「沖ノ鳥島における経済活動を促進させる調査団」報告書−概要版−について
日本財団海洋グループ
日本財団では、日本最南端の島「沖ノ鳥島」によって得られる排他的経済水域(EEZ*)の重要性に鑑み、2004年11月、海洋生物や海洋工学、海洋温度差発電、海洋土木、国際法等といった分野による有識者で構成した視察団を派遣した。また、なかでも以下の3つのテーマについては最重要課題と位置付け、2005年3月に、それぞれのテーマである海洋生物や海洋工学、海洋温度差発電、航路標識といった専門家等で構成した調査団を派遣した。本報告書は、今般行われた調査について簡略的にまとめたものである。なお、本調査に基づく結果や分析等の詳細な報告書については、2005年夏ごろを目途に編纂し、配布する予定である。
(優先的に取り組むべき施策)
1.灯台などといった航路標識の設置計画
本格的な灯台は、沖ノ鳥島の有効活用策の総合的な計画の中で検討されるべきであるが、現在においても同島近海は、豪州と日本西部の港湾を結ぶ航路であり、この海域を日本が輸入する石炭の10%、鉄鉱石の6%が通過していることや、今後総合的な計画を策定するにあたり、調査船や既存施設のメンテナンスのために寄島する船舶の安全や、東京都が計画をしている同島近海での漁業に従事する漁船の安全確保という観点においても早急な整備が必要と考え、総合計画の策定までの当面の間使用するための灯台設置に関し、支援する準備がある。
2.沖ノ鳥島再生計画(サンゴ及び有孔虫の培養による砂浜の自然造成)
地球の温暖化による沖ノ鳥島の水没は、かなり深刻な問題である。沖ノ鳥島を含む九州―パラオ海嶺は、100年に1cmの速度で沈んでいる。またIPCC**(気候変動に関する政府間パネル)報告書によると、今世紀の海面上昇は10-90cmと予測されており、同島の各小島はあと半世紀程度で水没の危機にある。そこで同島環礁内の潮流を研究し、吹き溜まりを作り砂浜の自然造成を行ない、陸地を拡大させるという計画である。各小島が水没しては領海すら認められなくなることから、早急なる対応が必要と考える。
=第1回報告書<参考>=
3.海洋の温度差を利用した発電計画
今後、沖ノ鳥島にて何人かが常駐することを含め、灯台や宿泊施設など様々な設備において動力となる安定した電気の供給が必要と考える。同島の環礁の外側である外洋は、すぐに300m程度の水深となっており、海水の表面と深層水の温度差を利用する海洋温度差発電は、ただ単に電力を発生させるだけではなく、多くのプランクトンを含む海洋深層水を循環させることで、東京都が計画する漁場の活性化にも期待できる発電計画と考える。
=第1回報告書<参考>=
[註]
*)Exclusive Economic Zoneの略
**)Intergovernmental Panel on Climate Changeの略
(財)日本航路標識協会 理事 佐藤 辰雄
1.概要
本紙は、平成17年3月25日から4月1日にかけ、日本財団が主催する沖ノ鳥島調査に航路標識専門家として参加し、同島における様々な利活用案の提言がなされている中で、仮に同島に灯台等航路標識を設置する場合の考え方、同島付近のレーダー視認状況等を調査した概要である。
2.航路標識設置の一般的な考え方
灯台等航路標識は、航路標識法に定められているように「船舶交通の安全を確保する」及び「船舶の運航能率の増進を図る」ためのもので、これを設置する場合は次の要件を総合的に考慮したうえで行われている。
(1)当該地域の船舶通航の実態(通航量、船舶種別、通航状況等)
(2)当該地域付近における海難発生状況及び近傍の航路標識設置状況
(3)船舶運航者などからの要望
(4)気象・海象条件
(5)設置の費用対効果
3.限定される設置場所
東西4.5Km、南北1.7Kmのサンゴ礁リーフ内にある東小島、北小島、観測所基盤及び観測施設(SEP)が西側に寄って存在している沖ノ鳥島の現況の中で、設置可能な場所としては、
(1)既存SEP上建物構造物の上に設置する案(要検討事項:構造物耐力有無等)
