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1994/09/14 産経新聞朝刊
常任理入りで日本に拒否権付与を ガリ総長が表明 国連改革の焦点に
 
 来日中のガリ国連事務総長は十三日夕、東京・内幸町の日本記者クラブの記者会見で、「日本が拒否権を持つ常任理事国になることが、国連安保理の強化に結び付く」と述べ、日本が常任理事国になれば拒否権を与えるべきとの考えを表明した。一方、河野洋平副総理兼外相も同日の閣僚懇談会で拒否権獲得を目指す考えを示した。ただ、現在、検討が進められている国連改革に関連し、現常任理事国の一部には「新規の常任理事国には拒否権を認めるべきでない」との考えもあるとされ、今後、常任理事国入りとあわせ大きな焦点になりそうだ。
 ガリ氏は会見で、「今の国連で軍事的な側面はわずかな部分でしかない。むしろ、国連としては社会や経済協力、民主化の推進などが大きな役割を占める」と指摘。
 そのうえで、「国連平和維持活動(PKO)への参加は各国の自主性に基づくもの」とも述べ、日本が世界の主要国として政治的な影響力を行使すべきと強調した。これに関連し、日本がルワンダ難民救済のために自衛隊派遣を決めたことについて、「国連への支持表明に象徴的なステップだ」と述べた。
 また、ガリ氏は国連改組問題の決着が長引くとの見通しが出ている点に触れ、「(来年の)国連総会で決定することを期待する」と述べ、当初の予定通りに国連改革が実現することに期待感を表明した。
 一方、河野外相は同日午前の閣僚懇談会で、常任理事国入りした場合の拒否権問題について、「(新たに常任理事国になる)メンバーの数とも関連するが、わが国としてはメンバーの枠をしぼり、拒否権は与えられるべきだと主張する」と述べた。
 ただ、河野外相は同日午後、外務省での記者会見で、(1)現常任理事国(P5)のみに拒否権を与える(2)新メンバーにも与える(3)新メンバーを準常任理事国とし、拒否権は与えない(4)拒否権すべてを無くす−などの現在論議されている代表的な意見を例示。「各国にいろんな意見がある。日本がどうするとの意見は言っていない」とし、公式の場での言及を避けた。
 これは、「P5の中に、拒否権を現状のままにすることで、国連や国際社会の場での影響力や発言権を確保する思惑がある」(外務省筋)ことや、日本の常任理事国入りに支持を表明している非同盟諸国の中にも「拒否権が南北不均衡や、先進国と発展途上国の格差を生む原因の一端となっており、拒否権はすべて廃止すべき」との意見があるため、「今、拒否権の有無を問題にすることはマイナス」(外務省筋)との判断が働いているといえる。
◆ガリ総長 積極姿勢を促す 首相、外相らと会談
 村山富市首相は十三日、首相官邸で、来日中のガリ国連事務総長と昼食をはさんで約二時間会談した。席上、ガリ氏は「日本が国連のいろいろな問題、特に政治問題により関与してもらいたい」と述べ、日本の国連安全保障理事会常任理事国入りへの積極姿勢を強く促した。また、「常任理事国入りと国連平和維持活動(PKO)参加は別」との見解を改めて表明した。
 これに対し、村山首相は「憲法の理念に基づき、憲法の範囲内でやれることを積極的にやりたい」とし、与党合意に基づいた武力行使を目的とする軍事行動には参加しない、との制約の範囲内で貢献していく考えを示した。
 同時に、首相は「国民の国連に対する関心は高まっている。開発、環境、人口など多面的な分野で国連が積極的役割を果たし、日本も協力することで合意ができつつある」と述べ、常任理入りに国民合意が形成されつつあるとの認識を表明した。
 また、ガリ氏は、常任理入りにより、軍縮などで日本の主張が一層説得力を持てると強調。会談に同席した明石康・旧ユーゴ問題事務総長特別代表も「発言する場が与えられることが大事だ」と述べた。
 さらに、ガリ氏が来年三月にコペンハーゲンで開催され、貧困や雇用問題などが議論される国連主催の「社会開発サミット」への首相級閣僚の派遣と、来年十月にニューヨークで行われる「国連創設五十周年記念サミット」への首相自身の出席を要請。首相は検討を約束した。ガリ氏はこの後、河野洋平副総理兼外相との会談で、パレスチナや旧ソ連の中央アジア情勢などを挙げ、安定維持のための財政面などでの協力を要請した。
 
拒否権
 国連安保理は国際平和と安全の維持に責任を持ち、強制措置を含め全加盟国を拘束する決定を行うことができる国連唯一の機関で、十五カ国で構成される。このうち第二次大戦戦勝国の米、英、仏、露、中の五カ国は拒否権を持つ常任理事国となっている。十五カ国の中で賛成多数の状況でも、五カ国のうち一国が拒否権を発動して反対すれば決議は採択されない。棄権や欠席は拒否権の行使とはみなされない。
 
 
 
 
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