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沖ノ鳥島およびその周辺海域に生息する底生性微細藻類の観察
東京大学大学院 農学生命科学研究科 長濱 幸生
東京大学 アジア生物資源環境研究センター 福代 康夫
 
参考:第1回報告書
 微細藻類には浮遊性のものと底生性のものがいる。浮遊性の種は水中に生息している。一方の底生性種は、沿岸域の砂や死滅したサンゴ片、大型藻の表面に付着して生息している。我が国の沿岸域に生息する浮遊性種については赤潮形成種や有毒種を中心として、分類や生態について多くの研究があるが、底生性種については研究が少ない。また、浮遊性の微細藻類と比較して、底生性の微細藻類は移動能力が乏しい。移動能力が乏しいにもかかわらず、底生性微細藻類の中には世界の沿岸域に広く生息する種も存在する。いまのところ底生性微細藻類の分布拡大機構は明らかではなく、我が国における底生性微細藻類の分布について調査する必要がある。
 沖ノ鳥島は日本の最南端に位置しており、その周辺に大きな島がない。すなわち、その島の沿岸に生息する生物は他の地域の生物から隔離されている可能性が高い。これまでに沖ノ鳥島の底生性微細藻類に関する調査は行われてこなかったが、それらの分類や分布、遺伝的類縁関係について調査を行い、他の地域の底生性微細藻類と比較することは底生性微細藻類の分類や分布拡大機構を調査する上で重要である。今回は初めての沖ノ鳥島調査であり、どのような種類の底生性微細藻類が生息しているのかに着目した。
 東小島と東小島を囲むコンクリートとの間にあったサンゴ片を現場の海水とともにプラスチック容器に入れ研究室に持ち帰った。その容器を振り、懸濁した海水の一部を光学顕微鏡を用いて観察した。
 その結果、2種類のNavicula属のケイ藻と1種類のラン藻を観察できた。特にNavicula属のケイ藻は多数観察できた。それらの生物を写真撮影し、報告書に添付した。また本研究による観察では渦鞭毛藻は観察できなかった。
 今回の視察では試料を採取する時間が限られていたことと、沖ノ鳥島周囲の環境についての事前の情報が少なかったことから、少量の試料しか採取できなかった。また、11月は大型藻が少ない時期であり、今回は大型藻類を採取することができなかった。沖ノ鳥島に生息する底生性微細藻類を調べるためには同様の調査を4-6月に行い大型藻類に付着する底生性微細藻類も調査する必要がある。我が国における微細藻類の分布や分布拡大機構を調査するためにも、沖ノ鳥島における底生性微細藻類の観察は今後も継続していく必要がある。
 
Navicula sp.
 
 
Navicula sp.
 
 
ラン藻の一種
 
(社)日本海難防止協会 主任研究員 大貫 伸
(株)海洋開発技術研究所 プロジェクトリーダー 田中 篤
 
1.観測目的
 沖ノ鳥島リーフ内の潮流は、過去、科学的な調査・観測が行われたことがなく、その実態は不明であった。
 リーフ内の潮流は、今後、沖ノ鳥島において様々な社会・経済的有効活用法を提案・実行していく上で、必要不可欠な基礎的知見の一つである。例えば、サンゴの育成によるリーフ内の州島形成案、マリンレジャーの観光拠点案、深層水によるリーフ内の生物生産ポテンシャル向上案等、いずれもが潮流を基礎的知見として必要とする。
 本観測は、今後沖ノ鳥島において実施される様々な調査・研究の基礎的知見となるべく、リーフ内の潮流を把握することを目的とした。
 
2.観測方法
 平成17年3月29日(火)、リーフ内の各所に漂流ブイ(※注1)を適宜投入、海表面の流れによって漂う同ブイの軌跡を把握・解析することによって潮流の実態を明らかにした。
 
写真1.漂流ブイ(直径約30cm/重さ約6kg)
 
