1994/09/13 読売新聞朝刊
[WHAT&WHY]日本の国連常任理入り好機逃すな 積極論議が必要(解説)
日本の国連安全保障理事会常任理事国入りをめぐって、積極論から慎重・消極論まで、さまざまな論議がある。安保理改革の意義、日本の国際的役割にかかわる重要課題について整理した。
(解説部・池田 豊治)
息子 国連のブトロス・ガリ事務総長が来日して、日本の常任理事国入りが話題になっている。
父 国際連合は、第二次世界大戦の勃発(ぼっぱつ)を防げなかった国際連盟に代わる国際機構として一九四五年に創設された。安保理は、その国連の中枢機関であり、「国際の平和と安全」の維持について主たる責任を持ち、強制措置に関する決定を含め、全加盟国を拘束する決定を行える唯一の機関だ。
現在は、米、英、仏、中、ロの五常任理事国(P5)と非常任理事国十か国で構成されている。加盟国が当初の五十一か国から百八十四か国に増えたうえ、冷戦の終結、ソ連の崩壊、常任理事国の力の相対的な低下など国際情勢の変化も大きい。そうした状況を踏まえて、二年前から安保理改革問題が具体的に動き出したんだ。
息子 日本は常任理事国の有力な候補なんだね。
父 日本は五六年十二月に国連に加盟したが、五八―五九年に最初の非常任理事国になってから昨年まで通算七回、十四年間、安保理理事国をつとめている。国連の通常予算の分担金率も五七年の一・九七%から、現在は一二・四五%と米国(二五%)についで第二位。これが九七年には一五・六五%に増える。
P5の分担率は四五年当時、合わせて七一%を超えていたが、現在は四三・五%に低落。第三位の独と日米の三か国で約五〇%を占めている。この分担率は九一年以降、急増している国連平和維持活動(PKO)予算にもあてはめられることから、日独の台頭、とりわけ日本の財政的貢献の大きさを印象づけている。
息子 PKO協力法ができてから、カンボジアやモザンビークに自衛隊員を派遣し、カネだけでなく汗も流している。
父 国連総会や安保理改組作業部会などで日本の常任理事国入りを支持する発言をした国は約四十か国。P5が核保有国で主要な武器輸出国なのに対し、日本は「非核三原則」「武器輸出禁止三原則」を堅持し、また中国とは一定の距離をおいたアジアの代表としての期待もあるんだ。
息子 それなら、そんなに大騒ぎすることもないんでは。
父 常任理事国入りに伴って、日本が望まない「軍事的貢献」を迫られるのではないか、と危惧(きぐ)する声が少なくないんだ。ガリ氏が言うように「常任理事国がその地位に伴って負う特別な義務は国連憲章上はない」というのは通説なんだけどね。
例えば「非軍事に限る」とか、日本国内だけで通用するような議論を続けていると、「日本は憲法の範囲内でもっとできることがあるのにやりたがらない」という批判がでかねない。
息子 具体的にどんなこと。
父 PKO協力法で平和維持隊(PKF)の本体業務とされている「武装解除」などだ。現在は凍結されているが、これの解除を議論しないで「軍事だ」「非軍事だ」と言っても説得力を持たない。
国際安全保障論が専門の大阪大学教授・神余隆博さんは「軍事面の貢献もできるものがある。憲法上できるのは伝統的なPKO・PKFへの参加。恐らく参加できないものは、湾岸戦争型の多国籍軍、ソマリア型の平和執行部隊。つまり武力行使を伴う軍事行動への参加だ。しかし、将来、理想的状況で国連の集団安全保障措置である国連軍(憲章第七章四二条)ができた場合については政府は研究中としているが、何らかの形での参加も有り得るのではないか」と指摘している。同感だね。
息子 できることを着実に実行することが重要なんだね。
父 安保理改革は国連創設五十周年の九五年には間に合わないかもしれないが、引き続き重要課題であることに変わりはない。日独以外にも、インド、インドネシア、ブラジル、ナイジェリアなどが常任理事国を目指している。
安保理で日本が経済力にふさわしい発言・決定権を持つことができる機会が初めてめぐってきたこのチャンスを消極姿勢でつぶすことはできないだろう。
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