待できますが、同時に社内体制の充実強化等の努力が必須であり、経済性のみを追求する安易な取り組みは禁物です。
 なお、審査の対象となる社内管理体制としては、機関のハード面に関する直接的な保守管理体制だけでなく、ハードの健全性の維持に直接影響を与えるような運航管理及び船員管理においても(例:荒天時の運航手順、機関の保守管理等に関する教育手順)、優良・適切な体制を構築する必要があります。
 
 「制度の概念」のポイントの(2)については、優良・適切な保守管理等体制の下で、日常的メンテナンス方法等を含む長期的な(通常5年間程度の)機関保全計画が作成・運用されることが求められています。また、この計画は、例えば機器の解放間隔を従来よりも延長する場合にあっても問題が生じないことについて、メーカーが推奨する解放時間との関係を含め十分な技術的根拠に基づいて策定される必要があります。
 
 「制度の概念」のポイントの(3)については、ポイントの(1)や(2)に付随する当然のこととして、社内で保守管理に関する記録が適切に取られ、国の船舶検査は、現場立ち会いによる検査ではなく、主にその記録を確認することによって執行されることが示されています。
 
2. 適用対象
 
 機関計画保全検査を初めて適用する時点において、原則として製造後15年未満又は累積運転時間が75,000時間以内の機関であって船舶安全法施行規則第24条の規定に基づき解放検査の準備が必要なものに適用する。ただし、当分の間、2機2軸以上を搭載しない旅客船の機関には適用しない。
 
(解説)
 
 機関計画保全検査の適用対象船舶は、従来から、内航・外航、船種(用途)、航行区域、船舶・機関の大きさ等に関する制限を設けていません。
 機関計画保全検査の開始時期を機関の製造後15年未満としているのは、改正前と同趣旨ですが、的確なデータ等の傾向分析に基づいて保全検査を実施するため、機関の老朽化が進行する以前に開始することが適当との考え方によります。他方、累積運転時間については、今回、従来の50,000時間から75,000時間以内に延長しました。これは、内航貨物船よりも年間運転時間が多い内航旅客船の運航実態を考慮すると、その年間運転平均時間5,000時間程度の15年分まで延長することにより、制度の一層の普及を図ろうとしたものです。
 製造後15年未満又は累積運転時間が75,000時間以内の何れかの条件に該当すれば、本制度の対象となります。また、「原則として製造後15年未満又は累積運転時間が75,000時間以内」とされていますが、これ以前の時期から社内で継続的にデータ管理をしていた場合など、機関計画保全検査の適用が技術的に可能と判断される場合にあっては、これ以後の時期から本制度を適用することも可能です。
 また、機関計画保全検査が一旦承認、開始された場合は、優良適切な保守管理が維持されていると判断される限り、これらの時期を超えても、同船が保全計画を更新し承認を受けながら計画保全検査を継続していくことができます。
 なお、当分の間、2機2軸以上を搭載しない旅客船は本制度の対象とされていません。これは、多数の人命を預かる旅客船の事故発生時の社会的影響を考慮すると、万一、主機にトラブルが発生した場合にも冗長性が高い2機2軸以上の船舶において、当面、本制度の普及・定着を図ることが適当との考え方によるものです。
 
