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2004/07/10 毎日新聞朝刊
国連安保理:規範作り、新たな役割に テロ・核拡散防止に対応
 
 国連安全保障理事会がテロ対策や大量破壊兵器拡散防止などに関する決議採択を通じ、「恒常的な国際規範」作りという新たな役割を担い始め、国際社会で大きな関心を呼んでいる。国連外交筋や国際法専門家などは「史上、初めての現象」と指摘する。アナン国連事務総長の肝いりで発足した、緒方貞子・前国連難民高等弁務官、スコウクロフト・元米大統領補佐官ら世界の識者16人からなる「有識者諮問委員会」は、これらの点も踏まえて、今年末をめどに国連改革に向けた報告書を公表する見通しだ。国連周辺では安保理改革に向けた各国間の議論が早くも活発化し始めている。
【ニューヨークで、高橋弘司、吉富裕倫】
◇加盟国に規制強化要請
 安保理が「国際規範」作り」という新たな役割を担い、その性格を急速に変え始めた具体例として挙げられるのは、今年4月下旬採択された大量破壊兵器拡散防止策に関する決議1540だ。
 同決議は国連加盟国に対し、「テロリストなどが核兵器、生物・化学兵器、ミサイルなどを製造、取得、保有、開発、輸送、使用できないよう、法律を策定、強化する」ことを要請。「平和に対する脅威」に際し勧告を行えるとした国連憲章第7章を踏まえ、これら兵器の保有などが判明した場合、罰則を科せるよう規制強化を国連加盟国に求めている。パキスタンのカーン博士を中核とする「核の闇市場」の存在のクローズアップで採択に弾みが付いた。
 また、米同時多発テロ(01年9月)直後に採択された決議1373は、安保理への「対テロ委員会」設置を規定、国連加盟国にテロリストやその支援者の資産凍結、厳密な出入国管理などを義務付けている。その後も決議を強化する関連決議が再三、採択されている。
 米シンクタンク「国際平和アカデミー」のデビッド・マローン代表は「国際的な条約や規範作りはこれまで国連総会などの場で加盟国間で協議し、最終的には各国の議会が批准するのが通例だった。安保理での新たな流れは、緊急を要する安全保障問題に関して、国際的システムの欠陥を補っているといえる」と指摘する。同代表は米同時テロがこの引き金となったとした上で、背景には国連総会の権限が弱まっていることを挙げる。
 また、西側外交筋は「この流れはとどまることがないだろう。安保理15カ国だけの決定が即、議論に加わっていない他の加盟国を拘束するわけで、恒常化すればその合法性が問題化しかねない」と指摘する。
◇拡大見越し、勉強会−−安保理入り有力候補国
 国連改革のための「有識者諮問委員会」の報告書に対する各国の期待は極めて高い。プロウガー独国連大使は「報告書を受けた協議でもし結論が出なければ、今後20年間何も起きないだろう」とその重要性を強調する。
 国連周辺では早くも安保理入りを狙う各国の連絡会や勉強会が相次ぎ発足している。
 4月中旬にはメキシコ国連代表部の呼びかけで「友の会」という名の初会合が開かれた。日本、ドイツなど安保理有力候補国をはじめ、パキスタン、カナダ、南アフリカなど14カ国の国連大使クラスが顔をそろえた。
 メキシコのベルーガ国連大使は「たとえば安保理の制裁決議に従わなければ、武力を行使すればいいのか。順守しなければそのたび戦争になるのは問題だ。そんな改革の議論だけでなく、それを実行する核の集まりにしたい」と抱負を語る。安保理拡大には国連憲章の改正が必要だが強い抵抗が予想され、憲章に付属文書をつけて各国の妥協を引き出せないかとの提案があったという。だが、日本外交筋は「付属文書がどこまで効力を持つのか」と懐疑的だ。
 これとは別に、今年初め、日、独、インド、ブラジルの「4カ国グループ」も発足した。安保理拡大が実現した際、常任理事国の有力候補国の集まりだ。原口幸市・国連大使は「共通の利害を持つ国同士としての意見交換の場だ。しかし、共同歩調を取ると決めたわけではない」と慎重だ。
 以前から活動するスウェーデンを中心とする「16カ国グループ」、イタリアを中心とする改革に異議を唱える「コーヒークラブ」などもある。
◇改革実現に悲観論も
 97年3月、国連安保理改革作業部会議長、ラザリ・イスマイル氏が起草した改革への枠組み案(通称ラザリ案)を公表、改革機運がかつてなく高まったことがある。「現15カ国に、新たに常任理事国5カ国、非常任理事国4カ国を加え、24カ国とする」が骨格だったが、加盟国間の対立がネックとなり、結果的に改革機運はしぼんだ。
 仏外交筋は「重要なのは現常任理事国すべてが納得することだ。そうすればコーヒークラブの立場は弱くなる」と指摘する。だが、あるアジア外交筋は「常任理事国は拒否権を含め国際政治での既得権を堅持したいのが本音」と悲観的だ。
 安保理内で最も大きな影響力を持つ米国の立場について、米保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のガードナー氏は「米国は議論がまとまらず、思うように事が運べない安保理の拡大を望んでいない」と指摘。ケイトー研究所のカーペンター副所長も「ブッシュ大統領は国連への軽べつを隠さない。安保理改革の優先順位は低い」と明言する。
 
 
 
 
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