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1994/11/27 産経新聞朝刊
【主張】「旧敵国条項」の削除は当然
 
 国連総会第六委員会は米国東部時間の二十五日、日本やドイツなど第二次世界大戦の敗戦国への武力行使を容認している国連憲章の「旧敵国条項」の削除を求める決議案を全会一致(北朝鮮は棄権)で採択した。
 この条項はすでに死文化しており、無意味な存在である。北朝鮮は日本との国交が定まっていないことなどを理由に棄権したが、大戦後五十年という節目の年を来年に控え、世界の大半が削除の意思を表明してくれたことは、この大戦で日本が受けた重い傷の“かさぶた”がようやく取れた思いで、感慨深い。
 国連憲章は一九四五年六月に調印されて同年十月に発効したもので、大戦最終局面のきな臭さと慌ただしさを残している。
 旧敵国の対象となっているのは、日本、ドイツ、イタリア、ルーマニア、ハンガリー、ブルガリア、フィンランドの七カ国。これら旧敵国に対し、国連憲章第五三条は、国連安全保障理事会の許可なしに、例外的に武力行使を容認し、第一〇七条はこれら旧敵国との戦争終結の取り決めは国連憲章が優先することを明記している。
 冷戦が終わり新時代に適応する国際システムづくりが模索されている中でこの条項はいかにも古くてかび臭い。まして日本は米国に次いで第二位の分担金支払い国である。分相応の扱いを受けて当然だろう。日本はこの秋の総会で河野洋平外相が一般演説で「憲章の署名から約半世紀を経て意味を失った規定」としてその削除を訴えた。
 今回採択された決議案は二十二カ国の共同提案によるもので、「旧敵国条項」が時代遅れになっている点を指摘し、憲章特別委員会に対して、一九九五年の会期(来年二月下旬から三月上旬)中に「旧敵国条項」削除問題を検討し、同問題についての最も適切な法的措置を来年秋の第五十回国連総会に勧告するよう求めている。
 わたしたちは今回の削除決議を総合的国連改革につながる一つの具体的動きとして評価したい。しかし、「旧敵国条項」の削除決議は、安保理常任理事国入り問題と合わせて、日本の国際的地位向上を示すもので、全世界がポスト冷戦時代における日本の役割と責務に期待を表明したものとして厳粛に受け止めねばなるまい。
 日本は国際紛争の解決にどれほど役に立てるのか。冷戦後の国際社会のリーダーシップをどう取るべきなのか。日本はその責任と自覚を問われているのである。
 
 
 
 
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