台風域内は、Myers(1954)が提案した経験式を用いてモデル化した。Myersのモデルは、台風域内を同心円状の気圧であると仮定したモデルである。台風域内の気圧分布は、式(2.1)で表される。
P0 :中心気圧(hPa)
ΔP : 中心示度の降下量(ΔP=P∞-P0,P∞ :閉じた等圧線の最も外側の気圧)
r0 :最大旋衡風速半径(km)
r : 中心からの距離(km)
地上の摩擦を無視した場合、この気圧分布から得られる傾度風Gは式(2.2)で表される。
f :コリオリ係数(2ωsinφ)
ρa :空気密度
ω :地球時点の角速度
φ :緯度
式(2.2)で求められた風に、台風の進行速度U0に伴う風の合成を行った。台風の進行に伴って引きずられる周辺空気の速度Uは指数関数的に低減すると仮定すると、式(2.3)で示される。
U0 :台風の進行速度
c,β :台風に固有のパラメータ
台風域内の自由大気における風は、式(2.2)で表される傾度風と、式(2.3)で表される台風の移動による風を合成した値になり、以下のように表される。
地表面摩擦を考慮するため、式(2.4)で求められた風を大気境界層上端の風とし、エクマン螺旋の近似解を適用して、下層の風を求める。
(1)台風域外の海上風推算モデルの概要
台風域外は、Caldone(1969)が提案した大気境界層モデルにより求める。Caldoneのモデルは、図2.2に示すように大気を上層から自由大気、エクマン層、地表層で表される大気構造を考え、各々の大気層における物理機構を取り入れ、風の3次元分布を計算する数値演算手法である。各層内の風速は以下の方法で求める。
・自由大気では、風向・風速は天気図の気圧配置から得られる傾度風と仮定する。
・エクマン層内では、レイノルズ応力が高さとともに減少し、渦粘性係数Kmは一定であると仮定する。したがって、風向はコリオリ力の効果により高さと共に変化する。
・地表層内では、レイノルズ応力は一定に保たれ、渦粘性係数Kmは高さと共に線形に変化し、コリオリ力は無視することができると仮定する。したがって、地表層では、風向は変化せず、風速のみが対数則で変化する。
自由大気の高さは1kmとする。地表層の高さはBlackadar(1965)が次元解析から求めた関係を用いて傾度風とコリオリパラメータを用いて以下のように設定する。
B0 :パラメータ(3.0×10-4:Blackadar(1965))
図2.2 大気構造の模式図
(2)自由大気における風の計算
地衡風Vg(ug,vg)は、地上気圧をPとすると以下で表される。
低気圧や高気圧など等圧線が曲率を持っている場合、気圧傾度力とコリオリ力、遠心力が、以下の関係式で表される。
(+は低気圧、−は高気圧)
ここで等圧線の曲率半径Rは以下で示される。
(3)エクマン層における風の計算
エクマン層では、風の鉛直分布はエクマンの解で表されるものとした。風速を(U,V)傾度風を(Ug,Vg)とし、
と定義して解を求めると高さhにおけるWの値は以下で表される。
Km :渦粘性係数
(4)地表層における風の計算
地表層内では、レイノルズ応力は一定に保たれ、渦粘性係数は高さ共に線形に増加し、コリオリの効果は無視できると仮定した。したがって、地表層では高さによる風向の変化はなく、高度Zにおける風速Uzは式(2.14)で示される。
Z0 :祖度
U* :摩擦速度
L' : 安定度長さ
地形の影響は、質量保存則を満足させることを基本原理とするMasconモデル(Mass consistent Model)で評価する。Masconモデルでは、質量保存則である連続の式を満たすように、2.1.1〜2.1.2で求められた風向・風速分布を入力値として、変分法を用いて風の修正を行うモデルである。
質量保存の制約条件のもとで、解析された風速U(u,v,w)と入力風速U0(u0,v0,w0)の差の分散を最小にするような積分関数Eを式(2.15)に示す。
λ :ラグランジュ乗数
σi :観測誤差
式(2.15)を最小にするオイラーラグランジュ方程式は、
ni :i方向の単位法線
式(2.17)〜(2.21)を式(2.15)に代入するとλに関して以下のポアッソン型の微分方程式が得られる。
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