3. 申請書類
 機関計画保全検査を受けることを希望する者には、その旨を記載した申請書(任意様式:申請者が当該船舶の船舶所有者でない場合には、当該申請書の適当な欄に当該船舶の管理を申請者に委託した旨を船舶所有者が記載すること。)に下記の書類を添付させ、原則として、船舶所有者又は船舶管理会社の所在地を管轄する管海官庁又は定期的検査の受検予定地を管轄する管海官庁に申請を行わせること。なお、添付させる下記の書類の部数は、下表のとおりとする。
(1)ISM関係書類
(a)船舶安全法施行規則第12条の2第1項の適用のある船舶
 同条第3項に定める適合書類(仮適合書類を含む。)及び安全管理証書(仮安全管理証書を含む。)(以下「ISM証書」という。)の写し
(b)(a)以外の船舶
 船舶安全管理認定書等交付規則(平成12年運輸省告示第274号)に定める適合認定書(仮適合認定書を含む。)及び船舶安全管理認定書(仮船舶安全管理認定書を含む。)(以下「任意ISM証書」という。)の写し(受有している場合に限る。)
(2)船舶安全管理規程((1)(a)の船舶にあっては船舶安全法施行規則第12条の2第1項に規定する「安全管理手引書」、(1)(b)の船舶にあっては上記告示第1条に規定する「船舶安全管理規程」をいう。ただし、機関の保守管理等に関する規程類(船舶管理会社及び当該船舶にかかるもの)に限る。以下同じ。)
(3)機関保全計画書(4.(2)(a)、(b)参照)
(4)機関保全計画の技術的妥当性を説明する書類(4.(2)(c)、(d)参照)
(5)機関の保守管理等に関する記録
(6)その他管海官庁が必要と認める資料
(7)以下の参考資料
(1)船舶検査手帳(写し)
(2)船舶件名表(写し)
 
提出書類の部数
 
4. 承認基準
(1)優良・適切な機関の保守管理等体制
 機関の保守管理等が船舶安全法施行規則第12条の2第1項に規定する「国際安全管理規則」に適合する安全管理システムにより実施されていること。なお、この要件については、当該船舶及びその船舶管理会社がISM証書又は任意ISM証書の交付を受けていることを標準とする。これ以外の場合にあっては、5.(1)に基づき、これと同等の機関の保守管理等体制が維持されていることを確認する。
 また、上記の優良・適切な機関の保守管理等体制の下で、船舶安全管理規程に次の事項が規定されており、機関の基準適合性維持のための妥当性が認められるものであること。
・機関の保守管理面全般について、点検に係る項目、間隔、方法、記録の作成・管理、実施者・責任者、修理交換等に係る判定基準、保全計画作成手順、船用品の管理等
・運航管理面で機関の基準適合性維持に影響する事項(例:荒天時の運航手順)
・船員管理面で機関の基準適合性維持に影響する事項(例:機関の保守管理に関する教育手順)
(2)技術的妥当性を有する機関保全計画
 機関保全計画書は、船舶安全管理規程中の附属文書等として位置付けられ、以下に適合するものであること。
(a)機関計画保全検査の対象として、船舶安全法施行規則第24条第1項第2号イに規定する機関の解放検査の準備にかかるものの一部又は全部であること。
(b)機関計画保全検査の対象となる機器について、解放点検の時間(時期)・間隔・方法及び修理交換等に係る判定基準が記述されていること。また、これらの機器の基準適合性を維持・確認するための措置として、点検の時間(時期)・間隔・方法及び修理・交換等に係る判定基準が記述されていること。
 なお、ディーゼル機関である主機及び発電機原動機にあっては、その出力(負荷率)、回転数、燃料ラック目盛り、冷却水の温度及び圧力、潤滑油の温度及び圧力、シリンダ内圧力、排気温度(各シリンダ及び過給機の前後)、排気色、各種クーラー及びヒーターの温度、各種フィルターの差圧、振動・異音・漏洩の有無、安全・警報装置の作動確認、潤滑油の性状分析、冷却清水の水質管理、防食亜鉛の点検交換等に関して、点検の時間(時期)・間隔・方法及び修理・交換等に係る判定基準が記述されていること。
(c)上記(b)の機関計画保全計画の記述内容について、対象となる機器の衰耗状態等の予測が可能であること等、定期的検査における解放検査を省略した場合にあっても、機関の基準適合性を維持できることが技術的に推定可能であると認められること。
(d)上記(b)の追加措置の内容について、機関に関する高度な知見を有しているメーカー等の確認を得ており、その妥当性が認められるものであること。
(3)適切な機関の保守管理等に関する記録
 機関の保守管理等に関する記録には、船舶安全管理規程及び機関保全計画書に基づく記録として、少なくとも以下の項目が含まれること。
(a)機関の保守管理等の時期及び内容
(b)機関の保守管理等の結果(計測データ、損傷の状況、修理内容等)
(c)機関の保守管理等の責任者の署名







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