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1991/12/05 読売新聞朝刊
[社説]新時代の国連 ガリ次期事務総長に望む
 
 国連総会は三日、年内で勇退するデクエヤル国連事務総長の後任として、エジプトのガリ副首相を満場一致で選出した。
 二期十年の任期を終えるデクエヤル事務総長は、アフガニスタンからのソ連軍撤退やイラン・イラク戦争の終結に尽力した。任期後半には、激増した平和維持活動(PKO)の統括に手腕を発揮した。その功績を評価したい。
 冷戦が終わり、世界はいま、国際新秩序を模索している。国際平和の確保はもちろん、地球環境の維持、人権など多岐にわたる分野で国連の機能を強化していくことが時代の要請である。
 歴代の国連事務総長は、中立・公正・普遍的な立場を生かして多くの紛争の調停に当たってきた。今後、民族摩擦など紛争の多発が予想されているが、解決は事務総長の力量に左右される面が少なくない。国際社会の事務総長の役割に対する期待は一段と高まっている。
 ガリ氏は、国際社会と国連にとってきわめて大事な時期に事務総長の重責を担うことを、まず指摘しておきたい。
 新事務総長をすぐに待ち構えているのは世界各地で展開されているPKOの最高責任者としての仕事である。
 国連は、四十六年を超える歴史で、二十四のPKOを記録している。そのうちイラク・クウェート監視団、西サハラ住民投票監視団、カンボジア派遣ミッションなど五つは、ことし発足した。以前からのも含めて十一のPKOが現在も継続中だ。
 カンボジアのPKOは、本格化する来春から一万人規模の要員が派遣されるが、ユーゴスラビアを対象とするPKOも新たに始まる予定だ。ガリ氏は、PKOに着実に取り組み、国連の平和創出機能の強化に尽くして欲しい。
 安保理の委託を受けて事務総長がPKOを迅速・効果的に組織できるかどうかは、加盟諸国が要員派遣に協力的であるかどうかにかかる。PKOの中立・普遍的性格を堅持するためにも、多くの国が要員派遣に協力することが不可欠である。
 新事務総長は国連組織の行財政改革への早急な取り組みを迫られている。国連経費の大部分を負担してきた先進諸国の間では、かねてから、職員数で肥満化した国連組織の現状に対する批判が強い。
 PKOの増大で国連経費はかかる一方である。国連活動を支える費用を加盟国が公平に負担していくことは当然の責務にしても、国連自体も、余剰人員やポストの削減を行い、無駄のない効率的な組織に脱皮する努力が求められる。事務総長権限で相当のことが実行できるはずだ。
 国際社会の構図は、国連創設時から大きく変わった。冷戦の終えんはその変化を加速した。この際、国連システムを総点検し、国際社会の現状を適正に反映する機構改革に取り組むべきである。
 国連憲章の旧敵国条項は時代錯誤の象徴だが、拒否権を持つ常任安保理国の構成なども検討の必要があろう。加盟国全体に考えて欲しい問題である。
 
 
 
 
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