沖ノ鳥島の水中環境と再生について
(有)ちむちゅらさ 代表取締役社長(ダイバー) 横井 仁志
2005年3月24日(木)から4月1日(金)の日程で2回目になる沖の鳥島視察に参加しましたのでここに報告いたします。
前回は東小島の護岸堤桟橋前の海中に15分ほどの水中観察のみで終わりましたが、2回目の沖の鳥島は天候に恵まれ3月28日(月)から29日(火)のまるまる2日間、水中を観察できましたので新たに確認できたものを報告いたします。
サンゴの種類について(※赤字は前回確認できず、今回新たに確認できたもの)
六放サンゴ類
コモンシコロサンゴ・イタアナサンゴモドキ・ヤツデアナサンゴモドキ・ヘラジカハナヤサイサンゴ・サザナミサンゴ
八放サンゴ類
ウネタケSP
魚類
トゲチョウチョウウオ・シマハギ・シテンチョウチョウウオ・メガネゴンベ・アカモンガラ・ヤマブキベラ・アオノメハタ・リュウキュウダツ・サザナミハギ・シマスズメダイ・ホンソメワケベラ・アオヤガラ・ミヤコテングハギ・イシガキダイ・チョウハン・シマスズメダイ・クロオビマツカサ・コガシラベラ・アミメブダイ・スミツキベラ・アオバスズメダイ・アカツキハギ・チョウハン・イソモンガラ・オオクチイシチビキ・カスミアジ・シロタスキベラ・ヨコシマクロダイ・トガリエビス・ニシキヤッコ・トカラベラ・ツノダシ・オジサン・ゴマモンガラ・オヤビッチャ・ネズミフグ・カンムリベラ・ミズレフグ
棘皮動物
クロナマコ・ニセクロナマコ・シカクナマコ・ガンガゼ・チャイロホウキボシ
貝類
シラナミガイ・ホラガイ・サラサバティラ
を確認する事ができました。
今回は二日間と云う行程で、西側のリーフ開口部から北小島周辺、東小島から礁池の中心部の水深5Mエリアまで観察することが出来ましたので、沖縄の各島々と比較できることが出来ました。
1988年に潜水した友人の竹内茂氏の海中スライドでは、水路から東小島に行く途中の水深5M付近の撮影にはミドリイシサンゴのテーブルタイプがたくさん水中写真の被写体として撮影されているので、この場所を確認したかったのだが、その後のミドリイシサンゴは1998年の白化現象で死亡したのか、その後のオニヒトデの大発生で死亡したのか判別は付かないが、最大長で、縦277センチ、横225センチの死テーブルサンゴを確認できました。その周りには、縦256センチ、横220センチクラスの死んだテーブルサンゴが所々に点在していました。
今回は、ハマサンゴの最大サイズでは縦の円形が480センチ、横の円形が400センチのものも確認できました。
シャコガイでは礁池内で見られたものは、すべてシラナミガイだけで、どこの場所でも高密度で分布していました。
今回は北小島の南側からリーフアウトにかけて15センチから20センチの丸くなった、川原にある石のような形のサンゴ石が、サンゴ礁を削ってリーフアウトに流れ出ている状態の現場の確認も取れましたのでここを、止めれば、サンゴ石や砂が堆積して、砂浜が出来ることが、想像できるような確信をえました。
西側の礁原部から礁嶺部を砂やサンゴ石が強い力で、礁縁部に押し流されているために礁池内に砂の体積が少ないものと考えられます。
現在、流れ出てしまっているサンゴ礫を利用して、砂礫が堆積するようにコンクリートで構造物を作り、これをビーチロック化して島の一部を形成する実験はかなりの確立で成功するのでは無意でしょうか。
南側のリーフエッジの一部に下に向かって穴が開いている場所がたくさんあるのでこの中を2箇所潜って調査をしてみました。水深5メートルから10メートルに斜めに形成された巨大なポットホールだと言うことが確認できましたが、どれだけの年数をへてこれだけのものが出来たのかは、今後の調査を待たないと判りませんが、この巨大なポットホール(サンゴ片が波の力により掻き回されることにより、凹んだ一箇所のサンゴ礁を削り取り穴が開く現象)の穴の為にサンゴの幼生が強い潮流で外海に運ばれないでこの中に留まるため西側の斜面にはたくさんの種類のサンゴが育っているのが確認されました。
