1994/01/03 読売新聞朝刊
創設50年 国連改革と日本=特集
今年十月、国際連合は創設五十年目に入る。参加国が百八十か国を超える巨大な組織、国連は冷戦終結後、続発する地域紛争への対応に追われ、平和維持活動(PKO)が増大したこともあり、深刻な財政危機に陥っている。東西対立に代わって、北(先進国)と南(途上国)の溝が広がる中、国連改革をめぐる論議が進み、当面、安全保障理事会の改組問題が最大の焦点だ。日本は安保理常任理事国になれるのか、いざ常任理事国になったら何を求められるのか――。九四年は日本と国連の関係とともに、日本が取るべき針路が一層問われる年になりそうだ。
(政治部・小田 尚)
◆強まる米国主導体制〈安保理事会とP5〉
安全保障理事会は十五か国で構成されている。このうち米国、ロシア、英国、フランス、中国の五か国が常任理事国。常任を意味するパーマネントの頭文字を取って「P5」と呼ばれる。残り十か国(非常任理事国)は二年の任期で総会で選出されるが、連続して再選はできない。
安保理の決定には、P5を含む五分の三(九か国)の賛成を必要とし、「拒否権」を持っているP5が一か国でも反対すると可決されない。このため、冷戦時代は米国とソ連が拒否権を相互に連発、安保理がまともに機能しなかった。
それが大きく変化したのは、九〇年八月の湾岸危機以来。ソ連は国際的パワーを失い始め、中国も天安門事件(八九年六月)の後遺症から立ち直れず、P5は米国主導による事実上の米英仏三か国体制となった。四五―九〇年に、P5によって二百七十九回も行使された拒否権は、九一―九三年では、わずか一回に減った。
◆費用倍増で日独に期待〈ポスト冷戦とPKO急増〉
冷戦構造の崩壊により、各地で地域紛争が勃発(ぼっぱつ)。現在、国連が派遣している平和維持活動(PKO)は十五地域を数え、当然、費用もうなぎ登り。PKOの特別分担金で見ると、八八年は二億二千百万ドルだったが、九一年は五億二千三百万ドル、九二年は十六億八千三百万ドルと増え、九三年は三十五億六千五百万ドル(推定)に跳ね上がる見通しだ。
PKO費用の分担率は、国連通常予算の分担率で計算されるが、途上国分はそっくりP5が案分して割り増し負担している。三一%を分担させられている米国が耐えかね、「日本、ドイツ両国の肩代わりを当てに常任理事国に誘い込む狙い」(外務省筋)に出たとしても、不思議はない。クリントン米大統領が日独の常任理事国入りを全面的に支持している背景に、こうした財政事情があると見ていい。
◆ガリ総長は「軍事以外で貢献を・・・」〈常任理の義務と日本への期待〉
では、常任理事国になると、どういうことが求められ、期待されるのか。国連憲章の上からは、拒否権を除けば、軍事参謀委員会への参加だけが常任理事国とほかの加盟国を分けるライン。各国の軍事参謀総長がメンバーになる軍事参謀委員会は現実にはまだない。将来、日本が軍事参謀委に統合幕僚会議議長を送り込むかどうかは、国連軍が創設された場合に日本が参加するかどうかとともに、今後の検討課題だ。
ブトロス・ガリ国連事務総長は昨年暮れに来日した際の細川首相との会談で、「PKOの要員派遣は常任理事国入りの条件ではない。PKOの財政負担はすべての加盟国一律の義務だが、PKO参加の義務は存在しない」と述べ、日本は憲法などの制約がある以上、軍事以外の人道支援や経済・社会開発の分野で積極的に貢献すべきだとの意向を示した。
◆国家像や国際貢献 広い論議を〈国連憲章改正と日本の進路〉
日本が常任理事国入りするには、国連憲章改正案が総会で三分の二の多数で採択され、さらに、P5全部とP5を含む加盟国の三分の二の国で、それぞれ憲法上の手続きで批准されなければならない。
ここで軽視できないのが、日独の常任理事国入り問題を突破口に、国連の民主化を進めたいとする途上国の動向だ。インド、ブラジル、ナイジェリアなどからは、「2(日独)+α」として、アジア、アフリカ、ラテンアメリカから一国ずつの常任理事国入りを求める声も上がっている。
こうした途上国の要求に、P5を含む先進国は基本的には安保理の収拾がつかなくなるとして、途上国の参入に消極的だ。このため、拒否権のない「準常任理事国」構想を示すことで、妥協を図る動きも韓国などから出ている。
安保理の改組・拡充問題は、各国の利害や南北間の駆け引きが絡んで、一直線に片付く問題ではない。国内でも、日本の針路や国家像、国際貢献はどうあるべきか、国民の間で広く論議されることが必要だ。
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