(2)東小島、北小島の中に設置する案(要検討事項:小島の保全上の可否)
(3)観測所基盤に設置する案(要検討事項:構造上の耐力等)
(4)リーフの中に設置する案(要検討事項:水中構造物建造と水生生物等に与える影響等)
(5)利活用が検討され、再度SEP等が建設される場合、これを利用して設置する案(何時か)
等が考えられるが、詳細検討に当たっては、各箇所における問題点等を整理するとともに、前記諸条件のほか海底におけるサンゴ等への影響など環境に与える影響をできる限り少ない場所と工法を考える必要がある。
4.灯台等航路標識の種別
船舶通航の状況及び海難の発生状況を踏まえると、設置する航路標識は、船舶の乗揚げ海難の防止を目的とし、障害物(リーフの存在)を明示する灯台とすることが妥当と考えられる。
5.灯台等航路標識の監視と管理方法
灯台は、その機能を維持していくためには状態監視と保守点検が必要であるため、できる限りメインテナンスフリーの機器を採用する必要がある。
6.レーダー視認状況
今回沖ノ鳥島へ向かう調査船(航洋丸)のレーダー、AIS等航海計器を使用し、同島にアプローチする時に、調査船のレーダーにどの位の距離から同島内の構造物(SEP)が映るか調査したところ、見える距離は計算値より多少延びた24海里であった。
海洋政策研究財団 沖ノ鳥島研究会 福島 朋彦
1.はじめに
沖ノ鳥島には海水面の上下に翻弄された歴史がある。氷期に広大な陸域を現したかと思えば、間氷期にはその大部分を水没させた。そして再び間氷期にある現代、私たちは沈みゆく沖ノ鳥島に立ち会おうとしている。
沖ノ鳥島研究会は、そんな歴史の必然に抗するが如く、かつて存在したような陸域を取り戻そうとしているのである。研究会では、海面の低下していた氷期の姿に思いを寄せて、陸域が形成されることを“島の再生”と呼ぶことにした。そして、今回の調査を“島の再生”のフィージビリティを推し量るための基礎調査と位置付け、サンゴの分布、有孔虫の生息環境、漂砂の現状確認を試みた。
2.沖ノ鳥島研究会の概要
(1)研究会のメンバー
沖ノ鳥島研究会は、平成16年12月にシップ・アンド・オーシャン財団により結成された研究グループである。メンバーは東京水産大学(現東京海洋大学)の名誉教授の大森信博士、東京大学の茅根創助教授、SOF海洋政策研究所(現海洋政策研究財団)所長の寺島紘士および同研究員の加々美康彦と福島朋彦からなる。このほかにオブザーバーとして国土交通省・河川局・海岸室の野田徹氏、日本財団・海洋グループリーダーの山田吉彦氏、同じく海洋グループの古川秀雄氏および高橋秀章氏に参加を願っている。
(2)研究会の目標
研究会の目指す“島の再生”とは、沖ノ鳥島の環礁内にサンゴの欠片(ガレキサンゴ)や有孔虫の殻でできた州島を“自然に形成させる”ことを指す。そのためにはサンゴや有孔虫の生育環境を整え、より多くの“材料”を生産する必要があるとともに、それらを効率的に蓄積させる方法を模索する必要がある。それらの技術を開発することおよび具体的な計画を提案することが研究会の目標である。
(3)島の再生の動機は何か?
“島の再生”を思いたった動機は“島消失”の懸念があるからである(もちろん、そのことが国連海洋法条約の規定云々と関係するのだが、誰もが食傷気味なので、この説明は省くこととする)。沖ノ鳥島の消失は、島の沈降と海面の上昇の両面から予想されている。今から4千万年前、沖ノ鳥島を含む九州―パラオ海嶺は、その下に沈み込む太平洋プレートに支えられていた。しかし沈み込み帯の移動に伴い、支えを失った九州―パラオ海嶺は100年に1cmの速度で沈むようになった。一方でIPCC報告書によると、今世紀の海面上昇は10-90cmと予測されている。仮にこの予測の中間値をとったとしても、沖ノ鳥島にある小島の運命はあと半世紀もない。補強工事は侵食を防ぐことができても、忍び寄る“島消失”の危機は食い止めようもない。だからこそ、“島の再生”が必要なのである。
(4)島の再生は夢なのか、大風呂敷なのか?
