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1993/06/24 読売新聞朝刊
国連安保理、多彩な改組案 日独の常任理入りに米の後押し
◆議席増の是非問う声も
 【ニューヨーク23日=山岡邦彦】冷戦構造の崩壊、平和維持活動の増加などで国連安全保障理事会の改組が、国連改革の焦点のひとつとなっている。加盟各国は今月末までに改組案をブトロス・ガリ国連事務総長に提出するが、読売新聞の調べで多彩な具体案が明らかになった。
 冷戦後、安保理の役割の増大や国連加盟国の急増(百八十三か国)を背景に、国連総会は昨年十二月、ガリ事務総長に対し、各国が今年六月末までに提出する「安保理議席の衡平配分と拡大に関する見解」を整理し、秋の国連総会に報告するよう求めた決議を採択した。すでにメキシコ政府が「安保理議席増と、常任理事国の拒否権規制」を柱とした提案を提出済み。
 読売新聞の問い合わせに対し、ドイツのハンスヨアヒム・フェルカウ大使(次席代表)は、「安保理の構成変更が現実に考慮されるなら、ドイツは常任理事国の議席を求める」と述べ、常任理事国入りの意思を明確に盛り込む方針を明らかにした。
 非同盟諸国の有力国ブラジルのロナルド・サーデンバーグ大使は「拒否権なき常任理事国を設け、五か国追加を提案する。具体的には名指ししないが、たとえば日本、ドイツ、インド、ブラジル、アフリカの代表が考えられよう」と述べ、準常任理事国五か国の追加をうたうとしている。
 また、一九七九年の国連総会で、非常任理事国を十か国から十四か国に増やすよう主張したインドは、「常任理事国、非常任理事国双方の議席拡大を考慮することが必要」(代表部)との方針だ。
 米国は、日独の常任理事国入りを後押しすると公言している。米国はこのところ、各国の経費分担を前提に、国連という多国間の枠組みを通じてリーダーシップを発揮する政策に転換しているからだ。常任理事国は平和維持活動では、国連通常予算の分担比率を上回る負担をしており、常任理事国の増加は、米国の分担を軽減する。
 逆にドイツの台頭に微妙な感情を持つ英仏両国代表部は今のところ、論評を拒否している。西側常任理事国のある外交官はそうした感情のほかに、「問題は、日独の常任理事国入りだけでは片付かないこと。常任理事国五か国対非常任理事国十か国というバランスが崩れてしまい、必ず、非常任理事国の数も増やせ、という声があがる。冷戦後のいまほど、安保理がうまく機能している時はないが、安保理議席拡大が必ずしも安保理の実効性を高めるとは思えない」と、議席拡大は、まとまりのなさをもたらしかねないと指摘する。
 さらに、「改組には憲章改正が必要だが、その際、拒否権も見直したらどうかとの圧力も出てこよう」と、既得権の拒否権否認につながる動きを懸念する本音ものぞかせる。
 これに対し、ブラジルのサーデンバーグ大使は「冷戦下で十五か国でも実効性はなかった。いまは十分とも言えない。ふさわしい議席数は、交渉で落着する。ボクシングにたとえるなら、第一ラウンドが始まった段階」と反論、秋の国連総会に向け、早くも外交戦に意欲をのぞかせている。
 日本政府は期限ぎりぎりに提案する見通しだが、常任理事国入りの意思を盛り込みたい日本としては、秋の国連総会を舞台に展開すべき外交戦略の構築が迫られている。
 
 
 
 
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