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2005/01/01 産経新聞朝刊
【正論】作家・三浦朱門 国益、憲法、国連が今日の重要課題
■新たな日本の未来像を描くとき
≪日本の文化的特性生かせ≫
 国益、憲法、国連、今日の日本の重要課題はこの三つにつきる、と私は考えている。内政については、基本的にはまず国益、国民の利益や希望を国家がいかに実現するかである。
 日本は千年以上昔から伝統的価値観を基盤として、柔軟に外国の文化・文明を吸収してきた。この文化的特性と民族の勤勉さによって、わが国は地域や国際間で、個性ある先進性を作り上げてきた。この創造的エネルギーは、今も健在である。
 こういう日本文化の特性を生かして、全国民が自由にのびのびと学び働く社会環境をつくりたい。学校、職場などの組織の間で、関係者たちの独創性に満ちた、熱意ある活動を期待したい。
 日本が世界の進運に遅れまいとして作り上げた、明治以来の官指導の体制は、硬直して時代遅れになろうとしている。親方日の丸的な経費のムダ遣いと関係者の怠慢は、排除せねばなるまい。官業の民営化も特殊法人や国立大学の独立法人化もその線での未来を示すものである。将来は義務教育の民営化による、学校間の競争による、教育の効率化も視野に入れてよい。
 日本文化の特性に由来する技術や文明の進歩は、世界の平和に貢献をする事業を産むであろうし、その結果、憲法の文言にある世界の人々に尊敬される国家になれよう。出るくいは打たれるというが、日本の人材、知的財産や領域などを奪おうとする、国際的暴力の危険も増大する。それを防ぐ手段、国防を真剣に考えねばならない。
 
≪身の丈に合わぬ現行憲法≫
 私は日本が直面する二十一世紀の課題をこのようなものと想定しているが、現在の日本がまとう衣服である日本国憲法は、既に日本の身の丈に合っていない。敗戦直後の国家として成立しうるか否かもわからなかった時代に作られた現行憲法は、あまりにも内向的に過ぎる。今こそ日本の未来像につながる憲法改正を真剣に考えるときである。
 憲法が国内の体制に力点をおいたものとすれば、国連とのかかわりは日本の国際関係の基本問題である。
 国連憲章の敵国条項は日本とドイツを犯罪者扱いにしたもので、日本が昭和三十一年に国連に加盟できたことを国民が狂喜した理由は理解できるが、あの時以来、敵国条項を削除する運動を行うべきであった。あの条項がありながら、日本が何度か安保理事会に加わったのは、刑務所の囚人が裁判官の一人になるようなもので、喜劇以外の何ものでもなかった。
 日本は旧敵国として連合国の一国が独断で出兵が可能な国でありながら、国連の分担金を二割も出している。一方、常任理事国のロシア、中国はいずれも一%強しか負担していない。こんな不公平を許してはならない。
 核兵器廃絶にしても、日本の主導で百カ国を超す賛同を得ながらも、日の目を見る可能性はない。第二次大戦中の連合国から生まれた国連は、戦後半世紀以上たった今日、ほとんど国際問題を解決する機能を失っている。何か重要議案があるたびに、弱小貧窮国家が、票を大国に援助金で買われている現状である。
 
≪脱退も覚悟で国連改革を≫
 日本は常任理事国になろうとしているようだが、それは国家的プレステージ以外に、どういう主張をするためなのか、それを明確にしてこそ、意味のある国際的賛同と拒否が得られよう。今のところ安保関係から米国の支持が得られようが、中国は反日的感情から反対に回りそうだ、といったたぐいの観測がされているにすぎない。
 常任理事国になるなら、敵国条項撤廃をふくめて、改革案を引っさげての運動であって欲しい。それが容れられなければ、脱退も選択肢の一つに入れるべきである。同じ旧敵国条項の対象国で、常任理事国になる意図のあるドイツと共同で脱退すれば、国連の予算の三割近くが減少する結果になるだろう。
 そうなれば、パリ、ニューヨーク、ジュネーブなどで、本国の経済状態を思えば、法外な高給を得て遊んでいる途上国の職員の整理をはじめ、大幅な機構改革ができよう。国連を脱退しても日本は国連の事業の中で、真に国際平和と人道的援助に役立つと思われるものには、日本の意志で国益につながる、人と物の協力を行えばよい。
 日露戦争、第二次大戦の敗戦、戦後の経済復興と新たな経済大国形成、という二十世紀の日本は過去のものとなった。今や新しい日本の未来像を求めて、それに相応しい国内体制と国際関係を構想すべき時である。
(みうら しゅもん)
◇三浦朱門(みうら しゅもん)
1926年生まれ。
東京大学卒業。
小説家、元文化庁長官。
 
 
 
 
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