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1993/08/20 読売新聞朝刊
「安保理議席」拡大論が大勢 63か国の意見書から 北側独占に「南」反発
 
 【ニューヨーク19日=山岡邦彦】九月二十一日から始まる第四十八回国連総会まで、あと一か月。総会の焦点は安全保障理事会の改組問題だ。すでに六十三か国分の意見書が、ブトロス・ガリ国連事務総長の報告文書の形でメンバー国に配布されたが、安保理議席の拡大を主張する声が大勢を占め、一九六三年以来三十年ぶりの憲章改正は、早晩、避けられない見通しとなっている。安保理改組の背景や課題など主なポイントを、波多野敬雄・国連大使のコメントをはさんで、整理してみた。
◆日本の常任理入り 明確な不支持なし
〈経緯〉
 昨年十二月の国連総会決議に基づき、七月までに日本など加盟各国は「安保理議席の衡平配分と拡大」に関する意見書を事務総長に提出した。ほぼ全部の国が、現在の安保理の構成(常任理事国五か国と、任期二年の非常任理事国十か国)の見直し・拡大の必要性を指摘し、過半数は常任理事国の拡大を主張した。
 「おととしの総会でインドはじめ七、八か国が安保理構成の見直しについて発言した。その時、すでに、もう何とかしなきゃいけない、という機運は明らかだった。それが昨年、発展途上国がイニシアチブをとって総会決議という形にまとまったわけだ」(波多野大使、以下同)
〈見直しの理由〉
 「現状では、参加の機会が損なわれている。一握りの国が牛耳り、総会による有効な監視機能がないのは非民主的で、加盟国の主権平等の原則に反する」(ベネズエラ)というのが、安保理議席増を求める代表的意見。
 「日本は、(安保理改組は)日本の問題だと思っているわけだが、国連で見ると、日本だけの問題ではない。『現在の安保理は不満だ。十五か国だけが決めて、我々はみな縛られる。変じゃないか』と、多くの国が言い始めているわけだ。全体にそういう流れがあり、日本はその流れの中で泳いでいる。日本が入らないというのなら、ほかの国はその流れに乗って入ってしまう。日本だけが入らないということになる」
〈常任理への不満〉
 常任理事国のあり方について「拒否権を持っているため排他的グループとなり、非常任理の役割を減少させている」(マレーシア)という不満が強い。マレーシアのほかメキシコ、ニュージーランド、パラグアイ、フィジー、キューバなどが拒否権の制限(二か国以上の行使で有効)や禁止を提唱。拒否権なき常任理事国のアイデアも提示された。
 「常任理事国が常任であることに加え一つのグループを作り、十分な透明性なしに安保理の主導権を取っていくやり方自体が、みんなの不満を買っている。そこは直さざるを得ないのではないか」
〈常任理事国の反応〉
 米は「日、独の常任理入り支持」を表明。仏が「常任理議席追加の余地はある」としたほか、「現在の安保理は、極めて効率的に機能している」(英)、「安保理改革は慎重に」(ロシア)、「時機が熟せば、適切なやり方で、拡大する必要がある」(中国)と微妙な言い回し。しかし安保理拡大に反対してはいない。
 「米もイニシアチブを取るべきだというよりは、流れに逆らうべきではないということじゃないか。英、仏も最近になって、流れは止められないな、ということになってきた」
〈日本への支持〉
 安保理議席の増加数の提案は「最小限」(ノルウェーなど)から「常任理七増、非常任理九増」(ナイジェリア)まで幅がある。常任理に名乗りをあげたのは、独、伊、日本。インドも意欲を示唆した。「日、独への支持」明記は米、オーストラリア、オランダ、ヨルダンの四か国。このほか「先進工業国」「影響力を持つ第二次大戦敗戦国」などの表現で日、独への間接的支持表明と受け取れるのは、ブラジル、ガボンなど十二か国。
 「安保理改組には、ドイツと日本を入れるという問題と、もう一つ南北のバランスをはかるという二つの問題がある。日本はその第一の問題ばっかり対応しているけれども、第二の問題が大きな問題だ」
〈南北バランス〉
 多数派の途上国側が最も力点を置くのは、地域代表追加による南北の均衡。「先進工業国の北が常任理を独占している。バランスが必要だ。日、独のほかアジア、アフリカ、中南米の地域代表各一を常任理に加え、さらに非常任も五か国増とする」(ヨルダン)。アフリカ五十二か国、アジア四十八か国、中南米三十三か国という三大地域グループは、総会メンバー全体の三分の二を上回る大勢力。その支持なしに、憲章改正はあり得ない。地域代表の常任もしくは非常任理メンバー国の数をいくつにするか途上国間での合意はまだない。
 「一番難しいのは、発展途上国がどういう形で、代表されてくるかということ。新たに、アラブを(地域グループにする)という可能性も案外あるかもしれない。(アラブは二十二か国。いまはアフリカ地域、アジア地域の中)」
〈今後の見通し〉
 安保理改組に必要な憲章改正決議案作成のためには、追加メンバーの数を決めなければならない。「今年の秋の総会ではまとまらないんじゃないか」(波多野大使)となると、今年の総会は論議の場づくりと意見表明が主体で、実質的な交渉は各国が裏で進めながら、九五年の国連創設五十周年記念総会を一つのめどに、収れんして行くことになりそうだ。
〈メモ〉
 安保理改組には国連憲章の改正が必要で、常任理の意思に関係なく、加盟国百八十四の三分の二(百二十三)以上の賛成で総会で可決される。ただ、改正発効には、常任理五か国を含む加盟国三分の二の批准が必要だ。
 一九四五年創設の国連は原加盟国五十一か国(安保理は常任五と非常任六の計十一)で出発。加盟国が百十三か国に倍増した六三年に、非常任を四議席増やす憲章改正を行った。現在の加盟国は百八十四か国。欧米は、常任理(米、英、仏、ロシア、中国)四、非常任三の計七を占める最大勢力。
《日本の安保理常任理事国入りに対する意見》
明確な支持
 米国
 オーストラリア
 オランダ
 ヨルダン
間接的支持
 ブラジル
 コスタリカ
 チリ
 コロンビア
 ペルー
 サモア
 モーリシャス
 ナイジェリア
 ガボン
 インドネシアなど
 (明確な不支持はなし)
 
 
 
 
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