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2004/08/04 毎日新聞朝刊
[社説]国連軍縮会議 核不拡散に責任重い5大国
 
 北朝鮮、イランの核問題、核の闇市場など世界の核不拡散体制がかつてない挑戦にさらされている。その中で多国間協力の軸となる国連の機能と信頼をどう回復するかが問われている。
 国連軍縮局と国連アジア太平洋平和軍縮センター(石栗勉所長)が年次開催している国連軍縮会議(約20カ国、70人参加)が先週、札幌で開かれた。今年のテーマは「世界の平和と安全の緊急課題」だったが、中でも北朝鮮の核開発問題と核拡散防止条約(NPT)の強化に論議が集中した。
 北朝鮮問題は6カ国協議で外交的解決の努力を続けているが、どう決着するかは不透明なままだ。その大きな背景には、パキスタンで発覚した闇市場経由でウラン濃縮技術がイラン、北朝鮮などに拡散し、国連安全保障理事会や国際原子力機関(IAEA)がこれを食い止める効果的対応を講じていない現状が指摘された。
 こうした「抜け穴」を封じるために、米国やIAEAは不拡散強化提案や、大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)を通じた強制行動も検討中だ。国連加盟国それぞれが拡散行為を国内法で規制するよう求めた国連決議1540も成立したものの、全加盟国が足並みをそろえるには至っていない。
 参加者の多くが一致したのは、NPT体制強化と拡散阻止には国連を軸とした国際協調が一層必要になるという点だ。にもかかわらず、来春開かれるNPT再検討会議は核保有国と非核国の立場が大きく食い違い、議題すら煮詰まっていない。
 核技術の輸出管理や核査察を強化する追加議定書の普遍化なども大切だが、つまるところは核保有国であり、安保理常任理事国でもある米露英仏中の5カ国に課せられた責任がとりわけ大きい。
 6カ国協議には常任理事国のうち米中露3カ国が加わっている。協議の成否は北東アジアだけでなく、イラン問題の解決や安保理の機能回復など、世界規模で重要な影響を与える。そうした観点からも、会議では6カ国協議での中国政府の貢献を評価しつつ、「北朝鮮への外交的説得をもっと深めてほしい」との注文も出た。
 5大国の責任は核不拡散問題だけではない。イラク戦争の反省に立って、アナン国連事務総長は国際協調を通じて新たな脅威に対処するための有識者委員会を発足させた。12月には報告が出る。核・大量破壊兵器、テロなどの課題に安保理をどう強化し、国連の機能と信頼を回復するかは、常任理事国の重要な責務でもある。そのことを5大国に自覚してほしい。
 軍縮会議は今回で通算16回になる。参加者の間には「日本の外務省に発足当初の熱意が感じられない」との声があったことも指摘しておきたい。外務省は国連改革と機能強化をめざして国連強化対策本部を設置するなど熱心だが、各国や地元市民との対話を通じて国連の意義と重要性を訴える地道な努力も欠かせないはずだ。国連強化の道を足元の国内でも怠りなく進めてもらいたい。
 
 
 
 
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