(株)水圏科学コンサルタント 長濱 幸生・吉田 勝美
はじめに
平成16年11月に行われた第1回視察団の報告書で複数の参加者が提案したように、沖ノ鳥島における経済活動の促進には(1)サンゴ礁の再生による陸地の造成およびダイビングなどレジャーによる利用、(2)遊漁や漁場としての利用が挙げられる。つまり沖ノ鳥島周辺を含めた生態系を守るとともに、生態系を構成する生物の量(生物生産)を増やすことが重要である。海洋において生物生産を高めるには栄養塩類の供給が有効である。しかし、絶海の孤島である沖ノ鳥島では陸地から栄養塩類の供給がない。また、施肥などの人為的な供給は環境保全の面から好ましくない。一方、沖ノ鳥島の周辺海底地形は急峻で、島からわずかに離れるだけで水深1000メートルにも達する。つまり、島の近傍には栄養塩類豊富な自然の海洋深層水が存在していることになり、この深層水を利用して生物生産を高めることができれば、沖ノ鳥島における経済活動を促進することが期待できる。
目的
第1回の視察団で当社は沖ノ鳥島サンゴ礁内の東小島近傍とサンゴ礁外・外洋で海水を採取し、海水中に含まれる生物の組成と分布数を分析した。その結果は沖ノ鳥島サンゴ礁域が高い生物生産力をもつ可能性を示唆するものであった。今回の調査では、沖ノ鳥島近傍海洋深層水を利用することによる生物生産性向上の可能性を検討し、今後の調査研究および開発方針検討の基礎資料を得ることを大きな目的として行った。
調査項目とその内容
(1)サンゴ礁内外の生産量測定実験
栄養塩の供給源として海洋深層水の利用を考えるには、まず、沖ノ鳥島近傍の海洋深層水の有用性について検討する必要がある。有用性の検討には現場での生産量測定実験が有効な方法である。そこで、サンゴ礁の内と外の表層から採水したそれぞれの表層水と採水した深層水を混合したものに安定同位体を加えた後、船の甲板に設置した水槽に入れ、最大48時間培養実験をした。培養後に生物に取り込まれた安定同位体の量を測定することにより生物生産量を見積もることとした。
(2)サンゴ礁内外の海水中のプランクトン調査
前回の調査から5ヵ月後の本調査において、前回の調査と同様に動植物プランクトン数と組成および微小プランクトン数を調べる。前回と今回の沖ノ鳥島周辺のプランクトンの組成や数を比較することにより、時期的な違いを考察する。
(3)サンゴ礁内の付着性微小藻類調査
前回の調査では潜水して試料を採取することができず、東小島付近の死んだサンゴ片に付着していた藻類しか調査できなかった。今回は大型藻類や大型の死んだサンゴ、死んだサンゴ片を採取し、底生性の微小藻類の組成について調査する。
最後に
上記調査・実験で採取した各種サンプルは現在分析および観察中である。最後にサンゴ礁内の付着性微小藻類の観察結果の一部を記して一次報告書とし、後日、調査結果を最終報告書にまとめる。
前回の調査では付着性藻類としてケイ藻とラン藻のみが観察された。本調査においてもケイ藻とラン藻が主要な分類群であったが、ケイ藻とラン藻ともに前回よりも多くの種を観察することができた。さらに前回は認められなかった渦鞭毛藻を観察することができた。それら渦鞭毛藻は熱帯、亜熱帯に生息する種であった。遊泳能力の乏しい付着性の微細藻類が絶海の孤島である沖ノ鳥島にどのような経路でたどり着いたのか、そして沖ノ鳥島を経由して世界のどの地域に移動したのか。今回得られた試料は沖ノ鳥島の開発方針検討の基礎資料としてのみならず、学術的にも興味深いものであった。
