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1992/01/26 読売新聞朝刊
安保理サミット前に急務の国連改革 既得権益の壁 3分の2が分担金滞納国
 
 安保理サミットの準備に忙しい国連本部で二十二日、国連総会会議場に国連職員がまじめな面持ちで集まった。ブトロス・ガリ事務総長の就任後初の訓示である。
 「事務総長になってあきれたことは、国連職員の給与を出身国政府が補てんしていることである」。職員の間から、ためらいがちな拍手が起きた。
 国家から独立した国際公務員であるべき国連職員の一部が、母国政府から家賃補助や給与差額の名目で援助を受けているのは公然の事実。国連職員の給与は「米国の公務員よりやや良いという程度」(国連事務局)で、母国を離れて働くというハンデの割には恵まれない。だが枢要なポストにいればその国にとって有利なだけでなく、縁故で同国人の採用や昇進も期待出来るから、国際関係に敏感な政府は給与を補てんしてでも有能な自国民を国連事務局に押し込もうとする。
 国連は、国際紛争を調停する場という表向きの顔と、その間げきを縫って国益を伸長しようという各国の思惑がしのぎを削る場でもある。老練外交官のガリ事務総長も、就任早々から国連の持つ両面性を思い知らされたことだろう。
 今回のサミット開催を主唱した英国の国連代表部は、サミットの目的を「ガリ事務総長支援の体制を固めること」だと言う。だが、英国が準備したサミット宣言草案の中には含まれていない「多くの諸問題」が各国首脳の演説で提起されることを同代表部も認めている。
 米国国連協会のエドワード・ラック会長は、安保理メンバー国と援助供与国など三十か国が国連の行財政改革についてまとめた「オーストラリア・プラン」がガリ事務総長に渡されており、その方向に沿って国連の行財政改革が進められるだろうと言う。
 同プランは、事務総長に直接報告出来る約四十人の事務次長級のポストを減らし、トップ・ヘビーの状態を改める。四人の強力な次長が事務を分掌し、経済社会理事会など現在はあまり機能しない分野を縮小するよう提言。これらを断行するには事務総長の権限強化が必要だ。
 機構改革だけではない。昨年末日現在で、通常予算と平和維持活動(PKO)予算の分担金未納額は、米国の四億ドルを筆頭に、ウクライナ、ベラルーシを含む旧ソ連の二億ドル、南アフリカの六千万ドルなど巨額にのぼり、国連加盟国の三分の二が滞納している。
 だれもが国連を改革する必要を切実に感じている。だが、だれもが失いたくない既得権益や各国の国益を調整しながら、どうやってそれを達成するかが問題であり、安保理サミットの華やかな舞台の裏を流れる重いテーマなのだ。
(ニューヨーク・藤本直道)
 
 
 
 
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