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1.5 研究の経過
 この研究を推進するにあたり、当気象協会内に次の検討ワーキンググループを設置して、研究計画の策定、研究の推進および研究経過の検討を行った。
 
平成16年度
「台風時の内湾海上風推算の研究」
検討ワーキンググループ
委員名簿
 
(敬称略 順不同)
 
委員 大澤輝夫 神戸大学  助教授
 
委員 吉野純 岐阜大学  助手
 
委員 益子渉 気象研究所 台風研究部第一研究室  研究官
 
委員 辻本浩史 日本気象協会首都圏支社調査部応用気象課  課長
 
委員 松浦邦明 日本気象協会首都圏支社調査部応用気象課  技師
 
委員 中野俊夫 日本気象協会首都圏支社調査部応用気象課  主事
 
事務局 甲斐敏英 日本気象協会本社管理本部管理部事業課  課長
 
 本調査によって得られた成果の概要を以下に示す。
 
(1)これまでの推算手法の整理
 これまでの推算手法の問題点を、平均台風の解析、個別事例の解析から抽出した。
 平均台風による解析では、衛星観測データから計算した洋上での平均台風は、非対称な構造を持つことが示された。一方、これまでの推算手法は、風速分布が台風中心と最大風速地点を結ぶ線に対して線対称の構造を持っていた。現実の台風には、(1)一般風の鉛直シアーや、(2)対流活動、(3)中緯度帯に特有の前線との相互作用など、様々な原因から非対称性が生じている。このような台風の非対称性を表現するためには、これまでの推算方法には限界があると考えた。
 T9918事例の解析では、(1)衛星観測データと(2)苅田港の海上風観測値により検証を行った。衛星観測データによると、T9918は洋上に存在する時間において前面に強風域を持つ非対称な構造であった。苅田港の観測値によると、T9918は八代海・周防灘を通過する期間においても前面に強風域を持っていた。これまでの推算手法では、洋上でも、八代海・周防灘付近でも前面の強風を表現することはできなかった。したがって、T9918の海上風分布を推算するためには、これまでの推算手法には限界があると考えた。
 
(2)数値予報モデルを使った推算手法の検討
 数値予報モデルを使った推算手法について検討を行った。数値予報モデルは、ペンシルバニア州立大学と米国大気科学センターにより開発されたメソ気象モデルMM5を使用した。
 計算OPTIONの調査では、精度がよく、できる限り計算負荷の軽い計算OPTIONについて調査を行った。その結果、微物理過程は、大領域はSimple ice、中・小領域はGraupel(reisner2)を選択した。大気境界層は、Eta PBLを選択した。積雲パラメタリゼーションは大領域はGrell、中・小領域はNoneを選択した。
 初期・境界値の検討では、大気格子点データ・海水温格子点データについて検討した。大気格子点データは、NCEP、GANAL、RANALについて検討し、RANALを初期・境界値に使用した場合の精度が最もよかった。海水温格子点データは、OISST、Near-goosについて検討し、Near-goosを初期・境界値に使用した場合の方が精度がよかった。
 台風ボーガスの検討では、台風ボーガスを投入した解析値を初期・境界値にして推算することにより、台風進路推定の精度が向上する可能性が示された。
 データ同化(ナッジング)の検討では、台風進路推定は、ナッジング係数を大きくすることで向上したが、1.0e-4以上大きくすると、ナッジング期間終了後の推算精度が悪化した。一方、海上風推算精度は、0.1e-4が最も精度がよかった。海上風や降水量の空間分布から判断し、ナッジング係数は1.0e-4を選択した。
 解像度の検討では、13.5-4.5kmの2領域による推算と、13.5-4.5-1.5kmの3領域による推算の精度を比較した。推算精度は、2領域と3領域とも同程度であったため、計算負荷を考慮し、2領域を選択した。
 
(3)新たな推算手法の評価
 新たな推算手法の評価を、(1)T9918事例の検証、(2)5事例の検証から行った。T9918事例による検証では、新たな推算手法による洋上の海上風推算値は、衛星観測風と同様に台風前面に強風域を持っていた。苅田港の海上風推算結果でも、台風通過前の強風を推算しており、台風の非対称な構造を再現していた。各観測地点の観測値と推算値との相関係数は0.81と新たな推算手法の方が優れていた。
 5事例による検証では、新たな推算手法は、T9612、T9918、T0418など台風進路を制御することができる事例については、これまでの推算手法と比較して、推算精度は向上した。
 
 本章では、これまで用いてきた推算手法の概要を示し、これまでの推算手法の問題点を平均台風による解析、個別事例による解析から抽出した。個別事例は1999年の台風18号(以下T9918)を対象とした。
 
 これまで用いてきた海上風の推算手法は、以下の3つの段階から構成されている。
(1)台風域内の海上風を、マイヤーズモデル(2.1.1項参照)で推算
(2)台風域外の海上風を、大気境界層モデル(2.1.2項参照)で推算
(3)(1)、(2)を結合して海上風を作成し、その海上風をもとに地形の影響をMasconモデル(2.1.3項参照)で考慮し、内湾海上風を推算
 ここで、台風域とは、台風によって決まるパラメータで、風速25m/sの暴風半径の内側で、50〜500km程度の値である。これまでの推算手法の計算フローを図2.1に示す。以降は、(1)、(2)を結合した海上風を2次元台風モデルによる海上風、(3)をMasconモデルによる海上風と記述する。
 
図2.1 海上風推算モデルのフロー図







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