3.観測時の気象・海象等
 観測時の天候は晴れ、風はほとんど無風状態であった。したがって、ブイの漂流はほぼ100%、リーフ内の潮流のみによって左右されるという最高の条件下での観測であった。
 潮は大潮、沖ノ鳥島の潮位差は1m程度であった。こうした中、本観測は干潮の中期から満潮の初期にかけて行われ、干満影響による潮汐流の影響を加味した形での観測結果を得ることができた。
 
4.観測結果
 沖ノ鳥島リーフ内の潮流は観測期間中、常時、南東から北西に向かって流れ、その速さは約0.2〜0.9ノットであることが判明した。
 
図1:沖ノ鳥島リーフ内の潮流
(背景図として(財)日本水路協会の「沿岸の海の基本図デジタルデータ」を使用)
 
5.考察
 沖ノ鳥島のさらに南の海域、北緯10度〜15度付近には、東から西に向かって流速0.3〜1.0ノットの「北赤道海流」が流れている。「北赤道海流」は、北太平洋低緯度帯の「貿易風」がもたらす吸送流(風が海面を引っ張ることによる応力による流れ)で、これがフィリピンの東方沖に達すると方向を北に転じ、「黒潮」及び「対馬海流」となって日本に至る。
 さらに、「日本近海海流図」によれば、沖ノ鳥島周辺海域には「北赤道海流」の「亜流」が南東から北西に向かって流れている。
 沖ノ鳥島リーフ内の潮流はこの「亜流」に支配され、常時、南東から北西に向かって流れているものと思われる。なお、潮汐流の影響は、潮位差も比較的少ないことから、リーフ全体の潮流を考える上では無視できる程度のものと思われるが、今後、リーフ内各所において固定ブイによる詳細な観測を行うことにより判明するであろう。
 なお、当該考察の妥当性は、「リーフ内海底において、南東から北西方向に向かってサンゴ残骸等の固形物の移動した筋が複数見られたこと(ダイーバー横井氏の談話)」、「リーフ外の西端に錨泊した際、無風時にあっては船首がほぼ南東を向くケースが多いこと(航洋丸船長川原氏の談話)」等によっても補足されるであろう。
 「リーフ内の西端、特に北小島周辺海域の水深が東側と比較して浅い原因(サンゴ残骸等の固形物が東側の海域から移動)」、「リーフ内東側の海域のサンゴが西側の海域と比較して活性化している原因(プランクトン等の栄養分が南東側の外洋から流入)等は、リーフ内を常時、北西に向かう潮流がもたらした結果であると思われる。
 
6.今後の展望等
 今回の観測により、今後、潮流による漂砂移動に関するシミュレーション等を行うことにより、固体又は浮体構造物等を用いたリーフ内西端における新たな州島形成も、決して夢物語ではないと確信するに至った。
 その際、どこまでの海域をサンゴ残骸等の固形物による州島形成等のエリアとし、どこまでの海域をその供給源であるサンゴ育成のためのエリアとするかなど、専門家・関係者間の詳細な検討・調整も必要、かつ、重要となるであろう。
 我々は流体力学及び海事工学に係るノウハウを生かし、潮流による漂砂移動に関するシミュレーション等について、引き続き調査研究を進めさせて頂ければ大変光栄である。
 最後に、今回の観測の機会を与えて下さった日本財団、安全な航海に全力を注がれた航洋丸乗組員はじめ日本サルヴェージ社、技術支援を頂いたゼニライトブイ社に厚く御礼申し上げる。
 

※1:日本の大手メーカー(株)ゼニライトブイが開発した最新鋭の潮流自動観測ブイ。同ブイはGPSアンテナを装備し、常時、自身の位置情報を把握するととともに、当該情報を定時(5分間隔に設定)ごとに”オーブコム(※注2)”に自動送信する。オーブコムを経由した同ブイの位置情報は、陸上局のパソコン(東京)にEメールによって送信される。当該データによって把握した同ブイの漂流軌跡をもとに潮流を解析する。
※2:地上約800kmの軌道上の30機の低軌道周回衛星(LEO)を利用したデータ通信サービス。地上3万km以上の遠距離にある静止衛星に比べ、簡易・小型の通信機・アンテナでデータ送信が可能。







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