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3.4 新マイクロ波標識の詳細設計
 前節では、遅延合成方式の新マイクロ波標識に関して詳細に検討が必要な事項について述べた。本節では、これらの考慮したシステムの詳細設計について述べる。
 
 送受アンテナ間の回り込み量を、シミュレーション並びに実験によって検討する場合、何らかのアンテナモデルを仮定する必要がある。そこで、従来からマイクロ波標識等によく使用されている導波管スロットアレーアンテナを、考えられるひとつのモデルとして設計を行った。
 一般的にマイクロ波標識のアンテナは、レーダーと同じ水平偏波とし、全方位に対して応答が行えるように水平面内では無指向性となるような特性が必要となる。このような特性を得られるアンテナとして、図3-21に示す様な導波管の広壁面上(H面)の両側に、管内波長λgの1/2の間隔でスロットを切った、H面導波管スロットアレーアンテナが知られており、実際に使用されている。この形式のアンテナで、次のような仕様で具体的な設計を行う。
 
(1)周波数範囲:9.3〜9.5 GHz
(2)垂直指向性:約20度
(3)水平指向性:可及的無指向性
(4)リターンロス:-20dB以下(VSWR<1.2)
 
図3-21
導波管スロット
アレーアンテナ
 
図3-22 スロットのコンダクタンス
 
 設計にあたっては、まずスロットのコンダクタンスを求める事が必要になる。今、図3-22のような広壁面スロットを考える。導波管の広壁面寸法をa、狭壁面の寸法をbとする。また、スロット長はLとし、波長をλとして、
 
L=λ/2 (3-15)
 
の長さをもたせるようにすることとする。このようなスロットの特性は、伝送路上のコンダクタンスと等価と見なすことができる。このスロットのコンダクタンスは、導波管広壁面上の位置によって変化し、導波管の中心よりxだけオフセットさせて配置されているものとすると、i番目のスロットのコンダクタンスをGiとして次式で表すことができる。
 
Gi=2.09λg/λ(a/b)cos2(πλ/2λg)sin2(πx/a) (3-16)
 
λg: 導波管の管内波長
 
 20度の垂直面ビーム幅を持たせるために4素子のアレー構成とし、開口分布としてcos分布の重みを与えることにすると、各スロットの開口分布条件は次式となる。
 
G1: G2: G3: G4=0.588: 0.951: 0.951: 0.588 (3-17)
 
 また、インピーダンスの整合がとれるためには、両面すべてのスロットコンダクタンスの合計が1となる必要があるので、片面で合計0.5となり、次式を満足するように設計すればよいことになる。
 
G1+G2+G3+G4=0.5 (3-18)
 
 以上の条件の下に、垂直指向性パターンを計算した結果を、図3-23に示す。同図より、ほぼ20度の垂直ビーム幅となっている。なお、アンテナ利得は12.2dBとなった。
 次に、水平指向性パターンについて検討を行った。以降のアンテナ間アイソレーションの検討も視野に入れ、アンテナのモデルは図3-24に示すようにグランド板も設けた実際的なアンテナ構造とし、計算は有限要素法によって行った。その計算結果の一例が図3-25であり、ほぼ無指向性のパターンが得られている。なお、同図にみられるような、理想的な無指向性からのパターンのずれを平坦度とし、導波管寸法がこの平坦度にどのように影響するかを計算した結果が図3-26である。同図のように、導波管の狭壁面寸法bを小さくするほど平坦度は良好となり、理想的な無指向性に近づく。
 
図3-23 垂直指向性パターン
 
 最後に、このアンテナのリターンロス特性について計算を行った結果を、図3-27に示す。ビーコンで必要となる9.3〜9.5GHzの帯域において、-20dB以下の良好な特性が得られる。
 
図3-24 アンテナの計算モデル
 
図3-25 水平指向性パターンの計算例
 
図3-26 導波管寸法と平坦度の関係
 
図3-27 アンテナのリターンロス計算結果







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