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2.2 これまでの推算手法の問題点の抽出
 これまでの推算手法は、海上風の推算精度が十分でなく、その精度が高潮や波浪推算の精度に大きな影響を与えていると指摘されてきた。(岡田(2000)、高山(2000)、日本気象協会(2000),etc) 本章では、これまでの推算手法の問題点を、(1)平均台風による解析、(2)個別事例による解析から抽出した。図2.3にフロー図を示す。個別事例は、1999年台風18号(以下T9918)を対象とした。
 
岡田(2000) 高潮を起こす気象の場とそのモデル化
日本気象協会(2000) 浅海域における波浪推算手法の高度化調査,
高山(2000) 台風9918号による広島湾内の高潮とその再現性
 
図2.3 これまでの推算手法の問題点の抽出 フロー図
 
(1)概要
 これまでの推算手法の妥当性を、衛星観測風から計算した平均台風と比較することで検証した。平均台風の算出は、2000年に日本財団が行った「衛星観測による台風時の波浪と海上風特性の調査研究」にならい、以下の手順で行った。
・対象台風の設定
・これまでの推算手法による対象台風の推算
・対象台風と類似条件の台風の抽出と、衛星観測風による平均台風の作成
・これまでの推算手法と観測値の比較
 
(2)対象台風の設定
 対象台風は、地形の影響が少ない洋上の台風とし、移動速度は20m/s程度、気圧深度30hPa以上とした。
 
(3)これまでの推算手法による対象台風の推算
 対象台風をこれまでの推算手法で計算した。地形の影響が少ない洋上の台風が対象のため、Masconモデルは使用せず、2次元台風モデルのみで計算した。(図2.1参照)台風のパラメータは、ΔP=30hPa,U0=20m/s,r0=80km,c=0.6,β=500/πとした。台風中心から500km未満、高度10mにおける風速分布と風ベクトル図を図2.4に示す。
 
(4)対象台風と類似条件の台風の抽出と、衛星観測風による平均台風の作成
 観測値はERS-1及びERS-2衛星観測データ*1を用い、対象年度は1992〜1998年とした。解析の対象とした台風の一覧を表2.1に示す。
 
表2.1 解析の対象とした台風一覧
対象とした台風
1992 3,5,8,.9,10,11,15,17,18,19,20,21,22,25,26,27,28,30号
1993 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,13,14,15,16,17,19,22,23,24,25,26,27,28号
1994 2,5,7,11,12,13,14,16,17,19,21,24,25,26,29,30,31,34,35,36号
1995 1,3,7,8,10,12,13,14,15,17,18,20,22,23号
1996 2,3,4,5,6,9,10,12,13,14,16,17,20,21,22,23,24,26号
1997 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,13,14,16,18,19,20,22,23,25,27,28号
1998 2,4,5,6,7,9,10,11,15号
 
 観測値は、洋上の台風を対象としているため、大きな陸地の存在しない、北緯5〜30°、東経120〜170°の台風を抽出した。また、対象台風の条件から、台風中心の移動速度が16〜24m/s、中心気圧が980hPa以下の台風を抽出した。台風の抽出条件を表2.2の条件に示す。
 図2.5に台風中心を原点として、動径方向に10分割(50km間隔)、角度方向に16分割(22.5°間隔)された合計160の領域ごとにスカラー平均した風速分布と風ベクトルを示す。
 
表2.2 台風の抽出条件
条件 内容
台風中心からの距離 500km
緯度 5〜30°
経度 120〜170°
移動速度 16〜24m/s
中心気圧 980hPa以下
 
(5)これまでの推算手法と衛星観測値の比較
 図2.4から、これまでの推算手法では、2.1項の仮定を用いると、最大風速地点は、進行方向の右半円後方にあり、最大風速地点と台風中心を結ぶ線に対して線対称の構造を持つ。一方、衛星観測風から計算した平均台風は、図2.5から、最大風速地点は進行方向の右半円前方と後方に存在していた。この2箇所の最大風速は、単一台風に2箇所の最大風速地点が存在するためではなく、台風事例により最大風速地点の位置が違うために生じていた。
 これまでの推算手法の2次元台風モデルは、理想化したモデルであり、台風の移動による非対称性以外を考慮していない。そのため、風速分布は台風中心と最大風速地点を結ぶ線に対して線対称の構造を持ち、最大風速地点は台風中心に対して相対的に同じ位置に存在する。しかし、現実の台風には、(1)一般風の鉛直シアーや、(2)対流活動、(3)中緯度帯に特有の前線との相互作用など、様々な原因から非対称性が生じ、最大風速位置は常に一定とは限らない。このような台風の非対称性を表現するためには、これまでの推算方法には限界があると考える。
 
図2.4 2次元台風モデルで計算した地表風速分布図
(ΔP=30hPa,r0=80km,c=0.6,β=500/π ,U0=20m/s)
 
 

*1 ERS-1及びERS-2衛星観測データ
 マイクロ波散乱計を搭載し、あらゆる天候下での観測が可能である。1991年にERS-1が、1995年にERS-2が打ち上げられた。海上風ベクトルを風速精度2m/sまたは10%(どちらか大きい方)、風向精度20°、観測幅500km、水平分解能25kmで観測を行っていた。







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