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1997/08/10 毎日新聞朝刊
[国連改革と日本]常任理事国入りを問う 番外編 米国の思惑に乗るな
浅井基文氏
 
 ――日本の常任理事国入りに反対の理由は。
浅井氏 クリントン米政権が常任理事国入りを支持するのは、最も忠実な同盟国・日本を引き入れた方が、米国にとってさらに好都合だからだ。常任理事国入りは大国主導の軍事的措置に日本が全面的に巻き込まれることにつながる。国連が絡む軍事的措置には今や国際的に厳しい評価があり、日本が関与することは誤りだ。日本の国際的かかわりの中で、軍事面を突出させるだけになる。
 
 ――憲法の制約があり、軍事的貢献は求められないと政府は言っています。
浅井氏 とりあえずはそうかもしれない。しかし、政府・外務省には今の平和憲法を改定して対米軍事協力を推進したいという意図がある。「常任理事国になったのに十分な軍事的役割を果たせない」ということを憲法改正の引き金に使うことは目に見えている。
 
 ――安保理は難民問題なども扱うようになっています。
浅井氏 難民の問題であっても、人道上の考慮を基準とするのではなくて「国際の平和と安全にかかわる」と判断した時にのみ安保理は動き出す。ルワンダやブルンジの難民問題では安保理は動けなかった。米国の考える「国際の平和と安全」、米国世論がイライラした時だけ動くのであり、それに安保理が振り回されている。
 
 ――意思決定過程に参加したいのだ、と外務省は言っていますが。
浅井氏 逆立ちした議論だ。米国でさえソマリアの失敗以来、国益中心で「どうしたら血を流さないで済むか」を考えている。それなのに、政府・外務省は日本は国連決議があったら何でもやらなければならないと決め込んでいる。
 自主的に行動すればいいのであって、意思決定過程に参加する必要はない。
 
 ――日本には別な役割があるということですか。
浅井氏 1990年以降、国連は大国の協調で中小国に結論を押し付けることが多くなっている。こうした国連の傾向に中小国の批判は強い。なぜ大国協調体制に入ろうとするのか。むしろ、総会や委員会で大国の動きをチェックする役目、けん制役を果たす方が国連の健全化につながる。
 
 ――安保理改革の動き自体はどう思いますか。
浅井氏 改革自体は真剣に考える価値がある。しかし、今はナショナル・インタレスト(国益)に基づく思惑が横行しており、主流は米国のリーダーシップをより確実にするための改革論議になっている。もっと機が熟して落ち着いた雰囲気の中で議論したらいい。
 
 ――そのうえで常任理事国を目指すなら賛成と。
浅井氏 日本が他の大国のけん制役を果たせるという国際的認識が深まれば、結果として「日本に常任理事国になってほしい」という声が自然に出てくることもあるだろう。
◇浅井基文(あさい もとふみ)
1941年生まれ。
東京大学法学部中退。
外務省入省、アジア中国課長、東京大学教養学部教授を歴任。
現在、明治学院大学国際学部教授。
 
 
 
 
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