謝辞
視察参加の機会を与えてくださった日本財団、ならびに採水にご協力いただいた航洋丸の乗組員の方々、試料採取にご協力いただいた株式会社テトラの綿貫啓氏、NPO法人沖縄県ダイビング安全対策協議会の横井仁志氏に感謝します。
(株)水圏科学コンサルタント 佐藤 加奈・吉田 勝美
[目的]
サンゴ礁は魚類の幼魚および小型種の隠れ家として機能し、別名「海のゆりかご」と称されほど限られた栄養塩類環境においても高い生産性を持つ生態系でもある。沖ノ鳥島においても、平成16年11月の第1回調査で高い生産力をもっている可能性を示唆する結果が得られた。そこで、沖ノ鳥島のサンゴ礁域に生物生産の源である栄養塩を供給することで、基礎生産能を向上させ、植物プランクトン現存量を増加サンゴおよび有孔虫由来の岩礁の形成が可能になれば、周辺海域の漁場としての価値向上につながるものと考えた。本調査は栄養塩源として、栄養塩が豊富に含まれると考えられるサンゴ礁外の有光層以深の海水が利用できるかどうかを検討するために行った。方法は、有効層以深の海水を栄養塩類が枯渇していると考えられるサンゴ礁内の表層海水に加え、基礎生産能を測定する生産量測定実験とした。
[方法]
調査航海は、平成17年3月25日から4月1日にかけておこなわれた。採水は、3月28日にサンゴ礁内東小島付近の表層とサンゴ礁外の表層、水深150mからニスキン採水器を用いておこなった。実験に用いた試水の実験区は以下のとおりである:(1)サンゴ礁内の表層海水のみ、(2)サンゴ礁外の表層海水のみ、(3)サンゴ礁内の表層海水とサンゴ礁外の水深150m海水を1:1の割合で混ぜたもの、(4)サンゴ礁外の表層海水とサンゴ礁外の水深150m海水を1:1の割合で混ぜたもの。また、海水を混合した(3)と(4)は、24時間実験用と48時間実験用((5)&(6))の2つの時間条件を設定した。上述の6条件それぞれの試水を透明のボトルに入れ、13C水溶液を添加し、船上に設置した水槽で設定した時間培養した。調査項目は、13C、クロロフィル、栄養塩、プランクトン、ナノプランクトンとし、サンプリングは0時間((1)〜(4))、24時間((1)〜(4))、48時間((5)&(6))の培養終了後に行い、それぞれの培養液からの分析用サンプルを採取した。
分析結果の詳細については、有光層以深の海水利用による生産性向上の可能性を主題として、次回の報告書にまとめる。本調査における個人的な感想を述べると、目視観察において沖ノ鳥島周辺とサンゴ礁内の海水は透明度が非常に高く、微小な生物や粒子などの少ない貧栄養海域であることが推測された。東小島付近の海水中を見てみると、さまざまな種類の魚、ナマコ、ガンガゼが数多く観察された。海藻はほとんど見当たらず、サンゴの種類も少ない印象を受けた。東小島を囲む消波ブロックにはほとんど付着物がなく、全体として、生物数も多様性も非常に低いと感じられた。また、プランクトンネットを曳いてみると、ラン藻類の群体と思われる浮遊物が採集された。前回の調査結果で示されたとおり、窒素が欠乏した条件下でも窒素固定をおこなって生存できるラン藻類が卓越していることがうかがえた。 つまり、沖ノ鳥島サンゴ礁の現状は、低栄養塩環境の中で大気中の窒素を栄養源として生産活動を行うラン藻を底辺とする生態系のようである。そして、その生産性のレベルは、ラン藻の一次生産段階では高いものの、魚類等の高次段階では低レベルであると感じた。
本調査の結果は沖ノ鳥島のサンゴ礁内外の栄養塩と基礎生産能に関する基礎的知見として非常に重要であると考えられる。
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