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2. 船体計画保全検査制度の概念
 上記検査の方法の「制度の概念」の項では、船体計画保全検査を導入する際に必要となる基本的要件として、3つのポイントが(1)〜(3)の項目に示されています。具体的な承認のための基準等は検査の方法の中で後述されていますが、ここでは、制度の概要を提示するために、その根幹となる基本的な要素のみが挙げられています。
 なお、定期検査及び特1中検査は入渠/上架を省略できる検査対象とされていませんが、これは、本制度が当面、旅客船の入渠/上架間隔を非旅客船と同程度(平均2.5年以内)にすることが可能となる制度を目指したものであり、非旅客船を含め、それ以上の入渠間隔の延長を可能とするためには、更に長期仕様の塗装の普及等を含め一層の船体保守管理に関する技術的基盤が社会的に整うことなど、今後の検討を待つ必要があると考えられたためです。なお、非旅客船を含めた広範な制度改正を行うためには、今回のような通達改正ではなく法律や省令の改正を含め、より中長期的かつ抜本的な検討が必要となります。
 「制度の概念」のポイントの(1)については、国の直接的な検査を省略するために、優良・適切な保守管理等体制を求めており、具体的には、後述するように国際安全管理規則(ISMコード)相当の保守管理等体制を有することを想定しています。そのため、船体計画保全検査制度の導入に際しては、単に工務面の対応を充実させるだけでなく、事前に任意ISM制度の承認を取得することなど、経営者を筆頭に全社的な取り組みが必要となります。
 したがって、船体計画保全検査制度を導入すると入渠/上架間隔の延長等による運航コストの低減や社内の安全管理意識の向上等のメリットが期待できますが、同時に社内体制の充実強化等の努力が必須であり、経済性のみを追求する安易な取り組みは禁物です。
 なお、審査の対象となる社内管理体制としては、船体のハード面に関する直接的な保守管理体制だけでなく、ハードの健全性の維持に直接影響を与えるような運航管理及び船員管理においても(例:荒天時の運航手順、船体の保守管理等に関する教育手順)、優良・適切な体制を構築する必要があります。
 
 「制度の概念」のポイントの(2)については、優良・適切な保守管理等体制の下で、間隔を延長した場合の入渠時期や日常的メンテナンス方法等を含む長期的な(通常5年間程度の)船体保全計画が作成・運用されることが求められています。また、この計画は、入渠/上架間隔を1年超とした場合にあっても問題が生じないことについて、十分な技術的根拠に基づいて策定される必要があります。
 
 「制度の概念」のポイントの(3)については、ポイントの(1)や(2)に付随する当然のこととして、社内で保守管理に関する記録が適切に取られ、国の船舶検査は、現場立ち会いによる検査ではなく、主にその記録を確認することによって執行されることが示されています。
 
2. 適用対象
 
 船体計画保全検査を初めて適用する時点において、原則として建造後15年未満の内航旅客船に適用する。ただし、軽構造船、双胴船等の特殊な構造を有する船舶及び高速船(最強速力が船舶安全法施行規則第13条の4第2項に掲げる算式により算定した値以上の船舶をいう。)には適用しない。
 
(解説)
 
 船体計画保全検査の適用対象船舶は、内航旅客船に限られています。これは、外航旅客船は、条約に基づき毎年の入渠/上架が義務付けられているためです。
 また、船体計画保全検査の適用開始時期が制限されているのは、的確なデータ等の傾向分析に基づいて計画保全検査を実施するため、船体の老朽化が進行する以前に開始することが適当との考え方によります。なお、建造後15年未満の年限は、現行船舶検査制度における水中検査の適用対象船舶、船体内外部の板厚計測要求時期、国際的なCAS(Condition Assessment Scheme: 船体状態評価策)の適用船舶等に関する年限に準拠して設定されたものです。
 したがって、「原則として建造後15年未満」とされていますが、建造後15年未満の時期から社内で継続的にデータ管理をしていた場合など、船体計画保全検査の適用が技術的に可能と判断される場合にあっては、建造後15年以上の時期から本制度を適用することも可能です。
 また、船体計画保全検査が一旦承認、開始された場合は、優良適切な保守管理が維持されていると判断される限り、建造後15年を超えても、同船が保全計画を更新し承認を受けながら計画保全検査を継続していくことができます。
 
 軽構造船、双胴船等の特殊な構造を有する船舶及び国際高速船コードで定義される最強速力以上の高速船については、過去の不具合実績データにおける船体不具合割合が高いため、当面、適用除外とされています。今後のニーズや実績に応じて適用対象に加えることも検討可能ですが、それまでの間に特殊な個別事例でのニーズが出てきた場合は、後述「その他の保全方法」で対応することが検討可能です。
 なお、船尾部のみが双胴となっている船型(スプリット船型)については、上記の「特殊な構造を有する船舶」として取り扱う必要はありません。
 また、船体の材質(鋼、アルミ、FRP等)については、過去の不具合実績データにおいて有意な差がなかったため、特段の制約は設けられていません。







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