有孔虫の殻やガレキサンゴを原材料にして太平洋のど真ん中に島をつくる・・・・確かに夢のような話だ。だから私は「この計画は夢か?」と問われれば、「夢のような話だ」と答えることにしている。しかし、この計画は単なる机上の空論ではない。だから、「大風呂敷か?」と問われれば、「いや、違う」と答えている。
州島の形成は、必ずしも特異な現象ではなく、条件さえ揃えば短い時間にも起こりうるのである。州島に限らず、沿岸域では、自然のエネルギーにより陸域が形成されることが多々ある。津波の超巨大エネルギーにより高さ数mの巨礫が運ばれることもあれば、台風の大エネルギーに伴い数kmにわたる陸域が一晩で形成されることだってある。私たちの目指す州島は、それらよりはやや慎ましやかで、通常の波浪や流れが堆積物を寄せ集めることで形成される陸域のことである。津波や台風よりも時間を要すが、それでも10年を目処にした計画を検討している。決して途方もない歳月を想定した州島つくりを提案しようとしているのではない。
3.調査概要
(1)調査員
調査には、沖ノ鳥島研究会を代表した私、今回参加できなかった大森博士から委任された綿貫氏、柴田女史(いずれもテトラ総合技術研究所)とサンゴおよび潜水調査全般に詳しい横井氏(沖縄県ダイビング安全対策協議会)の4名で実施した。
(2)調査のねらい
今回の調査で明らかにしたかったのは次の5点である。
(1)本当にサンゴは少ないのか?
過去の調査はサンゴの種類数や被度(分布量)の低いことを報告しているが、実際にライントランゼクト調査をしたうえで、その程度を確認する。
(2)サンゴ礁の生育状況は変化しているか?
昭和63年から平成5年の調査と比較し、サンゴの生育状況の変遷を確認する。
(3)白化の影響はあったのか?
1998年や2003年の白化は沖ノ鳥島のサンゴにも影響を及ぼしたとの報告があるが(斉藤ら, 2003)、実際にその様子を確認する。
(4)端艇水路から砂が流れているか?
端艇水路付近の堆積物の状況を観察し、砂や礫の流出に関する情報を得る。
(5)有孔虫の生息環境は整っているか?
有孔虫の生息環境を確認するため、海藻(ターフアルジー)の分布状況を確かめる。
* 有孔虫は芝草状の海藻(ターフアルジー)に絡み付いて棲息している。ターフアルジーがなければ、付着基盤を失うことになり、十分な増殖は期待できない。
(3)結果概略
調査結果の詳細は、サンゴ礁調査の専門家である綿貫氏および柴田女史の報告に譲ることとし、ここでは概要を示したいと思う。
今回の潜水観察では、沖縄の観光スポットにあるような広大なサンゴ礁を目にすることはなかった。しかし、分布には多寡があり、必ずしも分布密度が少ない場所ばかりではなかった。特に環礁中央の最深部では、被度が30%を越えたことが観察されている。白化に関しては、直接的な証拠を確認した訳ではないが、横井氏に依れば、沖縄で白化後に成長したサンゴと同じくらいの大きさのものがよく見られたとのことであった。これを直ちに白化の影響と断定できないが、前述の斉藤ら(2003)の報告と合わせて、沖ノ鳥島も白化の影響を免れなかったと考えるのが自然である。端艇水路付近では、ごくわずかな砂が認められるだけで、砂の流れる様子などの直接的な証拠は得られなかった。しかし、強い流れにより砂が流され尽くしたと考えれば、砂の流出と矛盾する結果ではない。今後、セジメントトラップなどを用いた漂砂の調査が望まれる。また、ターフアルジーに関しては、東小島の北側に広く分布していることを突き止めた。次なる目標はターフアルジー帯の有孔虫の分布量を定量化することである。
4.調査を終えて
沖ノ鳥島に限らず、厳しい自然環境を相手にする場合、人間の都合に依存しすぎると、本来の姿を見失うことがある。例えば、今回は稀に見る好海況で調査した訳であり、このときに得た印象だけは判断を誤ることになる。砂の状態にしても、台風通過の後であれば、今回の様子と大きく異なるのは言うまでもない。
さらに言えば、自然が年間のサイクルで動いているというのも、人間の勝手な思い込みである。例えば5年に1度の割合来る大台風が生態系のメカニズムに大きく寄与しているかもしれない。やはり、可能な限り長期間の調査を行い、予測精度を高めつつ、州島の形成を検討しなければならない。調査を終えてこんな思いを強くした。
最後になるが、再び貴重な機会を与えてくれた日本財団の皆さま、的確な操船で調査を円滑にサポートしてくださった日本サルヴェージ株式会社の皆さま、楽しく有意義な船内生活をともにした視察団の団員各位、今回の調査指針を与えてくれた沖ノ鳥島研究会のメンバー、そして年度末にも関わらす私の参加を許可したシップ・アンド・オーシャン財団の関係各位に心から御礼申し上げる。
本レポートのなかで、沖ノ鳥島研究会の検討内容を扱った部分は、私個人の見解ではなく、これまでに積み上げられた討議の内容を紹介したものである。また、後半の調査結果に関しては、あくまでも中間報告であることを申し添える。
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