2003/10/04 毎日新聞朝刊
多国間主義、常任理事国拡大・・・国連改革望む声、一般演説で噴出 アナン氏が機運作る
◇多国間主義、安保理常任理事国拡大・・・国連改革望む声、噴出
【ニューヨーク高橋弘司】第58回国連総会で続いていた加盟各国首脳、閣僚らによる一般演説が2日、終了した。今回の一般演説で特に注目されたのは、イラクの治安悪化が世界の不安定要因となるとの認識を踏まえ、安全保障理事会をはじめ国連の改革を求める声が噴出した点だ。その機運を作ったのは他ならぬアナン国連事務総長だった。事務総長は演説で米国がイラク戦争開戦にあたって掲げた「先制攻撃」理論や一国主義を厳しく非難、国連の危機を訴え、改革に強い意欲をみせた。国連に安保理改革作業部会が設置され、本格的議論が始まってまもなく10年。「出口の見えない議論」の行方が注目される。
「合意するのに困難が伴うからと言って、失敗の言い訳にはならない」
アナン氏は先月23日、一般演説開幕にあたり、ブッシュ政権の「先制攻撃」理論に代表される「単独行動主義」をきっかけに、世界の安全保障に関する共通認識が揺らいでいるとの警告を発した。また、国連がイラク戦争を阻止できなかった経緯を踏まえ、各国首脳に国連改革を自らの問題として自覚するよう訴えた。
イラク開戦にあたり、国連の「無能」を認識し、はた目にも意気消沈していたアナン氏を再び事務総長としての使命に駆り立てたのは、8月19日に起こったバグダッド国連事務所爆破テロだった。デメロ事務総長特別代表ら22人の職員を失ったショックは大きく、総会議場で追悼式を行うなど手厚く犠牲者を弔った。
アナン氏が自ら、有識者会合設置など国連改革の積極策を打ち出した背景には「職員の犠牲を無駄にしない」との信念がある。国連外交筋は有識者会合設置方針について「加盟各国に歩み寄りの余地が見えないため、トップダウンで改革にはずみをつける狙い」とみる。
各国首脳らの一般演説は、アナン氏の演説に呼応したとみられるものが目立った。特に国連改革に積極的だったのはシラク仏大統領だ。イラクの治安悪化に言及しながら「多国間主義がカギ」と指摘。国連安保理改革に触れた中では「日本やドイツを含め理事国の拡大が必要だ」と明言した。
バジパイ・インド首相も「安保理のメンバー構成は世界の現実を反映したものでなければならない」と強く安保理理事国入りの意思を示唆した。
いわば「総論賛成、各論反対」で、特に常任理事国が拒否権行使を含む既得権を死守したい中、国連総体として国際社会の意思を反映した組織作りは容易でない。有識者会合は1年後をめどに提言を出す意向だ。
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